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第62話 彼女のために国外逃亡

 シエロス山脈の横穴を通り、国境を越えたオレたちは、そのまま真っ直ぐ山をおりて次の町へ進むことにした。


 リングベルから山頂まで登るのは1日近くかかったのだが、横穴から出て山を下っていったら、1時間もせず下山することができた。


 雷龍様の寝床に向かうために縦穴を降りたことで、かなり山の麓に近いところまで来ていたようだ。


 改めて、シエロス山脈の方を振り返る。


「……私のせいで国外逃亡のような形になり、すみません…」


 申し訳なさそうにするステラの手を握る。


「なに言ってんだ。そんなこと誰も気にしてない」


 リリィとソフィアも頷いてくれる。


「……みんな、ありがとう」


 ステラの目には涙が溜まっていた。


 みんなで少し山を眺めてリングベルを名残惜しんでから、歩き始める。

 山を降りたあたりから緑が増えてきて、今は緑豊かな草原を歩いている。山を背にして数時間歩くと、馬車が通った跡と舗装されてない道を見つけることができた。


 皆で話し合った結果、この道を辿って次の町を探そう、ということになる。


 そのまま道沿いに歩いていき、夕方になったころ、野営の準備をはじめる。


 テントを張って、焚き火をつけ、ステラと一緒に夕食の準備をする。


 みんなで美味しい食事を楽しみ、今は少しのんびりしている。


 焚き火を眺めながら、隣にはステラがいて、オレにもたれかかっていた。


 リリィとソフィアは、そんなステラに嫉妬するわけでもなく、テントの中で寝る準備をしてくれている。


「夢みたいです……こんなに穏やかな日々を送れるなんて…」


 パチパチと音が鳴る焚火を見ながら、ステラが独り言のようにつぶやく。


「そっか、今は楽しい?」


「はい、とっても幸せです。ライさんのおかげですね」


 ステラがこっちを見たので、そっと口づけをした。


 すぐに離すと


「もっとしたいです…」

 とのことだ。へへへ…


 ちゅっちゅっ

 と繰り返す。


 夢中でついばんでいると、


「……もう寝るわよ」

 とソフィアに声をかけられ、2人してビクッとしてしまった。


「ははは…」

「うふふ…」

 と照れ笑いしてから、今日は大人しく寝ることにした。



翌日から


「ライさん♡」

 ちゅっ


「ラーイさん♡」

 ちゅっ


「うふふ♪」

 ちゅっ


 と、ステラが2人の目を盗んでいるようで、盗んでいないところでキスしてくるようになった。


 まぁ、つまりは、リリィとソフィアにバッチリ目撃されることも多々あった。


 最初の方は2人とも大目に見てくれていたのだが、夕方になるころには、ソフィアの頭には怒りマーク、リリィはずっと笑顔が崩れなくなっていた。


 こわい……


 そんな調子なもんだから、みんなで食卓を囲んでいるとき、


「ステラ!あんたイチャイチャしすぎ!」

「もうちょっと、お淑やかにしましょうね?」

 と、ソフィア&リリィに詰められることとなる。


「……」

 火に油になりそうなので、オレは黙っていることを選択した。


「えー?だって私はライさんの妻ですから~。悔しかったら2人もすればいいじゃないですか?」


 あ、煽らないでほしい…


「あんた!節度を弁えなさいって言ってるのよ!」


「え〜?いやです〜」


「あ、あの…」

 ケンカになりそうなので、つい口を挟んでしまう。


「なによ!」


「オレはソフィアとも、リリィとも、イチャイチャしたいよ?」


「うぐっ……そういうこと言ってるんじゃないのよ!」

 ソフィアは少しうろたえたが、キレられる。


「はい…」


「四六時中、ああいうことはいけないと思います」

 笑顔のリリィ。


「そうですかぁ~?じゃあ、夜ならいいってこと?リリィはエッチですね」


「なっ!?そんなこと言ってません!」

 赤くなってリリィもキレる。


 なんだかこわいので、オレはまたお口にチャックすることを選んだ。



 結局のところ、1日中イチャつくのはやめましょう。

 ということになったらしい。


 最後までステラは抵抗していたが、あまりに話がまとまらないので、「は〜い」とステラが適当に答えたところ、一旦話し合いは幕を閉じた。


 しかし、ステラのあの顔……

 ホントにわかっているのだろうか?



-翌日-


「ライさん、今ならできますよ♡」


 次の日からステラはホントに2人の目を盗んでキスしてくるようになった。


 よくないと思いつつも抗えない。だって、こんなに可愛い子に、しかも嫁に求められてるんだもん。


 我慢できるはずある?うん、ないよ、ないよね?

 ねぇ?


 それに、ここ数日、誰ともしていないこともあり、人肌を求めてしまっているところはあった。

 しかし、そんな状態で控えめなキスだけを何度もされては、オレのフラストレーションはどんどん溜まっていってしまう。


 そしてオレは限界を迎えた。



-夜-


「皆さん…もう限界です…」


「はぁ…そろそろ言い出すころかと思ったわ…」


「えっと…つまり…今度は4人で…」


「4人?なんのことですか?」


「ステラ、あんたがイチャついたせいよ」


 まぁ、時間の問題ではあったのだが、ステラの誘惑でブーストされたのは否めない。


「えーっと……じゃあ!私が責任をとりますね!」


 なんのことか分かったらしく、戸惑いながらも、明るく振る舞うステラ。

 4人で、という単語は放置することにしたらしい。


「ダメよ」

 ステラがオレの相手をするのを許可してくれないソフィア。


「え、えっと……それではどうすれば……

 あっ!一緒ならいい!……てことはないですよね。すみません……」


 ソフィアに睨まれて、静かにするオレ。


「あ、あの、私がいない前は、さ、3人で……その?」


 ステラの質問に、コクリ、とリリィが恥ずかしそうに頷く。


「わ、私は大丈夫です!」


 ステラは許してくれた、わくわく。


「それに!ライさんは私のためにすごく頑張ってくれました!みんなでご褒美をあげましょう!」


 な、なんて素敵な提案なんだ…

 オレは両手を合わせてステラ様を崇めた。


「ダメよ」

ソフィア様は許してくれない。しゅーん…


「ソフィア?ステラを助けたあとのことは分かっていたでしょう?どうしたんですか?」


「………わたしも、がんばったもん…」

 ソフィアはスカートを握って下を向く。


「そういうことですか…

 ソフィア、ちゃんとライ様に言わないと伝わりませんよ?」


「……ライ」


「はい!」


「わたしも、ご褒美ほしいわ…」


 ご褒美、ご褒美…


 先ほどの〈わたしもがんばった〉というセリフから察するに、雷龍様との戦いでソフィアが命懸けで頑張ってくれたことだと思い当たる。

 そうか、あのときのお礼、ちゃんとしていなかったよな。


「もちろんだよ!オレにできることならなんだってやるよ!」


 だから、すぐに了承する。


「じゃあ、デートして」


「で、デート?それはもちろん大丈夫だけど、このあたりでデートできるところって……」


 キョロキョロするが、まわりには建物はなく、遊ぶ場所はないように思えた。


「1日一緒にいてあげるだけでいいと思いますよ。ね?ソフィア?」


「うん…」


「じゃあ、明日はソフィアと1日デートしてあげてください」


「わ!わかった!」


 ステラは、「いいなー」という顔をしていたような気もするが、空気を読んで何も言わないでいてくれた。


 明日は、ソフィアとデートだ。


 しっかり、エスコートしなくては。

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