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第44話 荻堂一心

 後日、栞先輩が荻堂さんと連絡が取れた、ということで、全員揃って挨拶に向かうことにした。


 週末の土曜日、今日も鈴のリムジンに乗って移動する。休日なのでみんな私服だ。なんか、オレ以外はみんな華やかな服装なので、少し緊張する。オレももっとちゃんとした服を着てくるべきだったのだろうか?


 そわそわしながら、みんなと会話していると、30分くらいで目的地に到着した。車窓から見えるのは、昔ながらの下町という雰囲気の場所だった。車が入れないので歩いて移動することにする。


「なんか雰囲気あるね〜。時代劇とかに出てきそう。江戸時代?とかの」


「んー、どちらかというと明治時代くらいですかね。建物は大正から建っているものもあるんだとか」


「へ~、大正って、いつの時代だっけ?」


「陸人くんは歴史の授業も補習が必要そうですね♪今度、2人っきりで、たっぷり教えてあげますね♪」


「職権濫用ババア」


「うふふ……柚愛さん?おまえ、マジでいい加減にしろよ?」


 また、ゆあちゃんと桜先生がやり合いはじめた。早く仲良くなってほしいものだ。


「みなさん、到着しました。こちらです」


 栞先輩が立ち止まったのは、木造の建物の前、正面には〈鳴神流分家〉という看板が掲げられていた。


「道場なんですよね?」


「ええ」


「分家ってなんでしたっけ?」


「うちが本家にあたるので、父から看板を分けてもらって、分家を名乗っているそうです」


「ほほう?」


「では、入りますね」


 栞先輩の後に続いて、みんなして道場に入る。玄関で靴を脱ぎ、ギシギシいう廊下を歩くとすぐに訓練場だ。


 古い引き戸を開けると、正面の壁際に男があぐらをかいて座っていた。後ろの壁には、達筆で〈心技体〉と書かれた掛け軸が飾られていた。


 男は目を閉じていて、集中しているように見える。


 栞先輩が静かに近づき、2メートルくらい離れたところで正座したので、オレたちもそれを真似して床に座ることにした。


「お休み中にすみません。お久しぶりです。荻堂さん」


「……いや、嬢ちゃんならいつでも来てくれていいさ。久しぶりだな」


 ゆっくりと目を開ける男、この人が荻堂一心らしい。

 黒髪の短髪、ツンツン頭でおでこを出していて、瞳も黒い。純日本人という風貌だ。眉は鋭く上がっていて、眼光は鋭い、先ほどのセリフが無かったら怒っているのではと思うほどの強面だった。身長はオレと変わらないくらいに見える。


 荻堂さんは、稽古中だったのか道着を着ていて、どこか緊張感を漂わせてオレたちを順番に眺めた。


「そいつらが嬢ちゃんの仲間なのか?」


「はい。正確に言えば、最近わたしが仲間に入れてもらった形になります。リーダーはこちらの咲守陸人くんです」


 呼ばれたので前に出て、栞先輩の隣に座り直す。


「はじめまして、咲守陸人です」


「……おまえ、記者会見でなんか言ってたやつだな?東京駅ダンジョンを攻略するとかなんとか」


「はい。それがオレたちパーティの最終目標です」


「嬢ちゃん、つまり、師匠のこと……」


「はい。諦めていません」


「そうか……なるほどな。で?今日はなにしに?あ、いや、ちょっと待ってくれ……まず、はじめに嬢ちゃんに謝らないといけないことがある」


「え?なんでしょうか?」


 不思議顔の栞先輩を前に、荻堂さんがあぐらをやめて正座に座り直した。そして、両手の拳を地面につけ、頭を下げる。


「あのときは、師匠の道場を助けてやれなくて、本当にすまなかった」


『そっか。この人も気にしてたんだ』と安心する。正直、栞先輩を見捨てたことを気にも止めていないような人なら協力してもらいたくなかったからだ。


 栞先輩も同じ気持ちのようで、少し驚いた顔をしてから笑顔で話しかけた。


「いえ、謝っていただけるなんて思ってませんでした。大丈夫です。わたしの方こそ、荻堂さんの気持ちを考えず、自分の都合を押し付けてしまってすみませんでした」


「そうか……そう言ってもらえると助かる」


 言いながら、またどかっとあぐらをかく。


「結局のところ、あのときは、あいつらの死に顔がチラついちまってよ……師匠の道場に近づきたくなかったんだ。でも、もう吹っ切れた。何かあればいつでも協力させてくれ」


「はい。ありがとうございます」


「へー、思ってたより話がわかるやつじゃない。この流れで協力してもらったら?」


「なんだと?俺は無礼なガキは嫌いだ」


「あらそう。なら栞から頼んでよ。この武士道おっさんに」


「お、おっさん?」


 おっさんと言われた荻堂さんはキョトンとする。


「お、おっさんだと……俺が……」


 荻堂さんって27歳だったっけ?なにか、刺さるものがあったらしい。


「えっと、荻堂さん、よろしいですか?」


「……あ?ああ、なんだ?嬢ちゃん」


「今日伺ったのは、わたしたちに稽古をつけてくれないかというお願いと、荻堂さんが所持している神器をお借りできないかと思って伺いました」


「なるほどな。片方は予想していたが、もう片方は意外な提案だ。現役を退いた俺を師と仰ぐのか?」


「またまた。退いたなんて。わたしには、以前よりお強くなっているように見えますよ?」


「……ははは!さすが師匠の娘!相変わらず面白い嬢ちゃんだ!」


「おお!なら!申し出を受けてくれるんですか!」


 オレは期待の眼差しを向ける。諸々上手くいきそうだと思ったからだ。


「いや、待て」


 しかし手を前に出され、ストップをかけられる。


「嬢ちゃんは良いだろう。だが、おまえたちは違う。まずは力を見せてもらおうか」


 ラスボスみたいなことを言い出した荻堂さんに、オレたちは首を傾げた。力を見せろ?どういう意味だろうか。

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