「美味しいですねっ」
「ホントにそうね!すっごく美味しいわ!」
オレたちは、宿屋ふくろうの食堂でランチ定食に舌鼓を打っていた。比較するのも申し訳ないが、オラクルで食べたどの食事よりも美味しかった。
「はぁー!この宿にして正解だったわね!さすがリリィだわ!」
「いえいえ、たまたま教えてもらっただけですよ。きっと有名な食堂なんでしょう」
「それにしても美味かった!これからの食事も楽しみだね!」
この世界にきてから始めて、リピートしたいお店を見つけてテンションが上がっている。
「いやー!にいちゃんたち、ありがとうよ!そんなに美味そうに食べてくれて、オレも腕を振るった甲斐があるってもんだ!」
厨房からこの食堂の大将らしきおっちゃんが出てきて、話しかけてきた。
お店の雰囲気や料理の美しさからしたら、シェフ、と呼ぶべきかもしれないが、そのおっちゃんがスキンヘッドで気前のいい口調なもんだから、大将、という言い方の方がしっくりきた。
「だって、本当に美味しいもの!あなたが作ったの?やるじゃない!」
「へへへっ!カワイイ嬢ちゃんに褒められたらおっちゃん照れちまうよ!」
鼻を掻きながら嬉しそうに言う大将。
「すごい美味しかったです!このお店はリングベルで有名なんですか?」
リリィの言葉を借りて聞いてみた。
「そうさ!うちはリングベル1の食堂!ふくろうさ!
とぉ〜、言いてぇところだが!やっぱり師匠の店には敵わねぇな!」
「お師匠さんがいらっしゃるんですね」とリリィ
「ああ!オレがまだ若いころ、師匠に教えてもらったおかげで、ここまでのもんを作れるようになったのさ!
そこはファビノ食堂っていってよ!リングベルにきたら、まずはそこに行け!って有名だったもんよ!」
過去形だ、つまり、
「今はもう営業してないんですか?」
「あぁ……残念ながら少し前によ…師匠は天国にいっちまったのさ…
でもよ〜…娘が継いでくれてたらなぁ〜…」
「あんた、その話はよしときな」
厨房からおかみさんが顔を出し、会話に参加した。
「かぁちゃん!だって、そうだろうよ!みんなそう思ってるさ!オレはあいつらがよぉ!」
「あんた!」
「…わ、わかったよ、かぁちゃん」
おかみさんの剣幕に大将がしょんぼりする。
なんだろう?なにかマズい話題なのだろうか?
「ま、まぁよ!またうちでメシ食べてってくれよ!にいちゃんと、べっぴんなお嬢さんと可愛い嬢ちゃん!」
「また食べにくるわ!」
元気に返すソフィアに続き、もちろんオレとリリィも頷いた。
♢
遅めのお昼を済ませたオレたちは、少し町を散策することにした。
「広い町ねぇ〜」
ソフィアは食事で気分を良くしたのか、ルンルンで大股になって歩いている。
「ソフィア、お行儀よくしなさい」
案の定、リリィお姉ちゃんに叱られていた。
「いや〜、それにしても美味しかった。もしやってたなら、お師匠さんのお店も行ってみたかったね」
「ホントそーねー!あ!あれじゃない!ファビノ食堂!」
ビシッ!とソフィアの指差す先にその名の付いた看板のお店があった。しかし、扉は閉まっていて、室内も暗いようだ。
「ほんとですね。でも、もう営業されてないんですよね、残念です」
「そうだね」
オレたちはファビノ食堂の跡地を横目にぶらぶらを散策を続ける。
「あれ?ここがギルド?なんかずいぶん小さいな」
そのまま歩いていくと、冒険者ギルドの看板を見つけることができたのだが、ずいぶんとこじんまりとしていた。建物は独立しておらず、何軒かがまとっている商店街の一角みたいな風貌だった。
「そうですね、それに、もう閉じてるみたいですし」
時刻は夕方、もうちょっとで暗くなるかな、という時間なのだが、もう閉店状態になっていた。
「んー、リングベルでは冒険者への依頼が少ないのかしら?」
「ふむふむ、それだとギルドも小さくなるもんなんだ?」
「まぁ?たぶんそうなんじゃない?」
とソフィア談、想像だったらしい。
「まっ、また明日来てみようか」
「そうですね」
「そうしましょ」
♢
オレたちは宿に帰りがてら、夕食につまめるものを仕入れておく。
また食堂で食べようか、という話もでたが、まだお腹すいてないし軽いものにしよう、という結論になったのだ。
部屋について、荷物を置いたところで、オレがサイレントのベルを鳴らす。
リーン
「………なによ?」
リリィは赤くなり、ソフィアはジト目になる。ジト目だが頬は赤い。2人ともどういう意味でベルを鳴らしたのか理解しているようだ。
「も、もう限界……」
オレはまず、全然逃げないリリィを捕まえて弄ぶ。
立ったまま片足を持ち上げてみたが、恥ずかしそうにするだけで、リリィは全てを受け入れてくれた。
そのあと、ソフィアを探すと布団の中に隠れていたので、オレも布団に潜って捕まえる。
なんかイヤイヤいっていたが遠慮なしに蹂躙することにした。すぐに大人しくなった。かわいいやつだ。
リングベルまでの旅の工程、8日間。
我慢に我慢を重ねたオレは、しばらく止まることができなかった。