翌日。
「ホノカ姉さん扉を開けてください! 約束はどうしたんですか!! 学校に行くのでしょ!?」
だーれが学校なんて行くか!
登校するたびペットかお人形か、ぬいぐるみのように扱われ、お菓子を献上され、しまいには先生にまで抱きしめられる苦痛な日々を思い出す。
ユウコが扉をドンドン!と叩く音が心地よい。
「ふっふっふ! あんたの負けよユウコ。私の言葉をうのみにしたのが運の尽き! カギをかけてしまえば私の部屋は鉄壁の籠城と化すわ!! もうあなたは私に指一本触れられない!!」
可愛いって言うな、ちっちゃいって言うな、きゃー! って言うな!!
私は見世物のパンダじゃない!
学校に行けば外見ばかり見て私の気持ちを一切無視するクラスメイト達と一緒にいなければならないのだ。
だから私は1年生の後半から学校に行かなくなった。
ネットの世界は気楽だ。
彼らは言葉こそむけてくるが直接私の頭を撫でたりしてこない。
ゲームさえうまければ、気さえあえばやっていける。
嫌な奴はブロックすればいい。
だから私は配信者になると決めた。
学校での関わりなんてもうどうでもいい。
ユウコさえいれば……。
「昨日まで鍵なんてかかってなかったでしょうが! いつかけたんですか!?」
「ふっ、甘いわねユウコ、私は外に出たのよ? ついでに近くのホームセンターでカギを買うくらい造作もないことよ」
「なんでそういうところだけ無駄に行動力があるんですか……!」
「ほらほら、さっさと学校行かないと遅刻よ遅刻!! きゃっきゃっきゃ!」
高笑いをすると、扉を叩く音が止んだ。
「わかりました。でも姉さんいいんですねこれで」
静かな怒りのこもった声が届く。
「な、なによ? 脅迫はもう効かないわよ!」
だって私はセーフティゾーンにいるのだから。
もう外に出る必要は……。
「脅迫するつもりはありませんが。トイレは? お風呂はどうするのですか? 宅配便の受け取りは?」
「うぐ、そ、それはユウコが学校に行ってから……」
「そうですね。それで済むでしょうね。ですがご飯はどうするんですか? 姉さん料理できないですよね? 私はお部屋にこもっている人にご飯を届けるほど優しくはありませんよ?」
結局脅迫じゃない!
「わかったわよ!! 行けばいいんでしょ行けば!」
ユウコの美味しいご飯が食べられないのはつらい。ちっ!
部屋から出ると、呆れ顔のユウコが私の制服を持って待っていた。
「姉さん、手を煩わせないでくださいね?」
てきぱきと制服を着せてくれるユウコ。
「今日だけなんだからね! 明日からまた引きこもってやる!!」
「それを私が許すと思いますか?」
「あ、姉の方が偉いのよ!? 姉の言うことを聞くのが妹でしょ!」
「制服もまともに着れない姉の言うことは聞きません。はい、できましたと。行きましょう姉さん?」
「それはあんたが着せてくれるから……!」
にこっと微笑みを浮かべるユウコの目は笑っていない。
そのまま玄関の外に出た。
「や、やっぱり行きたくないわ! おうち帰る!!」
外に出て、朝日のまぶしさと世界の広さに怯んで引き返そうとする私だが……。
「さあ、行きますよ姉さん!」
ガシ! ひょい! ユウコが私を米俵を乗せるように問答無用で肩に乗せた。
「な!? はな、放してユウコ! は~な~せ~~! 学校やだぁああ!!」