キラキラと、生い茂る緑を
六月、新しい学年へと進級してから随分と経った日のこと。先週に放送していた夜のニュース番組で、長野県も梅雨に入ったとお天気キャスターを務めている若い女性が言っていた。
梅雨ってよりももう夏やろ。
野球部に所属している
眞紀が通っている
高校生になりたてだった去年は、眞紀も確かにはしゃぎ倒していた。一念発起して親元を離れ、故郷から遠い長野県まで
可愛い女子生徒はいないかと探してみたり、同じ野球部の仲間を冷やかし混じりに応援をしてみたりと心の底から楽しんでいた。
かたや今年の眞紀は、クラスにもなじめず、一人ぼっちで用意してあった椅子に座ってグラウンドをボケっと眺めていた。次第に浮かれ切ってふわふわと浮いている空気で息が出来なくなってきた気がして、蹴飛ばすようにして椅子から立ち上がると、安っぽいスピーカーから流れてくるひび割れた流行りの音楽から逃げるようにして踵を返したのだった。
「どこもかしこもイチャコラしとるカップルだらけやないか、くそっ」
小さな声で吐き出す。グラウンドに近いところには点々と等間隔でカップルがそこかしこで愛を育んでいる。
鴨川でももうちょいおらんぞ。
聞こえてはいけないと思い、心の内でそうぼやいてみる。幸せそうに見える生徒たちが視界に入ってくるごとに、眞紀の足取りは
さやさやと耳に入ってくる音が人の囁きから、草葉が擦れあうざわめきへと変わりだした。辺りにふと視線をやると、気づけば随分と奥まったところまで来ているようだった。
小牧緑風館高校は長野県にある、山の麓近くの広大な土地に建てられた私立高校である。その敷地は縦横に過不足なく広いが、縦の方が大きく取られた作りになっている。その最奥、
山裾に建てられているだけあり、第二体育館の裏手には木々や野花が生い茂り、溢れんばかりの生命力を醸し出している。胸いっぱいに息を吸い込んでみると、草花特有のすっきりとした空気がして胸がすいていく。
少し向上した気分を感じながら、鼻歌交じりに足元で伸びている雑草を踏みしめ更に奥へと歩いて行く。好き勝手にあちらこちらへと伸びている雑草は、眞紀の大きな足で潰されても簡単にその命は潰えない。グッと頭をもたげ、空へと伸びようという意思を感じさせる。サクともザクとも聞こえる、反発力の強い地面を確実に踏みしめながら深い呼吸を繰り返していれば、呼吸を吐き出す度、見えないおもりで覆われた眞紀の身体は少しずつ軽くなっていくようだった。