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第42話 世界樹と植物型モンスター

 大崎駅ダンジョンは、はじめて来るダンジョンだ。ゲートをくぐると、今まできたダンジョンとはまた雰囲気が違った風景が広がっていた。

 ゲートを出た先は、鬱蒼とした密林だった。オレたちは、ピラミッドを真ん中で横に切ったような祭壇の上に立っていて、祭壇の周りは木々が生い茂っている。


 祭壇の端まで歩いていき、遠くを見通していると、栞先輩が隣にやってきた。


「あれがボス部屋があるっていう世界樹でしょうか?」


 栞先輩が見る先には、それは巨大な木が空を貫く勢いで立っていた。その巨木は通称〈世界樹〉と呼ばれていて、1番上の方は雲にも届く高さだ。データ通りなら、直径は東京ドームよりも大きいらしい。


 その世界樹を囲うように密林が生い茂っていて、世界樹に近づくにつれて3段階の高さの森が形成されている。世界樹に近づくほど高い木が生えていて、円形に徐々に高くなっていくのだ。オレたちがいるあたりは1番低い木のエリアだが、それでも、隣に生えている針葉樹っぽい木は、10mはあると思う。


「今日はこのあたりだけで戦うんだよね?」


 ゆあちゃんが少し不安そうな顔をする。見慣れない景色に恐怖を感じているのだろう。


「そうだね。今日はこの辺りだけ。とりあえず、4人で連携して戦ってみよう」


「うん!わかった!」


「桜せんせ、聞こえてる?」


「ええ、聞こえてますよ」


「じゃ、そういうことだから、近くにモンスターがいたら教えてくれるかしら?」


「了解しました」


 桜先生からの回答があってから、後ろに控えていたボール型ロボットが空高く上昇した。周りを確認してくれているようだ。


「見つけました。その祭壇からおりて、斜め左前方に一体います」


「了解しました。桜先生、体調は大丈夫ですか?」


「うふふ♪大丈夫ですよ?あっ、でもでも、定期的に声をかけてもらえると……もっと大丈夫かもです」


「了解です。任せてください」


「うふふ♪」


「ゆあはね、桜ちゃんは甘やかさないでいいと思うよ?」


「柚愛さん、黙りなさい」


 2人が争い出したので、スルーして祭壇の石段を下りていく。石段を下りたら森の中だ。オレと鈴を先頭に、ゆあちゃんが続き、後ろを栞先輩に警戒してもらいながら森の中を進んだ。


 オレたちが進んでいる森は比較的歩きやすく、地面は平らで木の種類も杉の木のような形だった。一応まだ、現実感がなくはない景色だ。遠くに見える世界樹が視界に入るとその限りではないが。


「あれね。みんな、構えて」


 鈴がモンスターを発見したので、全員武器を構える。数メートル先には、人間くらいの大きさの食虫植物が蔓をウネウネしながら移動していた。なんだっけ、ウツボカズラだっけか、それを巨大化させたようなモンスターだ。


「き、気持ち悪い……」


 ゆあちゃんが一歩後ずさる。


「まぁ、たしかにそうかも?鈴と栞先輩は平気?」


「あたしは別に」


「わたしもちょっと鳥肌が立ちましたが、大丈夫、戦えます」


「了解、ならまずは鈴と栞先輩にお願いしてもいいかな?オレは桜先生の様子を見ながら周囲を警戒するよ」


「わかったわ。それにしても、ほんと過保護なやつね。桜せんせはもう大丈夫でしょ」


「陸人くんは優しいですね。お任せください」


「うふふ♪キュンキュンします♪」


 鈴が2丁拳銃を、栞先輩が刀を構えて前に出る。


「あたしは上から行くわ」


「では、わたしは正面から」


 鈴が先に走り出し、銃を木の上の方に構えてトリガーを引く。ワイヤーが飛び出て木に着弾。鈴がワイヤーに引っ張られて上空に上がっていった。かなり高い位置の枝に着地する。まるで忍者だな。


 栞先輩はというと、ゆっくりとモンスターとの距離を詰めていた。


「先に撃ってもいいかしら?」


「どうぞ」


 2人は通信デバイス越しに会話し、連携をとって戦いを開始した。


 鈴が樹上から拳銃を撃ち始める。黄緑色の光弾が発射され、ウツボモンスターに直撃、モンスターはうろたえながらも、蔓で防御を試みる。さらに、蔓を伸ばして鈴を狙うが、鈴がいる位置までは全く届く気配はなかった。


「よろしいですか?」


「いいわよ」


「それでは」


 一閃。鈴の攻撃が止んだ瞬間、栞先輩が滑るように移動し、モンスターの後ろに立つ。

 キンッ。刀を鞘に仕舞う音が聞こえると、モンスターは斜めに身体を崩して、光の粒となって消えていった。


「おお〜、パチパチパチパチ。さすが栞ちゃん!すごい刀捌き!」


 戻って来る栞先輩に、ゆあちゃんが拍手をする。


「ありがとうございます」


「さすがにこの辺りじゃ余裕みたいね」


 鈴もワイヤーを使って木の上からおりてきた。


「桜先生、大丈夫そうですか?辛くないですか?」


「ええ、前みたいにパニックにはなっていません。少しドキドキしてますが」


「なんだって!?すぐに戻ります!」


「いえ、そういうことでなく、うふふ♪本当に大丈夫です♪陸人くんが声をかけてくれるとドキドキしちゃうんです♪」


「そ、そうですか?」


「ええ♪」


「りっくん、もう桜ちゃんほっとこうよ。平気だよ、あの人」


「的場柚愛、赤点っと」


「なにそれ!」


「はいはい。もういいから、実戦中はマジでやめてよね。次探してオペレーター」


「そうですね。たしかに。気を引き締めましょう。次を探します」


 そしてまた、ボール型ロボットが上空を旋回しモンスターを探す。この調子でオレたちは10匹のウツボモンスターを倒してから帰還することにした。



 学校に帰りながら、リムジンの中でみんなで今日の実戦訓練について振り返る。


「やっぱり前衛が増えると心強いね!」


「だね。オレが前に出てるとき、ゆあちゃんを守れる人が近くにいると助かる」


「単純に、前衛2枚が前に出ても攻撃力が上がるし、栞に入ってもらって良かったわ」


「ほんとですか?みんなにそう言ってもらえると嬉しいです」


「でも、やっぱり教師としては4人パーティというのは少し心配です。スキルホルダーが3人いるとは言っても通常5人以上で組むのが普通ですし」


「そうは言っても桜ちゃん、パーティに入ってくれそうな人にアテはあるの?」


「んー……」


 みんなして、頭をひねる。パッと思いつくのは生徒会長だが、諸々の理由ですぐには無理そうなのは知っている。となると他にアテはない。


 みんなが黙り込んでいると、栞先輩が複雑そうな顔で口を開いた。


「……パーティには入ることはできませんが、戦力増強に繋がる、師匠のような人でしたら、心当たりがあります」


「へー、でも、栞ちゃん、なんだか嫌そうな顔してない?」


「いえ……嫌、といいますか、正直少し苦手な方で……でも、腕前は保証します。日本人の中では恐らくトップクラスの実力者かと」


「ふーん。栞がそこまで言うならよっぽど強いのね。で?どんなやつなの?」


「名前は、荻堂一心、鳴神流の門下生であり免許皆伝、そして、人類初のスキルホルダーです」


「人類初?ってことは……」


「ええ、はじめてダンジョンを踏破した人物です」

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