目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第9話 レリアの思いつき

 レリアは今日も今日とて真面目に授業を受けていた。

 ありとあらゆる情報が魔人を殺すための知識となる。一秒たりとも無駄にしている時間はないのだ。


「おはよう、レリアちゃん」

「ん、おはよ」


 ネイティスとの戦い以降、アルタナと話す機会が増えた。

 アルタナ曰く、『ネイティスに何かされないように』という理由だ。その理由を聞いた瞬間から、レリアはすっかりアルタナを気に入ってしまったのだ。


 自分の力は分かっているはずなのだ。それでも出会って間もない人間のために、精一杯の勇気を振り絞って戦ってくれようとする。

 その心意気が、レリアの胸を撃ち抜いた。


「今日もネイティスに嫌がらせされた?」

「う、ううん。最近は何にもされていないよ」

「……ふーん。それなら良かったじゃん。けど、何だか表情が暗いように見えるけど」

「うっ……!」


 アルタナは悩んでしまった。正直に今の現状を伝えるべきかどうかを。


(どうしよう……かな)


 アルタナは最近、静かに教室を出るネイティスを不審に思い、こっそり後をつけていたのだ。

 そこで彼女は信じられない光景を目にした。


(ネイティスがいじめられていること、言った方が良いのかな)



 ネイティス・スプレワールは今、取り巻き達から嫌がらせを受けている。



 しかも一度や二度じゃない。回数としては、両手じゃ足りないくらいだろう。

 タイミングとしてはきっと、レリアと戦った後からだ。

 きっとあの戦いを目にした取り巻き達が手のひらを返し、徒党を組み、ネイティスへ復讐をしているのだ。


「ねぇ……レリアちゃん」

「うん? どうしたの? さっきの授業で分からないところでもあった?」

「あ、や、そういうのじゃ、ないんだけど」


 きっとレリアなら、助けてくれるだろうとアルタナは思った。

 しかし、レリアもネイティスから嫌がらせを受けていた身だ。そもそも助ける義理など一切ない。


 そしてその話は、アルタナ自身にも適用される。

 自分も嫌がらせを受けていた。そもそもこのように気を揉む必要もない。


「ふーん、そういうのじゃないんだ」


 レリアは一度クッションを置く。

 言いづらそうなので、そろそろこっちから切り出してやろうと決めたのだ。


 結論から言って、アルタナが考えていたことは全て、良い意味で無駄だった。


「ネイティスのことなら気にせず喋っても良いよ」

「え、な、何で分かったの!?」


 アルタナは驚きすぎて呼吸を忘れそうになった。

 そんな彼女のリアクションが面白かったのか、レリアはくすりと笑う。


「そりゃあれだけネイティスのことチラチラ見てたらね」

「あっ……、うちそんなに見てた?」

「そりゃあもうね」


 アルタナは体の力が抜けてしまった。色々と考えていたのが馬鹿らしかった。

 それならば、とアルタナはレリアへ話をする。


「ネイティス、最近嫌がらせを受けているみたいなんだ」

「それで私に助けを求めた、と」

「そう……なんだよね」

「助けるのは別に良いんだけど、それをネイティスが受け入れるかって話なんだよね」

「それってどういう……?」

「回りくどい言い方したね。要は私やアルタナが助けて、それでネイティスが喜ぶかってこと」


 それに関して、アルタナは既に答えがあった。

 当然、悪態をつくだろう。そもそも、ネイティスの力なら、そんな奴らをぶっ飛ばすなんて簡単なはず。

 それでもネイティスがその嫌がらせを甘んじて受け入れている理由とは……?


「それに、アルタナはそれで良いの? アルタナもネイティスには嫌がらせされてたでしょ? ザマミロって思わないのかな?」

「思わない」


 アルタナは驚くほどすんなりと答えることが出来た。

 彼女のしてきたことは許されることではない。もちろん、アルタナ自身もそれなりに嫌な思いをしてきた。

 だからといって、その苦しみを誰かに与えて良いわけではない。

 それに、ネイティスは最初からそういう・・・・人間ではないことも、アルタナは知っていた。


 悪いことは悪い。けど、復讐とかそういう気持ちは一切ない。

 アルタナとしては、そういう気持ちだった。


 思いを聞いたレリアはポカンとしてしまった。


「……驚いた」


 無意識に口に出してしまったその言葉。それはレリアの素直な気持ちだった。

 これほどの善人、悪い言葉を使えば、これほどのお人よしがいたなんて、という思いだった。


 これで復讐でも望んでくれるなら、もっとやる気になれただろうに。

 レリアはすっかり調子が狂ってしまった。


「分かった。とりあえず出来る限り動いてみるよ」

「! ありがとう、レリアちゃん!」


 そこからは作戦会議の時間だった。

 単純に取り巻き達を叩き潰すのも良いが、それでは根本的な解決にはならない。


 人間はドラマティックな出来事に対して、心が動く。

 何かいい方法がないか考えていると、アルタナが良き情報を提示してくれた。


「そういえば話は変わるけど、次の次の授業がいよいよ魔物と戦う授業だね。複数のクラスでやるみたいだよ」

「魔物と戦う授業……か」


 魔物――魔素集合変異生物の略称。世界に満ちる未知の物質の集合体。

 レリアにとっての最終目標は例の魔人を倒すことだが、人を困らせるなら魔物も倒す。そういうモチベーションだった。


 アルタナの話を聞いて、レリアは思考を巡らせる。

 魔物、ネイティス、取り巻き、嫌がらせをなくす、なるべくバレないように、などなど。様々な要素を考慮に入れ、レリアは冗談交じりに策を呟いた。


「魔物にあいつらを襲わせて、ネイティスに何とかさせるって案はどう?」

「駄目」

「……ネイティスがあいつらに恩を売れるような状況に持っていくとか」

「それ、何一つ変わってないよ?」

「……一理ある」


 アルタナは笑顔だったが、目だけは笑っていなかった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?