「それで?」
ゆあちゃんの部屋に入って床にあぐらをかくと、ゆあちゃんがぷんぷんしながらオレのことを見下してきた。腕を組んで怒った態度を取っている。オレはそんな態度を無視して、テンション高めに話し始めた。
「そうそう!オレさ!昨日、東京駅のダンジョンに行ったんだけど!モンスターを倒してスキルを手に入れたんだ!その話がしたくて!」
「ダンジョン?モンスター?りっくんまたダンジョンに忍び込んだの!?危ないことしたらダメだって言ったでしょ!怪我!怪我してない!?」
ゆあちゃんが心配そうにオレの身体を触ってくる。
「大丈夫だって。そんなことより聞いてよ!そのスキルってのがさ!」
「そんなことってなに!?」
ひときわ大きな声をあげられ、ビクッとする。
「ゆあは!りっくんが死んじゃうかもって心配で!心配で!ダンジョンなんかに入ったらダメだよ!」
涙を流されて、少し頭が冷えた。正面で女の子座りしている幼馴染に向き直って正座に座り直す。落ち着いた声で、自分の気持ちを伝えることにした。
「……ごめん。でも、オレはうみねぇちゃんを助けるまで、やめる気はないよ」
「……ぐすっ……そんなの無理だよ……」
「無理じゃない。オレは高校生が負けたモンスターだって倒せたんだ。それに、スキルだって手に入れた。これからオレが東京駅ダンジョンを解放してみせる」
「……スキルってなんなの?」
オレが冷静だとわかったからか、ようやく話を聞いてくれる気になったようだ。
「そうそう!そのスキルなんだけど!元々は群れの統治者ってスキルで!今は翻訳されてクラス替えってスキルになったんだ!」
「……スキルって、ダンジョン踏破者しか、もらえないんじゃないの?」
「それがさ!ユニークモンスターを討伐したとかで手に入れたんだ!とにかく聞いてよ!」
それからオレは、左腕のエニモで空中にモニターを映しながら、スキルの説明をした。
説明を聞き終わったゆあちゃんは、
「で、ゆあにこのクラスに入れってこと?」
「そう!ゆあちゃんなら入ってくれるでしょ!?」
「……イヤ」
「なんで!?」
「だって……ゆあが協力したら、りっくん、またダンジョンに行くんでしょ?」
また、泣きそうな顔で見つめられてしまう。
「……ゆあちゃんが協力してくれなくても、オレはダンジョンに潜るよ」
「……バカりっくん……」
「ごめん」
「……わかった。入ってあげる!」
意を決したように涙を拭いて強い顔をするゆあちゃん。
「ほんとに!?」
「でも!その代わり!これからはゆあも一緒に行くから!」
「一緒に行く?どこに?」
「ダンジョン!」
「え?……それは、ゆあちゃんには無理……」
「無理じゃない!ずっとアーチェリーだって続けてきた!ゆあも戦える!」
「でも……」
「なら入ってあげない!」
「そんな!?困るよ!」
「そーだよね!りっくんはゆあしかお友達いないもんね!陰キャ!」
「そそ!そんなことなしぃー!?ゆあちゃん意外にもたくさん友達いるしぃ~?」
嘘であった。嘘を言っている自分にダメージが入る。
「嘘ばっかり!学校でも休憩時間ずっと寝たふりしいてるでしょ!友達がいないから」
「ち、ちち!ちげーし!なんで知ってんだよ!隣のクラスのくせに!バーカ!見た目だけギャル!リア充詐欺!」
「リア充詐欺ってなによ!ちゃんとリア充だもん!りっくんと違って友達たくさんいるもん!」
「うぐぅ……わ、わかった……こ、降参だ……」
オレは、苦しくなって両手を上げた。ゆあちゃんは満足げな顔をしている。
「じゃあ、ゆあがそのスキルに加入してあげる代わりに、ゆあもダンジョンに連れていくってことでいいよね?」
「わかった……でも、今まで通り、お母さんやおばちゃんには内緒だぞ?それと、しばらくは、ゆあちゃんのこと訓練するから。オレが合格を出すまではダンジョンに連れて行かない」
これなら、適当に修行つけて疲れたところを放置して、ダンジョンに潜っても言い訳ができるだろう。ふふふ……
「……なら、ゆあが入れるようになるまで、りっくんもダンジョン禁止」
「え?……いや、それは……」
なんという幼馴染。オレの心を読めるのだろうか。
「この条件を飲まないなら協力してあげない!バカりっくん!」
「わ、わかった……全く納得してないが、その条件を飲もう……ゴクゴクと……」
「なによそれ、バカみたい。それで?ゆあはどうすればいいの?」
「んー?どうすればいいんだろうね?」
言いながら、《クラス替え》スキルを操作し、モニターに映るオレの座席の右隣をタップしてみる。空席になっている座席だ。すると、
―――――――――――――――――
新メンバーを加入させますか?
