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第10話


 翌日から、甘い新生活が始まった。レイルとの生活はなに不自由なく、穏やかで幸せだった。

 あっという間に一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎた。


 オリヴィアとレイルの関係も少しづつ縮まって、今では一緒に寝るようになっていた。とはいっても、キス以上のことはまだなのだが。


 さらさらと、頬を筆のような優しいなにかに撫でられる感覚に、オリヴィアは目を覚ました。


「んん……」


 身体が温かい。


 目を覚ますと、オリヴィアはレイルの腕の中にいた。顔を上げると、にこにこ顔のレイルと目が合う。


 ぎょっとした。


「ふふ、起きた?」


 レイルはオリヴィアに想いを告げてからというもの、さらに積極的になった。


「おはよう、オリヴィアさん」


 と、レイルはオリヴィアの前髪を優しくかきあげ額にキスを落とす。


「う……朝から心臓が止まる〜」


 顔を両手で隠すオリヴィアを見て、レイルは肩を揺らした。


「こんなことで止まらないよ、大丈夫」


(最近レイルくんが甘過ぎるどうしよう)


「オリヴィアさんの寝顔めちゃくちゃ可愛かった!」


 ふにゃっとした顔で抱きついてくるレイルに、オリヴィアは朝から茹でダコになっている。


「やめて死にそう……」

「それは困る」

「じゃあ離れよう」

「それもやだ〜!」


 さらに強く抱き締められる。ぴたっと触れ合った素肌に深い愛を感じていると、突然ぐ〜っと不思議な音が鳴った。


 ハッと目を開く。

 レイルは声を殺して笑っていた。


 かぁっと全身の血が顔に集まっていく。


「う……レイルくんのバカ」

「ごめんごめん」


 しかし、まだレイルの肩は揺れている。オリヴィアは頬を膨らませて、レイルに背中を向けた。


 すると、レイルは慌てたように起き上がった。


「ごめんって、オリヴィアさん。怒らないで」

「…………」

「オリヴィアさん〜」

「…………」

「あ、今日の朝ごはんはオリヴィアさんが好きなものにしようか」

「…………」

「オリヴィアさん〜」


 今度はオリヴィアがくすっと笑みを零した。くるりと身体の向きを変え、レイルを見上げた。


「冗談だよ」

「もう……オリヴィアのバカ〜」

「じゃあ、嫌い?」

「好きですバカ〜」


 再び抱き合って、笑い合う。しばらくじゃれあってから、ようやくベッドから出た。


「さて、朝ごはんは、パンケーキとフレンチトースト、どっちがいい?」

「フレンチトースト……!!」

「了解。じゃあ、ちょっと待っててね」

「うん」


 ほどなくして朝食ができあがると、レイルはプレートを持って部屋に戻ってきた。


 甘いはちみつの香りが食欲をそそる。


 今日のメニューはフレンチトーストにはちみつ漬けナッツのヨーグルトとはちみつ紅茶。

 はちみつづくしだ。オリヴィアの大好物である。


 トーストを口に運びながら、レイルが言う。


「今日は予約が入ってたドレスを街に出しに行ってくる。ついでに王宮に寄ってくるから、少し遅くなるんだけどひとりで大丈夫かな?」


 そういえば、昨晩そんなことを言っていた。

 レイルはレイン・シルヴァという名前で魔法具(特にドレス)を売って稼いでいた。


 レイルが作るドレスはどれも美しく、さらに魔力も込められているためかなり人気のようだ。


「それなら私、庭でデッサンしててもいい? 新しいドレスの」

「もちろんかまわないけど……じゃあ、カーディガン出しておくよ。外に出るときは必ず羽織って。風邪引くといけないからね」

「それくらい大丈夫なのに……」


 相変わらず過保護が過ぎるレイルである。


 思わず口を尖らせると、 

「オリヴィアさん」

「む……」


 こうなると、レイルは折れない。オリヴィアはこの数ヶ月で学習した。こういうときは素直に頷いておくに限る。


「わかった。羽織ります」

「よろしい」


 朝食を終えると、レイルは食器を持って、着替えに部屋を出ていった。


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