目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第4話 はじめてのクラスメイト

「それで?」


 ゆあちゃんの部屋に入って床にあぐらをかくと、ゆあちゃんがぷんぷんしながらオレのことを見下してきた。腕を組んで怒った態度を取っている。オレはそんな態度を無視して、テンション高めに話し始めた。


「そうそう!オレさ!昨日、東京駅のダンジョンに行ったんだけど!モンスターを倒してスキルを手に入れたんだ!その話がしたくて!」


「ダンジョン?モンスター?りっくんまたダンジョンに忍び込んだの!?危ないことしたらダメだって言ったでしょ!怪我!怪我してない!?」


 ゆあちゃんが心配そうにオレの身体を触ってくる。


「大丈夫だって。そんなことより聞いてよ!そのスキルってのがさ!」


「そんなことってなに!?」


 ひときわ大きな声をあげられ、ビクッとする。


「ゆあは!りっくんが死んじゃうかもって心配で!心配で!ダンジョンなんかに入ったらダメだよ!」


 涙を流されて、少し頭が冷えた。正面で女の子座りしている幼馴染に向き直って正座に座り直す。落ち着いた声で、自分の気持ちを伝えることにした。


「……ごめん。でも、オレはうみねぇちゃんを助けるまで、やめる気はないよ」


「……ぐすっ……そんなの無理だよ……」


「無理じゃない。オレは高校生が負けたモンスターだって倒せたんだ。それに、スキルだって手に入れた。これからオレが東京駅ダンジョンを解放してみせる」


「……スキルってなんなの?」


 オレが冷静だとわかったからか、ようやく話を聞いてくれる気になったようだ。


「そうそう!そのスキルなんだけど!元々は群れの統治者ってスキルで!今は翻訳されてクラス替えってスキルになったんだ!」


「……スキルって、ダンジョン踏破者しか、もらえないんじゃないの?」


「それがさ!ユニークモンスターを討伐したとかで手に入れたんだ!とにかく聞いてよ!」


 それからオレは、左腕のエニモで空中にモニターを映しながら、スキルの説明をした。

 説明を聞き終わったゆあちゃんは、


「で、ゆあにこのクラスに入れってこと?」


「そう!ゆあちゃんなら入ってくれるでしょ!?」


「……イヤ」


「なんで!?」


「だって……ゆあが協力したら、りっくん、またダンジョンに行くんでしょ?」


 また、泣きそうな顔で見つめられてしまう。


「……ゆあちゃんが協力してくれなくても、オレはダンジョンに潜るよ」


「……バカりっくん……」


「ごめん」


「……わかった。入ってあげる!」


 意を決したように涙を拭いて強い顔をするゆあちゃん。


「ほんとに!?」


「でも!その代わり!これからはゆあも一緒に行くから!」


「一緒に行く?どこに?」


「ダンジョン!」


「え?……それは、ゆあちゃんには無理……」


「無理じゃない!ずっとアーチェリーだって続けてきた!ゆあも戦える!」


「でも……」


「なら入ってあげない!」


「そんな!?困るよ!」


「そーだよね!りっくんはゆあしかお友達いないもんね!陰キャ!」


「そそ!そんなことなしぃー!?ゆあちゃん意外にもたくさん友達いるしぃ~?」


 嘘であった。嘘を言っている自分にダメージが入る。


「嘘ばっかり!学校でも休憩時間ずっと寝たふりしいてるでしょ!友達がいないから」


「ち、ちち!ちげーし!なんで知ってんだよ!隣のクラスのくせに!バーカ!見た目だけギャル!リア充詐欺!」


「リア充詐欺ってなによ!ちゃんとリア充だもん!りっくんと違って友達たくさんいるもん!」


「うぐぅ……わ、わかった……こ、降参だ……」


 オレは、苦しくなって両手を上げた。ゆあちゃんは満足げな顔をしている。


「じゃあ、ゆあがそのスキルに加入してあげる代わりに、ゆあもダンジョンに連れていくってことでいいよね?」


「わかった……でも、今まで通り、お母さんやおばちゃんには内緒だぞ?それと、しばらくは、ゆあちゃんのこと訓練するから。オレが合格を出すまではダンジョンに連れて行かない」


 これなら、適当に修行つけて疲れたところを放置して、ダンジョンに潜っても言い訳ができるだろう。ふふふ……


「……なら、ゆあが入れるようになるまで、りっくんもダンジョン禁止」


「え?……いや、それは……」


 なんという幼馴染。オレの心を読めるのだろうか。


「この条件を飲まないなら協力してあげない!バカりっくん!」


「わ、わかった……全く納得してないが、その条件を飲もう……ゴクゴクと……」


「なによそれ、バカみたい。それで?ゆあはどうすればいいの?」


「んー?どうすればいいんだろうね?」


 言いながら、《クラス替え》スキルを操作し、モニターに映るオレの座席の右隣をタップしてみる。空席になっている座席だ。すると、


―――――――――――――――――

新メンバーを加入させますか?

