目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第26話


 レイルが着替えから戻ってくると、オリヴィアはソファにころんと寝転がり、クッションを抱えて丸くなっていた。


「オリヴィアさん、寝るならベッドに……」

「ねぇ、レイルくん」

「ん?」


 オリヴィアは、レイルをじっと見上げて言った。


「助けに来てくれてありがとう。……私、今回ばかりは本気で死ぬかと思ったんだ」

「……うん。帰ってきて、オリヴィアさんがいなかったときはさすがに僕も肝が冷えたよ」


 レイルはオリヴィアに近付いた。


 地面に膝をつき、オリヴィアの髪をそっと掬った。髪に触れていた手は、そのままするりと頬に流れる。頬の傷は、医官の治癒魔法によって既に塞がっている。


「傷が残らなくてよかったけど……正直、まだ心臓がバクバクしてるんだ。君を失うかと思うと、怖くて怖くて堪らなかった」

「ごめんなさい……」


 オリヴィアはしゅんとして、起き上がった。耳にかけていた髪がさらりと前に垂れる。レイルの喉仏が一度、こくりと上下した。


「オリヴィアさん……」

 レイルがオリヴィアを抱き寄せる。


「ごめんね……怖い思いさせて、痛い思いさせてごめん。僕、オリヴィアさんのこと全然守れなかった」


 オリヴィアはふっと笑って、首を横に振った。


「……そんなことないよ」


 レイルは身体を離し、オリヴィアを見た。レイルの瞳は今にも涙が零れそうなほど潤んでいる。


「……なんでレイルくんが泣くの」

「だって……だって」


 よしよし、とオリヴィアが優しく抱き締め返すと、レイルは子供のようにオリヴィアにギュッと抱きついた。


「私……レイルくんが来てようやく泣けたんだ。ラファエル王子に捕まってから私……怖くて不安でどうしようもなかったけど、それでも泣けなくて……それなのに、レイルくんの声聞いたら、なんか一気に緊張が解けちゃって」


 ぽっと胸元からレイルが顔を離し、オリヴィアを見上げた。犬のようだ。


「……僕が泣かせたってこと?」

「うん」

「それは喜んでいいのか……」


 レイルが複雑な顔をする。


「つまりね、安心するんだよ。レイルくんと一緒にいると」

「安心……そっか」


 すると、レイルはおもむろににこっと笑った。


「本当は、違う意味で泣かせたかったんだけどなぁ」

「えっ」


 どういう意味、と尋ねようとすると、視界がぐるりと変わった。オリヴィアはレイルに抱き上げられていた。


「ちょっ……わっ」

「暴れたら危ないよ、オリヴィアさん」 


 身体が不安定になり、オリヴィアは慌ててレイルの首に手を回す。すると、レイルはくすっと嬉しそうに笑った。


「そ。いい子。そうやって僕に掴まってて」 

「レイルくん、どこに……」

「部屋だよ。疲れたから、部屋で二人でゆっくりしよう?」


 レイルは懐っこい笑顔を浮かべて言った。無邪気な笑顔だけど、どこか黒い。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?