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キミが還った夏は、透明な糸に繋がれていた
キミが還った夏は、透明な糸に繋がれていた
葉月夜狐花
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年06月29日
公開日
3,553字
連載中
私立夕凪学園中等部に通う、星ヶ浜千夏。彼女の所属する科学部は文化祭の展示に向けて準備を始めていた。仲の良い同じクラスメイトと別れ一番乗りで部室についた千夏を待っていたのは、膝から下が透明の白髪の少年だった。彼は千夏にしか見えないようで、遠い昔の未練を抱えていると話していた。彼が抱える未練とは。なぜ千夏にしか見えないのか。

第1話

 「千夏ちなつ!先に部室行ってて!面談終わったら私も行くから、部長にも伝えるのお願い!」

 「分かった。じゃ、また後で。」


 7月、夏休み1週間前。短縮授業が始まり、午後は三者面談が行われようとしていた。クラスメイトで同じ部活の天音あまねは今日の三者面談のトップバッターだった。私はというとひと足先に荷物を持って部室に向かう。


 夏の暑さが厳しくなり始め、昼下がりの廊下は熱気で溢れていた。教室から部室までは2階分階段を登らなくてはいけない。そこまで遠いわけではないが、流石のこの暑さでエレベーターを使いたくもなる。

「最近、天気が頭悪いんだけどな……」

 暑さによって疲れも増し、部室に行く足取りが重くなる。天音がいたら雑談しているだけですぐに着くような部室も、今はとても遠く感じる。鬱憤を天気のせいにしつつ、暑さや部活への不満を呟いていた。


 私が通う、私立夕凪ゆうなぎ学園は7階建て。流石に移動手段が階段だけというわけにもいかなく、2台だけエレベーターがある。そんなエレベーターを使いたいという衝動に駆られてはいたが、なんとか抑えて部室に辿り着いた。周りに人の気配はない。もしかしたら一番乗りかもしれない。

「最悪すぎる……」

 一番乗り、それは鍵が開いていない可能性があるということ。そして、その鍵を取りに行くためにわざわざ職員室まで行かなければいけないということ。近くに誰か部員がいるか、一番乗りじゃなければそんな仕事をしなくてもいいが、部室に人の気配はない。周りに部員もいない。他のクラスはショートホームルームが延びているのか…?そんなことを思いつつも、ドアに手をかけ勢いよく開けようとしてみる。


 ドアが左にずれて、一気に冷気が押し寄せてくる。部室は開いていたみたいだが、中に誰かいる気配はない。もしかしたら、午前中の授業での鍵の締め忘れかもしれないと思いつつ、冷房の効いた中に急いで入ってドアを閉めた。

「涼しい。生き返る、これなら一番乗りも悪くないなぁ。」


 机に荷物を置き、椅子に座りつつ今日やることをタブレットで確認する。文化祭でどんな展示をするかまとめたメモを眺めながら実現可能かを考えてみる。


 私が所属しているのは科学部。夕凪学園中等部の生徒で構成され、イベント参加や文化祭の展示、研究などが主な活動内容。4月から7月にかけて、イベントに出展するための研究をグループに分かれて行う。その後からは文化祭の準備期間になり、中2がグループのリーダーなどを務めるようになる。イベントには他の企業や団体も参加している。主催は確か大学だったはずだ。


 そんなイベントも無事、大盛況のうちに終わり、文化祭の準備が始まった。昨日、グループ分けがされた。昨日はとりあえずグループのメンバーとどんなことをするか案出しを行った。その後、家で詳細を調べてみて、今日はどれをやるか方向性を決めるつもりだ。


 (みんな、遅すぎじゃないか?!)

 他の部員は、数分経ってもまだ来ない。今日は部活があるはずで、多少三者面談で来れない人がいたとしても、もともと60人近くいる部活だから、誰も来ないなんてあり得ないはずで……


 こんな時に天音がいたらどれだけ助かったことか。本当に、なんで今日が面談なんだろう……せめて、他のグループでもいいから誰かしら来てほしかった。せめて、同じグループの先輩でも、後輩でも……


 「部長探しに行こうかな……?」

 そう思いながらタブレットを閉じ、席を立つ。ふと、誰かの気配に気づいた。まだ、ドアが開いた音はしていないはずで、部員でもない誰かが。いや、もしかしたら私よりも先に来ていたけれど、私が気づいていなかったからなのかもしれない。


 視線の先に目をやると窓の近くに見知らぬ少年がいた。その子はじっと窓の外を見て立っていた。いや、浮いていた。が、正しい表現なのかもしれない。白い髪、痩せた体、着ている服は、直垂というのだろうか。歴史で習ったことのある、昔の日本の庶民の服を着ていた。


 彼がこちらを向く。ばっちりと目が合ってしまう。その瞬間、私は動けなくなった。

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