「や、やんのですかぁ? やんのですかぁ!?」
カア―! カアア!!
「き、昨日のようにとびかかってくるがいいです! 今日こそ、私は遅刻を回避してみせるので……あああああッ、ごめんなさいごめんなさい!!」
ガア!! ガアーー!!
バサバサバサバサ!
黒い羽が舞い散り、くちばしと脚が痛い痛い痛い!
「たしゅけて! 誰かたしゅけてくださーーーい!! いたたいだだだだだ!! ひぃいんん!!」
お父さんお母さん、私は死にます。
先立つ不孝をお許しください……。
カアーー!?
「柊さんは相変わらず面白いわね」
「だ、誰でしゅかぁ?」
鼻水と涙で濡れる顔をあげる。
私と同じ高校の学生服を着た女の子が、学生カバンをはたきながらチェシャ猫のように笑っていた。
「おはよう。今朝もいい負けっぷりだったわよ柊さん?」
「ね、猫野さん!」
私は後ずさりする。
転校生の猫野奈々さんはおかしな人だ。
容姿端麗で頭脳明晰、運動神経もよくて、転校初日からクラスメイトの注目の的。
みんなから声を掛けられ、会話を求められていると言うのに、彼女はことごとくそれを無視して、教室の空気と一体化していた私のところへきた。
『私、あなたに興味があるの。お友達になってくれない?』
クラスメイトの半分はその瞬間に猫野さんへの興味を失い、もう半分は彼女に変人の烙印を押した。
私だってそう思う。
何故教室の隅で一人縮こまっているようなコミュニケーション弱者をわざわざ一人目のお友達に選ぼうとするのか。
ウサギが仲間のもとを去り地中のモグラと交流を築こうとしているようなものだ。
絶対におかしい。
「なによ変人を見るような目で見上げて。それとも見惚れちゃった? 友達から一歩恋人にクラスチェンジしてみちゃう?」
耳元で囁かれて、私は飛び退く。
「い、いい、いけませんです! わ、私みたいなのと付き合ったら猫野さんがかわいそうです! お断りします!!」
あと、ちょっと猫野さんが怖いのもある。
「律儀なお返事ありがと。残念ね。……それよりもいいの? もう少しで8時30分だけど」
「ああ! も、もうそんな時間に! なんで猫野さんはそんな悠長な……??」
同じ遅刻仲間のはずなのに、解せぬ。
「私は別に遅刻を気にしてないからかしら。柊さんと一緒なら楽しいわ」
……やっぱりこの人、変人だ。
「も、もう、走らないと間に合わないです……よ?」
バサバサバサバサ!
カーカー!! ガア! カァカァ!!
頭上の電線にこれでもかと大量のカラスが止まって、一斉に私を見た。
「ひぃい! なんで! どうしてこんにゃにぃ! さっき謝ったじゃないですかぁ!!」
追いはらったのは猫野さんなのになんでこっち見るの!
「あららぁ~、柊さん前世でカラスに何か恨まれるようなことでもしたの?」
バサバサバサバサバサバサ!
「し、しししてないですよたぶん! ああ、こっちきたァ!! たしゅけてえええええええ!!」
「いい悲鳴ね柊さん。うふふふ、もっと聞かせて?」
この人並走して囁いてくるよぉ! 何考えてるかわからない! 怖い、怖いよぉ!
「ね、猫野さんのばかぁああああ!!」
カアーー!!