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貴族のお嬢様を顔面グーしたら親友になりました
貴族のお嬢様を顔面グーしたら親友になりました
右助
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年06月26日
公開日
1.7万字
連載中
女生徒レリア・ティームスは、力を振り回す者が大嫌いだ。 そんなレリアがアスガスタ王立魔術学校へ入学する途中で、アルタナという少女がいじめられている場面に出くわした。 首謀者は貴族のお嬢様ネイティス・スプレワール。 レリアは迷うことなく行動した。つまり、 貴族のお嬢様であるネイティス・スプレワールの顔面を殴った!! この後、親友になります。 ※文字数は1話あたり大体2,500~3,000文字くらいです。サクサク読めます。

第1話 レリア、貴族の娘を殴る




 茶髪の少女、レリア・ティームスが貴族の娘を殴った!!!




「ふーん。貴族の娘を殴った感触はこんなもんか」


 周囲がざわつく。しかし、そのようなざわめきはレリアにとってはそよ風に等しい。なんなら、殴った感触をメモ帳に記録していた。

 対する殴られた金髪の少女、ネイティス・スプレワールは顔を真っ赤にし、全身を震わせている。


「貴方! わ、わたくしの頬に今、何をしたの!?」

「? 拳で口づけしただけだよ。ムカついた奴を黙らせるにはこの手に限るよね」

「野蛮な言葉ね。それに貴方、良く見ると知らない顔ね。途中入学の方かしら? まぁこの際、どうでもいいわ。わたくしが誰か知ってのことよね……!?」

「どっかの貴族の娘までは分かるよ? どこの家かは分からないけどさ――」


 レリアの視線が赤髪おさげの少女へと向く。その後、ネイティスと彼女の後ろにいる取り巻きをちらりと見た。


「多が個に理不尽をしているのを見ると、この後の昼ご飯がマズくなるんだよね。申し訳ないんだけど、私の楽しみを邪魔しないでもらえるかな?」

「貴方の楽しみなんて知ったことではないわ! このネイティス・スプレワールの邪魔をするということは、貴方もこの子のようにされるのがお望みということね」


 赤髪おさげの少女は怯えた目でレリアを見ていた。

 それもそのはずで、レリアが殴ったネイティスという少女はそれほどの大物だったのだ。


「スプレワール……。優れた魔術士の家系だったよね? 初めて見た」


 スプレワール。レリアはその名を知っていた。

 魔物を倒すための魔術を使うことが許された人間を『魔術士』と言う。つまり、レリアの目の前にいるネイティスもその優れた魔術士の血を受け継ぐ存在。

 レリアは興味深そうにネイティスを見つめる。正確には、彼女の右人差し指についている指輪を。


「その指輪、『魔術手形まじゅつてがた』だよね? 良い素材を使っているね。リグバッド鋼の希少部位で作られた特注品ってところ?」

「! へ、へぇ……庶民でも分かるのね」

「勉強しているからね」


 ネイティスは驚いていた。一目見ただけで希少金属であるリグバッド鋼製ということが分かったのもそうだが、その中でも更に希少な中央部のみで作った特注品であると、なぜ分かったのだろうか。

 疑問を口にしようとしたところで、ネイティスは口を閉じた。

 貴族が庶民に疑問を投げかける姿など、格好がつかない。


 話をそらそうと、ネイティスは赤髪おさげの少女を睨みつける。

 赤髪おさげの少女はびくりと身体を震わせた。


「アルタナ、これは貴方の差し金かしら?」

「ち、ちがっ……! うちは何にも頼んでないよ……」

「絶対に貴方でしょう! そうじゃなければこのわたくしに対して、こんな野蛮な真似、出来るわけがないわ!」


 アルタナ、と呼ばれた赤髪おさげの少女は必死に弁明する。ネイティスはすっかりアルタナを疑っているようだった。


「よく分かんないけど、そのアルタナって子からは別に何も頼まれていないよ。というか、いま名前知ったくらいだし」

「そうやって二人で示し合わせているつもりね。庶民同士、仲がよろしいことで」

「私は庶民って名前じゃなくて、レリア・ティームスって名前。今日からここの生徒なんだ、よろしく」

「そんなことはどうだっていいのよ!」

「良くないよ。あんたが名前を大事にしているように、私だってこの名前大事にしてるんだから」

「あぁもう! 口が減らない! あまりわたくしを怒らせても良いことはありませんわよ」


 ネイティスが右人差し指をレリアへ向けた。これが意味するところは一つである。


「人に魔術を使うことは禁止されているよ。良いの? 捕まるけど」


 レリアも僅かに右手を動かした。その人差し指にはネイティス同様、指輪がつけられていた。

 このアスガスタ王国では、人に魔術を使うことは禁止されている。

 魔術を使うことが許される相手はただ一つ。


「では認定してあげるわ。貴方、『魔物』なのよ。人間に危険な存在なの」

「魔物……魔素集合変異生物、か。確かに私達もある意味、魔物かもしれないけどね」

「見たところ、貴方も魔術士のようね。抵抗しても良いわよ?」

「ね、ネイティス。あ、あぶないですよ……」

「アルタナは黙っていなさい!」


 ネイティスは止めようとしたアルタナを一喝する。力関係は明白。アルタナでは、ネイティスを止められないのだ。


「名も知らぬ転校生。わたくし、こう見えても魔術士科の主席なの。そんなわたくしと貴方との力関係は明白。そうよね?」

「頷けないね。まだ互いの力も確認していないのに、そんな結論は口にできない」

「! 本当に減らず口を……! ええい、良いわよ。それならば身をもって、このネイティス・スプレワールの魔術を確かめてみると良いわ!」


 ネイティスの右人差し指が光る。

 これは魔術を効率よく行使するための魔具『魔術手形まじゅつてがた』が放つ輝きである。

 装備者であるネイティスの魔力を収束し、魔術を使うための稼働を始める……!


 ネイティスの魔術行使はもう間もなく。

 一触即発の空気。待ったなしの緊張感。


 何故、このような状況になっているのか。



 それは、一時間前に遡る……!

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