Yes or No

―――――――――――――――――


と表示された。


「おお?YESっと」


――――――――――――――――――――

加入させる新メンバーは的場柚愛ですか?

Yes or No

――――――――――――――――――――


「ゆあちゃん、いい?」


 隣に寄り添い、肩が触れている幼馴染に確認する。


「う、うん……」


 ゆあちゃんがモニターを覗き込み、ごくりと喉を鳴らすのが聞こえてきた。オレも少し緊張しながら、YESボタンを押す。


―――――――――――――――――――――――――――――

的場柚愛がクラスに加入しました。

的場柚愛の好感度を計測し、咲守陸人の統率力に反映します。

―――――――――――――――――――――――――――――


「好感度?りっくん?これでどうなるの?」


「さぁ?」


 一緒にモニターを見るゆあちゃんに生返事をしていると、ローディングバーが100%になって、メッセージが更新された。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

的場柚愛の好感度は93でしたので、咲守陸人の統率力に93を加算します。

統率力が一定値をこえたため、ステータスボーナスが発生します。

統率力のボーナスポイントとして9ポイント、加入特典として5ポイントが加算され、合計14ポイントが付与されました。

現在付与可能なステータスポイントは、19ポイントです。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 一気にメッセージが表示され、若干混乱する。順番に見ていこう。まず、ゆあちゃんのステータスだ。オレの右隣の席には的場柚愛の名前があり、それをタップするとゆあちゃんのステータスが表示された。


――――――――――――――

氏名:的場柚愛(まとばゆあ)

年齢:12歳

性別:女

役職:なし

所有スキル:なし

攻撃力:5(E)

防御力:3(E-)

持久力:5(E)

素早さ:11(E+)

見切り:7(E)

魔力:0(E-)

精神力:25(D+)

学級委員への好感度:93/100

総合評価:E

――――――――――――――


「よわっ、雑魚じゃん」


「なにそれ!ひどい!バカりっくん!」


 ゆあちゃんに頭をポカポカされた。


「あーもう……痛いなぁ」


「そういう、りっくんのステータスはどうなのよ!」


「ん~?はいどーぞ」


 オレは自信満々に自分のステータスを表示させる。


――――――――――――――――

氏名:咲守陸人(さきもりりくと)

年齢:12歳

性別:男

役職:学級委員

所有スキル:クラス替え

攻撃力:14(E+)

防御力:19(D-)

持久力:68(B+)

素早さ:23(D)

見切り:8(E)

魔力:0(E-)

精神力:65(B+)

統率力:93(E-)

総合評価:D+

――――――――――――――――


「ふふふ」


「うわっ……つまり、ダンジョンに忍び込む精神力を持つ、サイコパス体力バカってことね……」


「なんだよそれ!……まぁ、持久力はめっちゃ高いよね。自覚なかったけど」


「毎日のように片道3時間かけて東京駅ダンジョンに通ってるからでしょ?バカみたいに、修行だー!とか言いながら」


「あーなるほど?ちなみに今は片道2時間でたどり着けるよ」


「へ~……」


 ゆあちゃんが白い目を向けてきたので、一旦オレのステータスは閉じて、もう一度、ゆあちゃんのステータスをじっくりと見た。


「ゆあちゃんの方は、基本雑魚だけど、好感度ってのだけ異様に高いな。93/100だってさ?」


「へ?……な!?ななな!?」


 ゆあちゃんがモニターを確認して、ゆでだこのように真っ赤になっていった。


「なに赤くなってるの?」


「だ!だってこれ!」


 プルプルと震えてモニターを指差しているが、オレはそれよりも伝えたいことがあった。ゆっくりと口を開く。


「なんか、ありがと」


「へ?」


「オレ、ゆあちゃんに好かれてるって確認できて、なんか嬉しいや」


「……りっくん」


「オレ!ゆあちゃんと友達で良かった!」


「は?……りっくん?」


「じゃあ!オレさっそくこのステータスボーナスっての試してみるから!また明日!あ!明日から訓練だかんな!朝からランニングするから!あとでメッセする!じゃな!」


 オレははやる気持ちを抑えてゆあちゃんの部屋から駆け出した。

 ボーナスポイントとかいうのを、自分のステータスに割り振ったらどうなるのか、楽しみで仕方がなかったからだ。


「……ッー!!りっくんのバカー!!」


なんか、ゆあちゃんの部屋から怒鳴り声が聞こえてきたような気がするが、気にしない。オレは柚愛ちゃんの家から飛び出して、自宅に戻ることにした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?