Yes or No
―――――――――――――――――
と表示された。
「おお?YESっと」
――――――――――――――――――――
加入させる新メンバーは的場柚愛ですか?
Yes or No
――――――――――――――――――――
「ゆあちゃん、いい?」
隣に寄り添い、肩が触れている幼馴染に確認する。
「う、うん……」
ゆあちゃんがモニターを覗き込み、ごくりと喉を鳴らすのが聞こえてきた。オレも少し緊張しながら、YESボタンを押す。
―――――――――――――――――――――――――――――
的場柚愛がクラスに加入しました。
的場柚愛の好感度を計測し、咲守陸人の統率力に反映します。
―――――――――――――――――――――――――――――
「好感度?りっくん?これでどうなるの?」
「さぁ?」
一緒にモニターを見るゆあちゃんに生返事をしていると、ローディングバーが100%になって、メッセージが更新された。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
的場柚愛の好感度は93でしたので、咲守陸人の統率力に93を加算します。
統率力が一定値をこえたため、ステータスボーナスが発生します。
統率力のボーナスポイントとして9ポイント、加入特典として5ポイントが加算され、合計14ポイントが付与されました。
現在付与可能なステータスポイントは、19ポイントです。
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一気にメッセージが表示され、若干混乱する。順番に見ていこう。まず、ゆあちゃんのステータスだ。オレの右隣の席には的場柚愛の名前があり、それをタップするとゆあちゃんのステータスが表示された。
――――――――――――――
氏名:的場柚愛(まとばゆあ)
年齢:12歳
性別:女
役職:なし
所有スキル:なし
攻撃力:5(E)
防御力:3(E-)
持久力:5(E)
素早さ:11(E+)
見切り:7(E)
魔力:0(E-)
精神力:25(D+)
学級委員への好感度:93/100
総合評価:E
――――――――――――――
「よわっ、雑魚じゃん」
「なにそれ!ひどい!バカりっくん!」
ゆあちゃんに頭をポカポカされた。
「あーもう……痛いなぁ」
「そういう、りっくんのステータスはどうなのよ!」
「ん~?はいどーぞ」
オレは自信満々に自分のステータスを表示させる。
――――――――――――――――
氏名:咲守陸人(さきもりりくと)
年齢:12歳
性別:男
役職:学級委員
所有スキル:クラス替え
攻撃力:14(E+)
防御力:19(D-)
持久力:68(B+)
素早さ:23(D)
見切り:8(E)
魔力:0(E-)
精神力:65(B+)
統率力:93(E-)
総合評価:D+
――――――――――――――――
「ふふふ」
「うわっ……つまり、ダンジョンに忍び込む精神力を持つ、サイコパス体力バカってことね……」
「なんだよそれ!……まぁ、持久力はめっちゃ高いよね。自覚なかったけど」
「毎日のように片道3時間かけて東京駅ダンジョンに通ってるからでしょ?バカみたいに、修行だー!とか言いながら」
「あーなるほど?ちなみに今は片道2時間でたどり着けるよ」
「へ~……」
ゆあちゃんが白い目を向けてきたので、一旦オレのステータスは閉じて、もう一度、ゆあちゃんのステータスをじっくりと見た。
「ゆあちゃんの方は、基本雑魚だけど、好感度ってのだけ異様に高いな。93/100だってさ?」
「へ?……な!?ななな!?」
ゆあちゃんがモニターを確認して、ゆでだこのように真っ赤になっていった。
「なに赤くなってるの?」
「だ!だってこれ!」
プルプルと震えてモニターを指差しているが、オレはそれよりも伝えたいことがあった。ゆっくりと口を開く。
「なんか、ありがと」
「へ?」
「オレ、ゆあちゃんに好かれてるって確認できて、なんか嬉しいや」
「……りっくん」
「オレ!ゆあちゃんと友達で良かった!」
「は?……りっくん?」
「じゃあ!オレさっそくこのステータスボーナスっての試してみるから!また明日!あ!明日から訓練だかんな!朝からランニングするから!あとでメッセする!じゃな!」
オレははやる気持ちを抑えてゆあちゃんの部屋から駆け出した。
ボーナスポイントとかいうのを、自分のステータスに割り振ったらどうなるのか、楽しみで仕方がなかったからだ。
「……ッー!!りっくんのバカー!!」
なんか、ゆあちゃんの部屋から怒鳴り声が聞こえてきたような気がするが、気にしない。オレは柚愛ちゃんの家から飛び出して、自宅に戻ることにした。