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第8話 幼馴染を抱きしめ続けたら好感度がカンストしたんだが?

 さらに1週間、オレは訓練終わりにゆあちゃんを抱きしめることを続けた。しまいには、抱きしめながら「絶対守る」って言え、なんてリクエストまでされるようになった。嫌そうにしたら泣きそうな顔になったので、甘んじて言わせていただくことにした。せっかくステータスが上がったのにクラスから抜けられたらたまらないのだ。


 ……別に、ハグが癖になってるとか、そんなことはないと思う……たしかに、ゆあちゃんはあったかくて、やわらかいのだが……

 そんなことを考えながら、今日もオレはゆあちゃんを抱きしめていた。


「ゆあちゃんのことはオレが絶対守るから、安心して……」


「うん……りっくんが守ってくれるなら、ゆあ頑張れる……」


 抱き合うオレたち。なんなんだこれは……めちゃくちゃ恥ずかしい……


「よ、よし……じゃあ、好感度確認するから」


「うん……」


 そして、ついに、


――――――――――――――――

氏名:的場柚愛(まとばゆあ)

学級委員への好感度100/100

――――――――――――――――


「やった!カンストだ!ありがと!ゆあちゃん!」


「ど、どういたしまして?」


「これで明日からハグしなくていいよね!」


「は?本気で言ってるの?どういう意味?殺されたいの?」


「え?」


 モニターから顔を上げると、ゆあちゃんがブチギレ寸前の顔をしていた。


「えっと……でも、恥ずかしいでしょ?」


「りっくん?」


 顔を近づけられ、笑顔で睨まれる。


「あっ……これからも、お願いします……」


「よろしい。それで、ステータスボーナス?ってのは発生してるの?」


「ちょっと待ってね。えーっと……」


 オレは、ゆあちゃんの謎の圧に怯えながら、スキルの操作を行った。自分の座席をタップすると、統率力が100になっているのを確認でき、メッセージが表示される。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

統率力が100になったため、ステータスボーナスとして1ポイント割り振れるようになりました。

また、的場柚愛の好感度が100になったため、カンストボーナスとして10ポイントが付与されます。

現在ステータスに割り振れるポイントは11ポイントです。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おお!すごい!1ポイントだけだと思ってたのに11ポイントも貰えた!」


「へー?なんかすごいんだ?」


「そりゃすごいよ!この前なんて握力10以上上がったんだぜ!」


「へー?で、どのステータスにポイント振るの?」


「んー……悩ましいけど……素早さかな?」


「なんで素早さなの?」


「だって、ゆあちゃんを守るのに足が速くないと困るじゃん。危険なときにすぐに駆けつけれるようにしたい」


「……ふーん?一応、りっくんなりに、ゆあのこと考えてるんだ?へー?」


「そりゃそうだよ。守るって約束しただろ?」


「……(小声)たまにカッコいいからずるいよ」


「なんて?」


「なんでもない!」


「あーそう。じゃ、ステータス割り振ってみよっかな」


 ゆあちゃんがなんか怒り出したので、無視してステータス画面をいじる。


――――――――――――――――

氏名:咲守陸人(さきもりりくと)

年齢:12歳

性別:男

役職:学級委員

所有スキル:クラス替え

攻撃力:34(C-)

防御力:22(D)

持久力:69(B+)

素早さ:24+11=35(D ⇒ C)

見切り:9(E)

魔力:0(E-)

精神力:70(A-)

統率力:100(E)

総合評価:C- ⇒ C

――――――――――――――――


「よし!これでいこう!」


 オレはワクワクしながら、YESボタンを押した。身体がほんのり発光する。


「おぉ〜?」


「え!?なにそれ!?大丈夫なの!?」


 オレの発光現象を見て、ゆあちゃんがうろたえる。オレは気にしていなかったがこれが普通のリアクションか。


「んー?前のときもこうだったから大丈夫なんじゃない?それよりも素早さが上がった効果を見てみたい!アトム!戦闘訓練!」


「承知しました」


 アトムが短剣を持って正面に構える。オレも同じ武器だ。


「いくぞー」


「いつでもどうぞ」


 ドン!オレは思いっきり地面を蹴って前進した。


「うわっ!?」


 すると、あまりの速さにバランスを崩してしまう。前のめりになってアトムめがけて突っ込んだ。


「隙ありでございます」


「いてぇ!」


 アトムにひらりと避けられて、剣の柄で頭を殴られた。そのまま倒れ込んでヘッドスラディングをかます。


「いてて……」


「りっくん?なにやってるの?」


「いや、なんか自分の身体じゃないみたいで……よし!もう一本!」


「かしこまりました」


 今度はアトムにいきなり突っ込むことはせず、周りを走り回って、かく乱することにした。徐々にスピードを上げて、ぐるぐるとアトムの周りを走る。速い。明らかにさっきまでよりも身体が軽かった。足が素早く動く。その勢いを殺さないように壁際に移動し、壁を蹴って方向転換した。


「うらぁ!!」


「なかなかの動きですね」


 しかしアトムには通じない。短剣を弾かれ、身をかわされる。一旦停止して、アトムに感想を求めることにした。


「ふーむ?アトム、どうだった?」


「格段に速くなってます」


「だよな!」


「化け物じゃん……こわっ……」


 なんか、ゆあちゃんが引いた顔をしているが無視だ。もっともっと試したい!


「もう一本!」


「かしこまりました」


 その日、オレは時間を忘れて戦闘訓練を続けた。気づいたときには夜中で、床に寝転がって机の方を見ると、ゆあちゃんとお母さんが楽しそうにお茶会を開いている。オレの存在を忘れたようにこっちすら見ていない。

 それを見て、なんだか疎外感を覚えた。


「……ねぇ、ご飯は?」


「あら、りっくん、やっと終わったの?ご飯ならココにあるわよ?」


 そうか、忘れられていたわけではないらしい。オレは立ち上がって、ステータス上昇の満足感に浸りながらカツ丼をかき込んだ。



 ゆあちゃんのおかげでステータスを大幅に向上させたオレではあったが、ゆあちゃんは雑魚のままだ。こんな状態のゆあちゃんを危険なダンジョンに連れて行くのはあり得ない。

 そう考え、それから、ひたすらに訓練の日々を過ごした。


 小学生を卒業し、中学生になる頃、防衛大臣の父が知らないアメリカ人を家に連れてくる。50歳いかないくらいのオッサンだった。その人は、アメリカ海軍の特殊部隊にいたということで、オレに訓練をつけてやる、と言ってくれた。

 防衛大臣の父、さすがの人脈だ。断る理由なんてない。それからオレは、そのアメリカ人に投剣術という戦闘訓練を学ぶことになる。

 ゆあちゃんの訓練もしながらなので、習得するのに1年もかかってしまったが、なんとか実戦で使えるレベルまで持って行くことができた。


 ここ1年ちょっとで、ゆあちゃんもだいぶ動けるようになった。そろそろ、ダンジョンに忍び込むのを再開してもいいだろう。

 そう思えるようになったときには、オレたちは14歳、中学2年生に成長していた。

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