地面を走る鉄の塊もない全く異なる世界線、いわゆる異世界。
もちろん空を飛ぶ鉄もないし、ピヨピヨとなる信号機もない、貴族社会が当たり前の世界。
城下町はたくさん栄えていて、冒険者が集っているが辺境辺りはそうでもない。そんな世界。
その世界で、森に囲まれたポツンと集落のような村が存在した。
その村は知ってるものは数が限られているけれど星の神様に愛されている、そんな伝承があった。そのおかげか星を見るには絶景の場所だった。
ある晩、出稼ぎに行っていた村の者が久しぶりに帰ってきたということで村の者たちは喜び、宴だ!と祭りを始めた。
酒をたらふく飲み、川にいる魚を裁きつまみにして食べたり、踊ったり、歌ったりしているとふと違和感に気づいた。隣にいた少女が忽然と消えている。
「……エミル…?」
村の人達は急いで探し始めた。数少ない、家族のような者が怪我をしているかもしれない。もしかしたらモンスターにでも襲われてもう…。
大人達は日が明けるまで探したが少女の痕跡一つも見つからないので、しまいにはそんなことを言い出した。
それを聞いていた少女の姉――ルミルは怒った。
「勝手なこと言わないで!エミルが死んだ証拠なんてどこにもないくせにっ!!」
悲痛の叫びが辺りに響いた。
「…すまねぇ、そりゃあ悪かった」
「もう一回探しに行こう。」
大人達は罪悪感で胸を締め付けられ、もう一度探したところを丁寧に、くまなく探し回った。
けれど、少女――エミルは見つからなかった。
そうして数年が経った。
村の人たちは諦めかけていた。それでもルミルは諦めなかった。
物心がついた頃からルミルとエミルには親の代わりがいても親はいなかった。村の人達は親がどんな人だったか、どうしていないのか教えてはくれなかった。
ルミルは周りの子ども達からはあまり好かれてはなかった。自分だけの親が自分以外の子供を構うのは面白くないのだろう。その子ども達は結束し、ルミルに石を投げたり悪口を言ったりと親が見てないところでやりたい放題にしていた。
「いっ、いたいっ、いたいよぉ…」
「いたいよぉ…だって!」「ダッサ!」
ケラケラと笑い、バカにしたような目でこちらを見つめてくる目が嫌悪しかなく人そのものがいつしか嫌いになっていった。
いじめられて石が痛くて、視線が痛くて、こわくて泣きたくて、なんで私がこんな目に!私も親が欲しかった!自分の親が欲しかった!頭を撫でて欲しかった!たくさん、あいしてほしかった!私にも、家族が…!
「ねちゃ、たいたい?」
雑音が聞こえなくなった。その声だけハッキリ、鮮明に聞こえた。
「よちよち、たいたい、なーい!」
キラキラとした笑顔で私の怪我したところを撫でて空へと掲げた。
それだけで、なぜか心が軽くなった。
ねえ、それって私の真似かな?…あぁ、可愛いな、私の
「……」「んむ?」
私は目の前の小さな肩を抱き寄せ、静かに涙を流した。
「っ、エミルっ…?」
……あぁ、昔の夢か。
「…久しぶりだな、この夢。」
コンコンと古いドアがノックされた。
なにやら帰還した村の人が話したいことがあるらしい。なにか手がかりになるといいけれど。
「…実は、僕妹さんがどこにいるか知っているんだ。」
バンッ!!
