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第42話 リングベル1の人気食堂

「美味しいですねっ」


「ホントにそうね!すっごく美味しいわ!」


 オレたちは、宿屋ふくろうの食堂でランチ定食に舌鼓を打っていた。比較するのも申し訳ないが、オラクルで食べたどの食事よりも美味しかった。


「はぁー!この宿にして正解だったわね!さすがリリィだわ!」


「いえいえ、たまたま教えてもらっただけですよ。きっと有名な食堂なんでしょう」


「それにしても美味かった!これからの食事も楽しみだね!」


 この世界にきてから始めて、リピートしたいお店を見つけてテンションが上がっている。


「いやー!にいちゃんたち、ありがとうよ!そんなに美味そうに食べてくれて、オレも腕を振るった甲斐があるってもんだ!」


 厨房からこの食堂の大将らしきおっちゃんが出てきて、話しかけてきた。


 お店の雰囲気や料理の美しさからしたら、シェフ、と呼ぶべきかもしれないが、そのおっちゃんがスキンヘッドで気前のいい口調なもんだから、大将、という言い方の方がしっくりきた。


「だって、本当に美味しいもの!あなたが作ったの?やるじゃない!」


「へへへっ!カワイイ嬢ちゃんに褒められたらおっちゃん照れちまうよ!」


 鼻を掻きながら嬉しそうに言う大将。


「すごい美味しかったです!このお店はリングベルで有名なんですか?」


 リリィの言葉を借りて聞いてみた。


「そうさ!うちはリングベル1の食堂!ふくろうさ!

 とぉ〜、言いてぇところだが!やっぱり師匠の店には敵わねぇな!」


「お師匠さんがいらっしゃるんですね」とリリィ


「ああ!オレがまだ若いころ、師匠に教えてもらったおかげで、ここまでのもんを作れるようになったのさ!

 そこはファビノ食堂っていってよ!リングベルにきたら、まずはそこに行け!って有名だったもんよ!」


 過去形だ、つまり、

「今はもう営業してないんですか?」


「あぁ……残念ながら少し前によ…師匠は天国にいっちまったのさ…

 でもよ〜…娘が継いでくれてたらなぁ〜…」


「あんた、その話はよしときな」

 厨房からおかみさんが顔を出し、会話に参加した。


「かぁちゃん!だって、そうだろうよ!みんなそう思ってるさ!オレはあいつらがよぉ!」


「あんた!」


「…わ、わかったよ、かぁちゃん」


 おかみさんの剣幕に大将がしょんぼりする。

 なんだろう?なにかマズい話題なのだろうか?


「ま、まぁよ!またうちでメシ食べてってくれよ!にいちゃんと、べっぴんなお嬢さんと可愛い嬢ちゃん!」


「また食べにくるわ!」


 元気に返すソフィアに続き、もちろんオレとリリィも頷いた。



 遅めのお昼を済ませたオレたちは、少し町を散策することにした。


「広い町ねぇ〜」


 ソフィアは食事で気分を良くしたのか、ルンルンで大股になって歩いている。


「ソフィア、お行儀よくしなさい」


 案の定、リリィお姉ちゃんに叱られていた。


「いや〜、それにしても美味しかった。もしやってたなら、お師匠さんのお店も行ってみたかったね」


「ホントそーねー!あ!あれじゃない!ファビノ食堂!」


 ビシッ!とソフィアの指差す先にその名の付いた看板のお店があった。しかし、扉は閉まっていて、室内も暗いようだ。


「ほんとですね。でも、もう営業されてないんですよね、残念です」


「そうだね」


 オレたちはファビノ食堂の跡地を横目にぶらぶらを散策を続ける。


「あれ?ここがギルド?なんかずいぶん小さいな」


 そのまま歩いていくと、冒険者ギルドの看板を見つけることができたのだが、ずいぶんとこじんまりとしていた。建物は独立しておらず、何軒かがまとっている商店街の一角みたいな風貌だった。


「そうですね、それに、もう閉じてるみたいですし」


 時刻は夕方、もうちょっとで暗くなるかな、という時間なのだが、もう閉店状態になっていた。


「んー、リングベルでは冒険者への依頼が少ないのかしら?」


「ふむふむ、それだとギルドも小さくなるもんなんだ?」


「まぁ?たぶんそうなんじゃない?」

 とソフィア談、想像だったらしい。


「まっ、また明日来てみようか」


「そうですね」

「そうしましょ」



 オレたちは宿に帰りがてら、夕食につまめるものを仕入れておく。


 また食堂で食べようか、という話もでたが、まだお腹すいてないし軽いものにしよう、という結論になったのだ。


 部屋について、荷物を置いたところで、オレがサイレントのベルを鳴らす。


 リーン


「………なによ?」


 リリィは赤くなり、ソフィアはジト目になる。ジト目だが頬は赤い。2人ともどういう意味でベルを鳴らしたのか理解しているようだ。


「も、もう限界……」


 オレはまず、全然逃げないリリィを捕まえて弄ぶ。


 立ったまま片足を持ち上げてみたが、恥ずかしそうにするだけで、リリィは全てを受け入れてくれた。


 そのあと、ソフィアを探すと布団の中に隠れていたので、オレも布団に潜って捕まえる。

 なんかイヤイヤいっていたが遠慮なしに蹂躙することにした。すぐに大人しくなった。かわいいやつだ。


 リングベルまでの旅の工程、8日間。


 我慢に我慢を重ねたオレは、しばらく止まることができなかった。

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