さらに一ヶ月後、オレたちは、毎日毎日、1対4で師匠と戦っていた。毎日5~10戦はやっているので、余裕で100戦は超えただろう。
ここまで戦っていると、さすがに瞬殺される、ということは無くなっていた。もうちょっとで届くはずだ。
そして、『今日こそは』という気持ちを持って、今日も師匠に挑む。昨日みんなで考えた作戦が決まれば、きっと師匠にだって勝てるはずだ。
高校の訓練場にて、4人揃って、師匠と相対する。オレと栞先輩が前衛、鈴が中衛で、ゆあちゃんが後衛だ。
「みんな、作戦通りにいくぞ!」
「うん!」
「いつでもいいわよ!」
「お任せください!」
「……いつでも来い」
師匠がゆっくりと刀を抜き、肩に乗せてこちらを見る。余裕の構えではあるが、それほどの実力差がオレたちにはあるのでしょうがない。その隙を最大限についてやるのだ。
「いきます!栞先輩!」
「はい!」
オレと栞先輩が同時に走り出す。栞先輩を前に、オレはその後ろにピッタリとついた。
そして鈴がオレたちの左右に銃弾を撃ち込む。これで師匠の進路は、ある程度直線上に制限できたはずだ。
「甘い。が、まぁ、のってやるよ」
言いながら、刀を構え栞先輩とぶつかった。「ガンガン」と薙刀と刀がぶつかる音が目の前から聞こえてくる。その間も鈴の銃撃は続き、師匠の進路を制限する。
オレは栞先輩と師匠の頭上を飛び越えて、師匠の後ろに回り込んだ。
「らぁ!!」
そして双剣を交互に振り下ろす。前後からの攻撃、そして左右は銃弾によって動くスペースがない。この布陣で追い込んでやる!
「まぁ、いい陣形じゃねぇか?」
師匠の刀は一本だ。それなのに前後からのオレたちの攻撃を全て弾いていた。
オレに至っては、背中を向けたまま、こちらを見もしない。この人は背中に目ん玉でもついてんのか!
「くそっ!いや!まだまだ!」
オレたちは必死に連撃を繰り出し続ける。まだ、作戦は終わっていない。
「こんなもんなら、一回仕切り直すか?」
師匠の退屈そうな発言。
「おまえら、俺の行動範囲を制限したつもりかもしれねーが、上空はどうした?」
そして上空に向かって跳躍する師匠。これだ!これを狙っていた!
「ゆあちゃん!」
「グランシールド!」
「あん?」
師匠の真上にグランシールドが顕現し、師匠の動きを封じる。
師匠はグランシールドに左手を触れ、停止する。それ以上の上昇を制限された。そして落下態勢に入る。
「なるほど、いい応用じゃねえか」
オレと栞先輩は落ちてくる師匠に向かって再度、武器を振りかざした。
しかし、右手の刀と左手の鞘で攻撃を防がれてしまう。
「くそっ!」
「もう一手必要だったな?」
「ならこれがその一手よ!!」
「あ?」
上空のグランシールドが消え、そこから鈴が現れた。そう、師匠が落ちてきた後、グランシールドを階段上に展開して、真上まで移動していたのだ。
二丁拳銃でゴム弾を連射する。銃弾の雨を降らせた。
師匠は、空中で身体を回転させながらそれを弾く。しかし、オレと栞先輩が地上にいるわけで、3対1の構図だ。
地上の挟み撃ちが通じないなら、空中で挟み込めばいい。これがオレたちの必殺だ。
師匠は、空中で身動きが取りずらいのだろう。身体を回転させて攻撃をはじいているが、ついにオレたちの攻撃が師匠に届く。
ゴム弾がかすり、双剣が太ももにあたり、薙刀の刃が師匠の袴を切り裂いた。
地上に着地する師匠。遅れて鈴も着地して距離を取った。
「……合格、だな」
「やったー!ついに師匠に勝った!!」
「やりましたね!」
「わぁーい!」
「ふん!こんなオッサン楽勝よ!」
オレたちは円になってワイワイ騒ぐ。
「おい、負けたわけじゃ……いや、今はいいか……」
「うふふ♪あの子たち、どうですか?荻堂先生?」
「ああ、見込んだ通り、見込みがあるやつらだ」
「……もう一度確認しますけど、池袋駅ダンジョン、絶対、勝てるんですよね?」
「今のところ、9割がた勝てる」
「それじゃあ困ります」
「ああ、だから、残り1割をこれから埋めるつもりだ」
「……わかりました。お願いします」
師匠との訓練を開始して5ヶ月後、オレたちはついに師匠に一太刀入れることに成功した。初めて戦ったときは、正直触れることすらできないと思っていた相手に一矢報いたことで、オレたちの興奮はしばらくおさまらなかった。