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第41話 大崎駅ダンジョンでの実践訓練

 鳴神先輩の道場の借金がなくなって数日後、オレたちパーティは訓練を繰り返すことで、順調に連携が取れるようになっていた。なので、「そろそろ、実戦的な訓練も必要だよね」と相談し、ダンジョンへと向かうことに決める。


 放課後になり、戦闘服に着替え、それぞれの武器を装備してから駐車場に集合した。今日も鈴にリムジンを出してもらい、5人揃って乗り込んだ。


 今日、目指すことになっているのは、大崎駅ダンジョンだ。大崎駅ダンジョンは、学生の訓練にも使われている比較的安全なダンジョンだ。とは言っても、それは、ボス部屋に近づかなければ、という条件付きである。なので、今日は安全第一でいこうということになっている。


 リムジンに揺られながら、車内を見渡す。栞先輩は、オレの正面に座っていて、ゆあちゃんと談笑している。鈴は、後ろの真ん中で偉そうに足を組んでいて、オレの隣にぴったりと桜先生が寄り添っているという配置だ。

 ……なんか、桜先生、近すぎないか?


「栞ちゃんの巫女服かわいいよね!」


「そうですか?ありがとうございます。柚愛ちゃんは制服なんですね」


「うん!うちの高校の制服好きなんだー!でも、鈴ちゃんとか栞ちゃんを見てると、自分のオリジナル衣装も欲しくなっちゃうなー!」


「ふふ、では、今度みんなで柚愛ちゃんの衣装考えましょうか」


「いいの?ありがとー!」


 ゆあちゃんと栞先輩は、随分仲良くなったみたいだ。ゆあちゃんは元々友達を作るのが上手いが、栞先輩も包容力があるので相性が良さそうに見えた。


「ねぇ、りっくん!」


「んー?」


「りっくんは、ゆあが着るなら、どんな衣装がいいと思う?」


「んー、どうだろなー。戦い易ければ何でもいいんじゃない?」


「なに、その適当な反応」


 ゆあちゃんがムッとする。あ、真剣に答えないとキレはじめるやつだ。


「ゆあも栞ちゃんみたいに可愛い服がいい!」


「ん~……なら、栞先輩と同じやつにすれば?デザインを真似させてもらってさ」


「そういうことじゃないじゃん!栞ちゃんは巫女さんだから巫女服ってのがいいんじゃん!ゆあが着たらただのコスプレでしょ!」


「まぁたしかに。言われてみればそうか。栞先輩と巫女服ってすごいしっくりくるもんな」


「そ、そうですか?」


 栞先輩が恥ずかしそうにもじもじする。


「はい。入学式のときも似合ってるなーって思いましたし」


「ふふ、あのとき、陸人くん、ちゃんと下向いてませんでしたよね?」


「あ、覚えました?恥ずかしいな……」


「悪い子のことは印象に残ってるものですよ?ふふ」


 からかわれてしまった。でも、不思議と悪い気はしない。どこぞのチビにからかわれるとイラつくのに、大違いだ。これが包容力の差か。


「なによ?」


 鈴をチラ見したらガンを飛ばされた。怖いチビだ。


 そうこうしてるうちに、大崎駅ダンジョンに到着する。


 駅前でリムジンからおり、エレベーターに学生証をタッチして乗り込んだ。事前申請してあるので駅の施設が使えるのだ。昔のように忍び込まなくて済むので楽である。


 エレベーターが30メートルの高さを上りきり、みんなで駅のホームに降り立った。


 線路の向こう側は透明な幕に覆われていて、人間の侵入を拒んでいる。そして、その幕に寄り添うように、ダンジョンの入り口であるゲートが作られていた。全員でその前まで歩いていき、一旦、円になって向かい合う。


「今日は、桜先生と栞先輩をパーティに迎えてから、はじめてのダンジョン探索なので、予定通り、ゲート周辺での戦闘訓練に留めようと思う。みんな、いいかな?」


「みんなの足を引っ張らないように頑張りますね」

「ゆあはおっけー!」

「大丈夫よ」


 みんなが頷き、栞先輩がお辞儀する。


「私はついていけないので、ここでサポートしますね♪」


 桜先生は椅子に座って、モニターを3枚空中に浮かせて、リング型の脳波デバイスを頭の上に装着した。

 そして、ボール型のカメラロボットの電源を入れてオレのすぐ後ろに浮遊させる。こいつが桜先生の代わりに後ろからついてきて、オレたちの様子を撮影し、常に桜先生と状況を共有してくれるのだ。


「お願いします。桜先生。もしまた辛くなったら、無理せずに言ってください。すぐに戻って来ますので」


「うふふ♪ありがとうございます♪でも、VR訓練で、大崎駅ダンジョンの予習をして大丈夫だったので、前みたいにはならないと思いますよ」


「でも、辛かったらすぐに言ってください。約束ですよ?」


「はい、わかりました。約束しますね♪うふふ♪」


 桜先生はなんだか嬉しそうだ。ニコニコしながらオレのことを見つめてくる。


「陸人くんはみんなに優しいんですね」


「そうなの!女の子にだけ優しいの!栞ちゃんも気をつけてね!」


「なんだよそれ?別にみんなに優しいだろ?それに気をつけてってなんだよ?」


「いいから行くわよー。あと、あんた、わたしには優しくないじゃない」


 鈴が一足先にゲートをくぐったので、桜先生に手を振ってからそれに続くことにした。

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