目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第5話 チートスキルの効果は絶大で

「お母さん!訓練室使うから!」


 オレは、自宅の玄関を開けるなり、リビングにいるお母さんに大きな声で呼びかけた。


「はーい。咲守空、りっくんの訓練室使用を許可します」


「ありがと!」


 オレは許可をもらってから、また靴を履いて、すぐに裏庭へと向かう。


 裏庭には、地下シェルターへの入り口のような銀色の箱が設置されており、そこに近づく。扉の前に行くと、「咲守陸人、咲守空より入室許可が出ています。解錠します」とアナウンスが流れた後、扉が開いた。

 扉の向こうは地下に続く階段だ。手前から順番に照明が点灯しているが、それに追いつく勢いで階段を駆け降りた。1番下まで降りて、もう一枚の扉に手をかざす。機械音を立てて開いた扉の先は、道場ほどの広さがあるオレ専用の訓練場だ。真っ白なパネルに囲まれた部屋で、右手にトレーニング機材、左手に実践用の武器などがある。正面には対人戦闘訓練用のロボットが一体、充電スポットに入って正座していた。


「アトム!おはよ!」


 ピピ、起動音がなり、ロボットが立ち上がる。グレーのシンプルな人型ロボットだ。身長は180センチほどで、今のオレよりだいぶ大きい。両耳についている通信アンテナがコイツのトレードマークだ。


「おはようございます。陸人様。本日も訓練ですか?」


「うん!新しい力を試したくって!」


 オレは、言いながら武器の保管スペースに移動し、戦闘服に着替えだした。戦闘服と言っても、見た目は普通のインナーだ。今着てる服を全部脱いでから、長袖の黒いTシャツとタイツを履いて、起動シークエンスを済ませる。すると、服がピタッと身体に密着し、模様のように刻まれたラインが水色に光った。


 この戦闘服は、軍事用に開発されたもので、ダンジョンが義務教育化してから高校生に無料支給されるようになったものだ。着ると身体能力が格段に上がり、戦う上では必須アイテムといってもいい。なぜ小学生のオレがこんなものを持っているというと、防衛大臣の父が裏で手を回してくれたおかげだ。父は、この訓練施設も大金をはたいて作ってくれた。


「陸人様、本日はどのような訓練を?」


「とりあえず短剣同士の戦闘で!あ!でも少し待ってて!」


「承知しました」


 オレは、はやる気持ちを抑えながらエニモでモニターを表示する。もちろん、《クラス替え》スキルの効果を確認するためだ。


「ステータスボーナスの割り振りは、えーっと……ここか!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

咲守陸人

 割り振り可能なステータスポイント:19ポイント

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 と表示されている画面を見つける。

 よし、準備は整った。じゃあ、どのステータスにポイントを割り振るのか考えよう。現在のオレのステータスはこうだ。


――――――――――――――――

氏名:咲守陸人(さきもりりくと)

年齢:12歳

性別:男

役職:学級委員

所有スキル:クラス替え

攻撃力:14(E+)

防御力:19(D-)

持久力:68(B+)

素早さ:23(D)

見切り:8(E)

魔力:0(E-)

精神力:65(B+)

統率力:93(E-)

総合評価:D+

――――――――――――――――


 ゆあちゃんがクラスに入ってくれたおかげで統率力が上がっているのがわかる。それ以外はさっき確認したのと同じだ。さて、どのステータスにポイントを割り振るべきか。


 昨日の戦いを思い出すと……

 オレに足りないのは、〈攻撃力〉かな。


 昨日の戦いでは、黒い狼に飛び乗ったとき、たしかにあいつの頭には短剣が突き刺さった。しかし、その一撃じゃあ倒しきれなかった。もし、もっと腕力があったら倒しきれたはずだ。


「よし!まずは攻撃力に全部振ってみよう!」


――――――――――――――――

氏名:咲守陸人(さきもりりくと)

年齢:12歳

性別:男

役職:学級委員

所有スキル:クラス替え

攻撃力:14+19=33(E+ ⇒ C-)

防御力:19(D-)

持久力:68(B+)

素早さ:23(D)

見切り:8(E)

魔力:0(E-)

精神力:65(B+)

統率力:93(E-)

総合評価:D+ ⇒ C-

――――――――――――――――


――――――――――――――――

この割り振りでよろしいですか?

