目標が決まったオレたちは、高校生になったらすぐにダンジョンに潜れるように訓練を続けることになる。
中学に行って、休憩中もダンジョン攻略について話し合い、放課後になったら夜までオレの家で訓練だ。
その期間中にもダンジョンに忍び込むのは続けた。話し合いの結果、なるべく危険が少なくて、高校生たちの訓練に使われているダンジョンに忍び込むことにした。
選んだのは目白駅ダンジョンだ。ここは、ボス部屋までのモンスターが比較的弱いので、ゆあちゃんの訓練にいいだろうと、オレと鈴で話し合って選択した。
目白駅ダンジョンに忍び込むようになって1年もすれば、ダンジョンを隅々まで把握し、ボス部屋までのルートのマッピングが完了した。これなら、ボスを倒す算段さえ立っていれば、いつでも攻略に挑戦することができるだろう。
そして、高校生になろうという3ヶ月前、オレたちの家に、謎の封筒が届くこととなる。
♢
ピピ。左腕のエニモから着信音が鳴る。お母さんだ。ポチリと通話に出る。
「りっくん、なんか知らない高校からメールが届いたんだけど、ちょっとリビングまで来てくれる?」
「へーい」
オレは呼ばれるがまま自室を出て、リビングへと降りていった。
「これなんだけど」
お母さんが自分のデバイスでモニターを表示させてから、オレの方に向けてスライドさせた。モニターが飛んでくるので、エニモで受け止めて、内容を確認する。
「んー?〈咲守陸人様、合格おめでとうございます。国立防衛大学附属高校迷宮攻略科への入学をお待ちしております。入学いただける場合、以下の手順に従い入学手続きを行ってください。〉だって?」
「りっくん、そんな高校いつの間に受けたの?」
「いや……えっと……」
お母さんになんて言おうか考えていると、ゆあちゃんと鈴のグループチャットに着信があった。
「あ、電話だ。また後でね」
「あ、りっくん、もぉ〜」
階段を登りながら着信を受ける。
「もしもし」
そしてすぐに自室に入って扉を閉めた。
「あ、りっくん、今大丈夫?」
「うん」
「わたしもいいかしら」
鈴も会話に入ってきたので、ベッドに座り、2人の顔をそれぞれ独立したモニターに写した。目の前に3つのモニターが宙に浮く。
「今、ゆあの家に変なメールがきて……」
「防衛大附属高校の合格通知かしら?」
「そうそれ!」
「オレのところにも来た。これだろ?」
オレは3つ目のモニターを反転させて、メールを2人に見せる。2人とも頷いた。どうやら、同じものが届いたようだ。
「やっぱりね。確認だけど、あんたたち、防衛大附属なんて受験してないわよね?」
「うん、受けてないよ」
「ああ、相談した通り、3人とも同じ高校に行くことになってただろ?」
「正確には、1番アホなあんたにわたしたちが合わせてあげた、だけどね?」
「……すみませんでした」
「まぁそれはいいわ。で、じゃあなんでエリート高校から合格通知が来たのか」
「……たぶん、オレのクラス替えスキルのせいかな?」
「今までのことを考えると、そうなるよね……やっぱり、なんか怖いよ……」
「そうね。でも、防衛大附属に入ればダンジョン攻略の観点ではメリットしかないわ。かなり多くのダンジョンに自由に入れるし、強い仲間探しも有利なはずよ」
「そうなんだ?」
「ええ、選ばれた人しか入学できないからね」
「ふむふむ」
「で、どうする?入学してみる?」
「んー、ここって授業料とかどうなんだ?これ以上お父さんたちに負担をかけるのは……」
「合格通知ちゃんと読みなさい。特待生って書いてあるでしょ?授業料から入学金まで全額免除よ?」
「マジ?なら、入ってみようかな。ゆあちゃんはどう思う?」
「ゆあは……ちょっと怖いけど、りっくんと鈴ちゃんが行くなら、ついてく!」
「なら、決まりってことでいいかしら?」
「おまえは随分あっさり決めるんだな?」
「もともと入学する気だったしね。あんたがアホじゃなければ」
「アホアホって……凹む……」
「はいはい。じゃあ、入学手続きしちゃうわよ」
「了解」
「わかった!ママに話してくる!」
ということで、オレたち3人は、国立防衛大学附属高校迷宮攻略科への入学を決めた。クラス替えスキルの謎の効果とはいえ、ダンジョン攻略のエリート高校に入学できることになったのは、今後のことを考えればメリットだらけだろう。
オレは少しワクワクした気持ちで、その後の3ヶ月をいつも通り過ごしたのだった。