私は思わず机を叩き身を乗り出す。相手の胸倉を掴み上げ、顔を近づけた。
「なんで、なんで今まで黙ってたの?」
嘘をつかれてもこの距離なら瞳孔や目の動きで嘘かそうじゃないかが分かる。昔大人の言うことさえ信じられなくて大人の嘘を見破るためにこの技術を身につけた。エミルにそう言ったら凄いと褒めてくれた。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「ま、待て!ひとまず説明させてくれ!」
……落ち着け、ルミル。冷静になれ。
ふぅと一息つき興奮を沈めた。
「……で、なんで知っているの?なんで黙っていたの?」
詰めるような言い方をわざとし促した。
「…僕は魔力探知が得意で、それを利用し魔鉱石がある山や鉱山にいって金を稼いでいた。でも僕は火を出す魔法、『フレイム』や水を出す魔法『アクア』などの攻撃・防御魔法が使えなかったんだ。その代わりといって魔力探知は一級品だけれど。
それで僕は洞窟やダンジョンにも魔鉱石があると分かり冒険者に依頼したんだ。ギルドっていうところなんだけど。そこで妙な話を耳にした。どうやら僕達の村の周りの森は良く星が見える。それは知っているだろ?それが星の神様に愛されているとかなんとか。…その神様には愛してもらえるように代々生贄が捧げられている。それがこの村の者の使命らしい。でも大人達や村長がどうのこうのっていうことじゃないらしい。
…選ぶんだと。神様が。どいつを喰らうか。…その、それで僕がいるところがわかったっていうのと今の話は関係してて、…森の奥にあったんだ。微量だけど魔力が。妹さんの魔力が。もしかしたら、攫っていったのは神様かもしれない。」
「………その魔力は残ってる?」
「え?あ、うん…」
「…そっ、か…ありがとう、教えてくれて。」
「…覚えてないかもしれないんだけど。」
「ん?」
「…僕も、君のこと虐めてたんだ。石を投げたりはしてないけど。見て見ぬふりをしてた。自分が、いじめられたらって考えたら、動けなかったっ、」
ポロポロと大粒の涙が頬を伝って下に落ちる。
「ごめんっ、ごめんっ、!」
「……許してはあげない、」
私、そんなにエミルみたいな優しい人間にはなれないんだ。
「……っ、…うん」
「でも、感謝はしてる」
「……え」
席を立ち、くるりと踵を回転させる。
「そのおかげで、私は大切な家族に会えた。そして今も。」
「今、って…!も、もしかして行くの?!」
「ええ、もちろん」
「神様が相手だぞ?!絶対に無理だ!」
「……神様がどうだとか知らないわ。私は家族を連れて帰る。それだけよ」
「…………はは、やっぱ君は強いね」
「エミルがいるからじゃない?」
「じゃあ妹さんだな、強いのは」
顔色は青白い、けれど笑っていた。
その笑顔は何を意味するのかは分からなかったけれど。
「そうよ、強いのよあの子は」
だから、決してあの子をあげたりなんかしない。私の、私だけの家族。他の誰にもあげたくない。私の光。
夜、村の皆が寝静まった後、一人の少女が森へと駆け出した。
村の皆はこっちは行ってはダメだと言っていた。理由は皆知らないらしい。村長だけは顔色が暗かったが。
森の奥へと進むほど暗くなってゆく。体力的にも厳しくなってきたので少し木陰で休むことにした。ふと光が見えたので上を見上げたらたくさんの、見たことの無いほどの数の星が空に輝いていた。
「…綺麗」
「だろ?」
「っ、誰!!」
「大きい声を出すなよ、モンスターが起きちまうぜ?」
暗闇の中から黒い自分の膝下ぐらいの大きさのなにかが歩いてきていた。
「…よぉ、人間。」
「……猫?」
「そうだ、俺は案内猫のハル。」
「あ、案内猫?」
案内人なら分かるけど、案内猫…??
「俺の姿を見て人もおかしいだろ」
「こっ、心読まれた?!」
「顔に書いてあんだよ」
バカにしたような呆れたような顔をしてやれやれとでも言うようにため息をつき、テンプレのような言った。
「人間。お前がここに来た理由はなんだ。人探し?星の観測?モンスター狩り?それとも――」
「人探しです」
「最後まで聞けよ!!」
モンスターが起きるんじゃなかったの??
「はぁ、…で、人探しだっけ?どういうの探してんの?」
「可愛くてまるで天使みたいでこの世のものとは思えないほどの美貌で、いやでも美貌っていうか可愛いっていうか?モンスターとか怖いはずなのに寄り添えちゃうお人好し。素晴らしい心の持ち主マジ天使。私の妹とは思えない。でも妹なんだなこれがマジ前世の私グッジョブ。んでそれから~~~」
「て、聞いてる?」
「あーうん聞いてる聞いてる」
「聞いてないじゃん!」
「てか見たことねぇよそんなやつ」
「じゃあ、星の神様って知ってる?」
ピクと耳が動いた。
「…知ってどうすんだ?」
「殴って妹返してもらう。」
「………は??」
「そしたら帰るからそこまでの案内もよろしく。」
「…いや、え?神様なんだろ?」
「いや、妹を攫う不審者です」
「……あっははははっ!」
ポカンとアホ面晒したかと思えば爆笑し始めた。
なんなのよこの猫。
「ひーっひひっ!馬鹿だろお前!!馬鹿だろ!!!」
「二回言うな!!」
「あいてっ、」
「あー笑った笑った」
「笑うんじゃないわよ」
「はー、久しぶりに面白い人間に会えた。」
なんか体力回復させるはずが消耗した気がする…。
「いいよ」
「?なにが?」
「案内、してやんよ気に入った」
「……上から目線なのが気になる」
「お?なんだ喧嘩か?」
「やめて、バカバカしくなってくる、」
「喜んで買うぞ人間」
「……ルミル。」
「ん?」
「私の名前。ルミルよ。よろしくね、ハル」
「………変なやつだな、ルミル」
「失礼なんだけど??」
…全部が終わったあとにエミルに話すこと、増えたかも。
―――物語の幕は開いた。