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七話 本音(多分)を聞いてみた

 今日も今日とて学校に来た。

 さすがにあのクソ女は半ば孤立状態だなぁ…まぁあんなのを暴露されたらね。

 結構はっきり声聞こえてたから間違えづらいし、なによりアイツが認めちゃったからねぇ。


「おすおすお前ら」


栄渡えど…お、おっす」


「やぁやぁ晴政はるまさ、おはよー!」


 俺の挨拶に少し困りながら返事をする友人たちと、めちゃくちゃ元気な良月いづき

 どうやら俺の無実が分かってご機嫌なようで。


 あんな事があってから、友人たちは俺の顔色をうかがうような素振りをしている。

 まぁしばらくはこのままだろうが、実際彼らは別になにか害をなしてきたわけじゃないからな。

 なのでそこまで気にしなくていいんだが…まぁ余計な奴らが増長しても困るからそのままでいいか。


 ちなみにのぞみと一緒に学校に来たのだが、何故かやたらと距離が近い。

 いや何故なんて分かりきってるんだが…。


 そうこうしてるといきなり後ろから声を掛けられた。


「ハル君…」


 あぁ、なんだ莉乃りのか。


「ん?あぁおはよう、裏木うらき


「ぅ……名前…」


 ん?何か言ってるが名前でも間違えたかなぁ!(すっとぼけ)


「なんだよ、今更馴れ馴れしくすることもないだろ」


「それは…ごめんなさい…」


 なんか凄い落ち込んでるっぽい。ここまで落ち込むのならなんであんなことをしたんだよ。

 面倒臭いがちょっとだけ構っていると希は呆れたよう溜息を吐いた。


晴政はるまさも優しいね、こんなのスルーしとけばいいのに」


「言われずとも」


 いい加減そろそろ鬱陶うっとうしいのでそのままにしたが、どうやらコイツは離れる気配は無いらしいので取り敢えずスルーしておく。

 まぁまた例の友人に連れてかれてたけど。


 彼女は確かかなり真面目な性格だったよな、俺と莉乃が付き合った時も応援してくれたし。

 それにちょくちょく喋ったりもした事あって割と好印象だった…まぁそんなことはどうでもいいか。



 そんなことが休み時間の度に起こるので、昼休み、コイツにちょっとした提案、というより利用することにした。

 敢えて人気のない場所に来てみたが案の定コイツはのこのこと付いてきた。


 だからあのクソ親父から俺が有利になる証言を引っ張り出せ…そう伝えた。


「うん…なんとかやってみるね」


「なんとかじゃダメなんだよ、必ず証拠を掴め。録音でも録画でもいい…まぁ顔が見えてた方がいいけどな」


「分かった、それがハル君の望みなら」


 信用していいのか分からんか、あくまで証拠が取れればいいな!くらいにしか考えていないのでまぁいいか。

 とはいえ、ため息が出る。


「…はぁ…そこまで言うならなんであんな事したんだよ、お前のせいでこっちゃ傷だらけ。家にも居場所はありゃしない」


「うぅ……ごめんなさい」


 相変わらず謝罪ばかりだが、俺はそんな言葉が聞きたいんじゃない。


「謝罪じゃなくて、なんであんな事したのか聞いてんだよ耳ねぇのかカス」


 イラッとしたので強い口調になる。

 しかしどう言えばいいか分からないみたいなので、立ちっぱなしも足が辛いので適当な場所に座って昼食を食べながら答え易いように質問を投げる。


「まず、クソ親父とヤった理由は?」


 正直飯を食いながらするような話題ではないが、そんな事は気にせずにモグモグとコンビニ弁当を食べる。


「あの人から''お金を払うからヤらせてくれ''って言われたの、一回で五万とか貰えるから、気付いたら楽しくなってて…」


 確かにあのろくおんにもあったな。

 なんてバカな話だ、まったく呆れるよ。


「それじゃ、なんであの時あのクソに付いたんだよ」


「そうすれば追加でお金をくれるって言ってたから…まだもらってないけど」


「ほぉ、そりゃまた」


 まぁ後日渡す予定だったんだろうが、いいネタだな。この話について色々聞き出してもらおう。


「うん、その事について色々話してみる…それとね?」


「あん?」


 莉乃がなんか勿体ぶっている。モジモジしてんな気持ちわりぃ。


「やっぱり…あの人とするより、ハル君とシてた方が良かったなって…ごめんね、こんなこと言って」


 頬を朱に染めそんなことを言ってる。

 普通にどうでも良かった。


「はぁ…まぁ好きにしてくれ」


「……だから、もし私がハル君の役に立てたら…抱いて欲しい」


「え、キモっ自分が何したか分かってんのか?」


 意味わからーん!なんだよこのメンヘラみたいなの!

 あれか?ヤってる時は満たされるみたいな?必要とされたいみたいな?誰でも良いんか?


「ハル君が好きなの!それは本当!」


「お前はその好きな人が酷い目に合ってるのに笑ってたんだぞ、しかも一緒に嘘までついてな…支離しり滅裂めつれつって知ってるか?今のお前にピッタリの言葉だ」


 昼飯も食い終わったので立ち上がる。用件も伝えたしさっさと戻ろう。


「……まぁなんだ、もしお前が本気で反省してて、きちんと償うってのなら、考えてやってもいい…それだけ、じゃあな」


 そう言って振り返らずに立ち去る。

 彼女のツラは拝めないが、どうでもいいので足を進めた。



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「考えてもいい…か…」


 私はそう独りごちる。

 振り向きもしなかったハル君を見ると、きっと言っただけなのだろう。


 それでも私は、文句を言える立場じゃない。


 あれだけの事をした私は、あの時彼とすぐヨリを戻せるだなんて本気で考えていた。

 今になって考えると有り得ないよね。


 そして昨日の朝、あの音声を聞いた時は冷や水を掛けられたのかと錯覚するほど背筋が冷えた。


「馬鹿だなぁ…ホントに…」


 誠実な彼を裏切って、あんなおっさんに身体を売って…後悔ばかり。


 昨日は両親にも怒られた。

 二人ともハル君の事は凄く気に入っていて、私たちのことを応援までしてくれていた。


 ……私はそれを壊してしまったけど。


 だから父さんも母さんも、ハル君の望みは必ず応えろと言っていた。


 覆水ふくすいぼんに返らない。

 なら私の出来ることをするだけ…たとえ命を懸けてでも。

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