師匠が稽古をつけてくれるようになって、3ヶ月後、師匠との訓練は今まで通り厳しく、オレたちの成長に合わせるように要求されることも多くなってきていた。
「いきます!」
オレは師匠に向かって2セット4本の双剣を投げてつけてから走り出す。いつもなら適当に弾かれるか白羽どりされるかだろう。そう予想しながら右手側から回り込もうとする。
オレの目線と、飛んでいる双剣が重なり、師匠がほんの数コンマ秒見えなくなった瞬間、視界が戻った先には師匠がいなくなっていた。
「え!?」
「だから、なんとなくで動くなって言ってんだろ」
ズビシ!
「ぎゃ!?」
右肩に思い切り手刀を喰らった。
「ぐあぁぁあ!!」
死ぬほど痛い。
「大袈裟に騒ぐな」
「大袈裟って!あぁぁ!!なんかツボでもついてるんすか!いてぇぇ!!」
「まぁ、人体の弱いところは狙ってるな」
「最悪だこの人!!」
「男は殴られてこそ強くなんだよ」
「……なるほど」
オレは妙に納得してしまった。目の端で女性陣が冷ややかな目をしているのはスルーしておく。
「でだ、咲守。さっきも言ったが、なんとなくで動くのをやめろ。相手を視界から外すな。それと3手先まで考えて動け」
「はい!わかりました!師匠!」
「なんであいつはあんなに楽しそうなわけ?殴られてこそ強くなるとか訳わかんないだけど?ねぇ、栞もそう思うでしょ?」
「いえ、うちはああいうスパルタ家系だったので、わりとよく見る光景でしたね。不思議と何も疑問を感じません。私も父に似たようなことされてましたし」
「は?マジで言ってんの?DVじゃない……それに、あんた女なのに……」
「実は私、小学3年生まで男として育てられたんです」
「は?」
「小学四年生になって胸が大きくなったら、なぜか父が大人しくなりました」
「ま、マジで何言ってるかわかんないんだけど……」
「栞ちゃん……かわいそう……」
「あれ?私ってかわいそうだったんでしょうか?」
「的場さーん、グランシールドの訓練の続きやるわよ〜」
「……桜ちゃん、なんかいつも楽しそうだよね?」
「別にそんなことありませんよ?生意気なガキを合法的に攻撃できて楽しいなんて、1ミリも思ってませんよ?」
「……グランシールドで弾いたボールぶつけてやるんだから!」
「あ、ならガラス越しの別室で操作しますね?」
「卑怯者!」
今日も今日とて、この2人はいつも通りだった。
♢
-さらに1ヶ月-
「ま、ボチボチになってきたな」
師匠からそう言われたのは、修行を始めてから4ヶ月経ってからだった。
「おお!ならそろそろダンジョンに!」
「いや、まだだな。今行っても勝てるかどうかは半々ってとこだろう」
「な、なるほど……」
「こっから、勝率100%を目指す。おまえら」
「はい!」
師匠の前に、オレと鈴、栞先輩とゆあちゃんの4人が並んだ。
「今日からは実戦を想定して戦う。4人全員で俺にかかってこい」
「4人で?さすがの師匠でもそれはキツいんじゃないですか?」
「舐めてんのか?一撃でも入れられたらなんでも奢ってやるよ」
「言ったわね!ボコボコにするわよ!積年の恨み!」
鈴が二丁拳銃を構えてニヤつく。
「私も本気でやってみたかったんです」
栞先輩も楽しそうだ。
「ゆ、ゆあは後ろから援護するねー……」
幼馴染は逃げ腰だった。
ということで、オレと栞先輩と鈴がスリートップ、ゆあちゃんが後衛という脳筋布陣で構える。
「その布陣でいいんだな?」
「はい!」
「よし、いつでもこい」
そして戦闘がはじまる。前衛3人が走り出すと同時に、師匠がオレたちの間をするりと駆け抜け、ゆあちゃんが組み伏せられた。
「ええ!?ふぎゃ!助けて〜!りっくん!鈴ちゃーん!」
幼馴染のSOSを聞いて、すぐに駆け出す。全力で。
「うぉぉぉ!!」
「バカが。冷静に状況を見ろ」
ゆあちゃんが首根っこを掴まれてオレに向かって放り投げられる。
「わわ!?」
ガシッと受け止めた。そして、師匠に足を払われる。
「うわっ!?」
「ああ!?」
背中から地面に倒れ、ゆあちゃんに押し潰された。
「やぁ!ハッ!」
栞先輩が薙刀で連続して突いてくれるが、師匠はすべてかわし、薙刀を奪い取る。その薙刀を振り回しながら鈴の二丁拳銃を払い落とし、戦闘は終幕となった。
「……ちっ!」
鈴の舌打ちが聞こえてくる。
「なんだその態度は。悪態をつく前に反省しろ。今の戦い、何がいけなかった?」
「……1番身体能力が低いゆあを後衛に置いて疎かにしたこと」
「それから?」
「オレが冷静さを失って突っ込んだこと」
「そうだな」
「私と鈴ちゃんのカバーも遅かったかと」
「ゆあがびっくりして、固まっちゃったところ……」
「ま、そんなところだろう。それを踏まえてもう一本だ。5分だけ考える時間をやる」
そう言ってから師匠は少し離れた位置に歩いていった。
「ねぇ、ゆあ、勝てる気しないんだけど……」
「いや諦めんなよ。やってやろうぜ」
「そうですね。今度はゆあさんを真ん中に囲った陣形にしてみましょうか」
「それとあんたはすぐグランシールド張って」
「わ、わかった!」
そしてまた師匠との戦いが始まった。この日は5回戦まで行ったが、オレたちの攻撃が師匠に届くことは一度たりともなかった。