Yes or No

――――――――――――――――


「YESっと!」


 ボタンを押すと、すぐに身体がほんのりと発光した。


「おお!?お〜?」


 数秒だけ発光した身体はすぐに元通りになる。


 今のでステータスが向上したのだろうか?今のところ、なにかが変わったという実感はない。両手をグーパーグーパーと開いてみると、少し違和感を覚えた。


「握力が、上がった?……アトム、握力計」


「承知しました。どうぞ、こちらです」


「ありがと」


 アトムから受け取って、思い切り握力計を握りしめた。

 ピピ。計測音が鳴る。握力計の測定結果を見ると、


「ご、55.9キロ?は?……アトム、オレの最高握力っていくつだったっけ?」


「陸人様の過去最高の握力数値は、38.3キロです。記録更新ですね」


「10以上上がってる……アトム!パンチングマシン!」


「承知しました」


 アトムが壁を指差すと、パネルが後ろに凹んでから横に開き、天井のレールを伝ってパンチングマシンが目の前までやってくる。


「よし……すぅぅ……」


 オレは構えてから精神を集中して、拳を繰り出した。


「らぁ!!」


 バスン!パンチングマシンは大きく揺れ、かなり後ろまで後退する。そして、オレが殴ったところには穴が開き、サラサラと砂がこぼれ落ちてきた。


「……なんだこれ……昨日まで、揺れるだけだったのに……」


「素晴らしい威力です。それが陸人様の新しい力ですか?」


「そうみたい……」


「そうなると、戦闘力も上がってそうですね」


「試してみていいか?」


「もちろんです。私は準備万端ですよ」


 アトムが短剣を構えてオレの前に移動してきた。刃はついていないが鉄製だ。当たればそれなりに痛い。オレも同様の武器を手に取り、構える。


「今日は勝たせてもらおうか」


「まだまだ陸人様には負けませんよ」


 そしてアトムとの模擬戦が始まった。何度か打ち込んでみるが、やはり一撃一撃の攻撃力が上がっていることを実感する。昨日まではアトムの攻撃を受けることしかできなかったのに、アトムの剣戟を弾き返すことができていた。


「手加減はいらないぞ!アトム!」


「それでは失礼して」


 アトムが低く構えて足めがけて双剣を振るってきた。


「うわっ!?」


 咄嗟にジャンプして避けるが、


「隙ありでございます」


「へぶっ!?」


 肘を腹に叩き込まれて悶絶する。


「まだまだ、でございますね」


「ぐぅぅ……アトム、おまえ……肘とかずるいぞ……」


 腹を押さえながら抗議した。これは双剣での訓練なのに……


「実戦にズルも何もありません」


「まぁたしかに……よし!じゃあもう一戦!」


「承知しました」


 その日、オレは満足するまでアトムとの戦闘訓練を続けた。結論として、やはり攻撃力というか筋力が上がっていることがわかった。


 スキルを得て、仲間をクラスに加入させて、ステータスポイントを割り振っただけなのに、ここ数ヶ月分の努力を上回る能力を手に入れたのだ。


「すごい!すごいぞ!このスキルは!」


「スキルというのは?」


 アトムから質問されたので、スキル、クラス替えについて説明する。もちろん、口止めはしておく。


「なるほど。でしたら、そのクラスに残り28人を加入させれば陸人様はかなり強くなるのではないでしょうか?」


「たしかに!アトムは天才だな!」


「恐れ入ります」


 オレはモニターを表示させて、空席の欄をタップしてみた。


―――――――――――――――――――――

新しいメンバーをクラスに加入されますか?

Yes or No

―――――――――――――――――――――


「YES!」


―――――――――――――――――――――

対象となる人物が存在しません。

―――――――――――――――――――――


「え?なんで?」


「陸人様」


「なに?」


「私から提案しておいてなんですが、クラスに加入させる人物にアテはあるのでしょうか?先ほどの説明ですと、一定の信頼を得ているお友達しか加入させれないのですよね?」


「あっ……」


「柚愛様はどうでしょうか?」


「もう入ってもらった……」


「そうですか。では、頑張ってお友達を作りましょう」


「お!おまえまでなんだよ!頑張らなくたって友達くらい!……そ、そうだ!アトム!おまえが入ってくれよ!」


 オレはもう一度、座席をタップした。


――――――――――――――――――――

クラスに加入できるのは、生物だけです。

ロボットなどの無機物は加入できません。

――――――――――――――――――――


「そんな……」


「陸人様、私は陸人様のお友達ですよ」


「……」


 アトムなりのフォローだったのかもしれない。でも、ゆあちゃんとコイツくらいしか、友達のあてがないオレにとっては、逆にその優しい言葉が効きまくった。


「ぐぬぬ……」


「どうかされましたか?」


「いや……今日も訓練ありがと、また明日」


「承知しました。それでは私はこれで休ませていただきます」


 オレはアトムが充電スポットに正座するのを見ながら着替えて、訓練場の外に出る。


 スキル、クラス替え、すごいスキルであることはわかったが、色々課題もありそうだ。

 ……主にオレのコミュ力の問題な気もするけど……


 いや!きっと友達なんてすぐできるさ!前向きにいこう!まずは明日のゆあちゃんの訓練だ!クラスに入ってくれたお礼も兼ねてビシバシしごいてやるぞー!


 オレは現実逃避を発動しながら、お母さんが作る美味しい夕食を食べに家に戻るのであった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?