目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第45話 日本トップクラスの実力

 人類初のスキルホルダー、荻堂一心さんの道場に来たオレたちは、荻堂さんから「とりあえず、力を見せろ」と言われていた。


「荻堂さん、それは一体?」


「なに。ちょっと手合わせしてもらうだけさ。それでおまえらの実力を見る」


「えー?あたしたち女子なんですけどー?そういう男臭いのはちょっとー」


「ゆ、ゆあも自信ないかも……」


「舐めんなガキども。命張ってんだろ?さっさと準備しろ」


 鈴とゆあちゃんの抵抗は虚しく、更衣室に通され、オレたちも道着に着替えた。栞先輩と桜先生は壁沿いに座って観戦の構えだ。


「まずは誰からやる?」


 荻堂さんが腕をストレッチしながらこちらを睨む。


「じゃあ、オレから」


「おまえ、武器は?」


「え?荻堂さん、丸腰じゃないですか」


「おまえらごとき、武器なんていらねーよ。いつもの真剣でこい。どうせ当たりゃしねぇ」


「……」


 さすがにここまで舐められるとカチンとくる。素手でオレの相手をする?ほほう?やっていただこうじゃないですか……


「へー……じゃあお言葉に甘えて……」


 オレはヒクつきながら双剣を構えた。


「いつでもこい」


「いきます!」


 思い切り地面を蹴って正面から突っ込む。荻堂さんは横を向いていて、目線だけこちらに向けていた。あまりに無防備で剣を振る手が止まる。

 は?なんなんだこの人、このまま振り抜いたら殺しちゃうんじゃ?


「だから、おまえごときの剣、かすりもしねーよ」


 気づいたときにはオレは天井を見上げていた。一瞬のうちに手首を掴まれ、空中を何回転もさせられて地面に叩きつけられたようだ。


「ぐへっ!?な!?なにが!?」


「おまえ、殺すかもって躊躇しただろ?」


「へ?」


「甘いな。ガキが。だが、速度は悪くなかった」


 見下されながら言葉が続く。全てを見透かす鋭い目つきだ。


「おまえ、咲守だっけ?」


「あ、はい」


「おまえはまぁまぁだな。次」


「……次?いやいや!まだまだ!まだ終わってないっすよ!」


 オレはシュタッと立ち上がって背中の双剣に持ち替え、思い切り投げつけた。ダンジョンでモンスターを相手にするのと同じように。双剣が曲線を描いて荻堂さん目掛けて飛んでいく。


「いいねぇ。本気でやれるじゃねぇか」


 しかし、両手の指で白羽どりされてしまった。ピタリと停止するオレの相棒たち。


「化け物かよ!」


 でも、双剣を受け止めるために荻堂さんの身体は正面を向いている。その隙をついて後ろから斬りかかった。


「隙でもなんでもねーよ」


 また、手首を掴まれて回転しながら地面に沈む。すぐに立ち上がって残りの2セットの双剣を投げ、すぐに駆け出した。


「いいねぇ!全部出し切れ!力は全力を出してなんぼだ!」


 楽しそうな荻堂さんは、4本の双剣をわざわざ白羽どりしてからオレに投げ返してきた。


「うおっ!?」


 すんでのところでかわす。そこに、


「おまえ、見どころあるよ」


 ボディブローを叩き込まれた。


「ぐぼっ!?がっはっ!?」


 地面にうずくまりバタバタと足を動かす。なんだこの威力!いてぇ!


「おまえの実力はわかった。次」


「ぐぎぎぎ……」


 歯を食いしばり、イヤイヤ後ろに下がる。まだ戦ってみたかったが、正直、これ以上続けても結果は変わらないだろう。


 栞先輩に手招きされたので、その横に腰を下ろした。


「お疲れ様でした」


「いえ……ちょっと先輩」


「なんですか?」


「あの人、強すぎませんか?スキル使ってるんですよね?」


「いえ?荻堂さんのスキルは身体強化系ではないはずですよ?」


「マジかよ……」


 手も足も出なかったからスキルを疑ったが違った。次元が違う、とはこのことだ。その強さにオレは震えた。あの人に教われば、もっと強くなれるかもしれない。そう思うとワクワクが止まらなくなる。


「次はおまえか、生意気なクソガキ」


「はぁ?女の子にそんな口しか聞けないわけ?だから彼女いないのよ」


「……」


 鈴の毒舌が、また荻堂さんに刺さったらしい。黙ってしまった。かわいそうに。


「図星なわけ~?だっさ」


 そうほざく鈴は次の瞬間、一瞬で間合いを詰められた荻堂さんに足を掴まれて宙吊りにされる。


「なっ!?こいつ!」


 ぶんぶんと拳を振るう鈴。しかし当たるはずもなく、荻堂さんは冷徹な目で鈴のことを観察する。


「まぁ、基本はできてるな。体幹と身のこなしは良さそうだ。クソガキ、おまえは特に厳しくしてやる。覚悟しろよ。クソガキ」


「うるさい!この!童貞おやじ!コロス!」


 ポイっ。荻堂さんはそれ以上何も言うことなく、鈴をオレたちの方に放り投げた。鈴はくるりと猫のように着地し、「シャー!」とそれまた猫のように威嚇をする。


「あわわわ……」


 最後に残った獲物はゆあちゃんだ。荻堂さんに睨まれ、ガクガクと震えている。構えることすらできずに、一歩二歩と後退していく。


「おまえ、それでも、あいつらのパーティの一員か?足手まといだな。抜けたらどうだ?」


 ピタ。足が止まる。


「……ゆあだって!戦えるもん!やぁー!」


 実に情けない掛け声であったが、オレたちには気持ちが伝わった。そして、荻堂さんは、そんなゆあちゃんの顔を掴んでステイさせる。


「試すようなことを言って悪かったな。向かってきたのは褒めてやる。だが、おまえはまず基礎からだ」


「え?ふがっ……わ、わかりました……」


 どうやら、やる気があるか試しただけのようだ。


 こうして、オレたちの品定めが終わり、改めて正座して向かい合いうことになった。荻堂さんの方から口を開き、オレたちとの手合わせについて感想を述べ始める。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?