むかしむかしのおはなしです。
それは夏のはじめのことでした。
おきさき様がおしろの塔のいちばん高いおへやから、外をながめておりました。
まどの外、おしろのかべの向こうにはおおきな森がひろがっておりました。
あざやかなみどり色の葉っぱが、おひさまの光ををいっぱいにあびておいしげり、えだ先で小鳥たちがたのしそうにさえずっています。
おきさき様は、森のふちにまっ白なお花がさいているのを見つけていいました。
「あらあら、まあまあ。
なんてきれいなお花だこと!」
それはとてもみごとな、うつくしいユリの花でした。
あたたかなそよ風にふかれて白い花びらがゆれるのをみて、おきさき様はそのかおりが塔のてっぺんにまでとどいたようなこころもちになりました。
「あのユリのように、まっ白でかわいらしい女の子をさずかりたいものですねえ」
おきさき様はうっとりとしながらそうつぶやきました。
するとどうしたことでしょう。
ユリの花びらがすこしゆれると、中から小さな、はねのはえたようせいがとびだしてきたではありませんか!
ようせいは塔のてっぺんまでひらひらととんでくると、おきさき様のあたまの上を三ど回りました。
そうしておどろいたおきさき様が小さくまばたきをしたあいだに、ようせいはフイときえてしまいました。
おきさき様はゆめでも見たのかしらとつぶやいてまどの外に目をやりましたが、森のふちにはきれいなユリの花が先と同じように、きもちよさそうに風にゆられているばかりでした。
よく年の春になって、おきさき様はお子をさずかりました。
それはすきとおるような白いはだに、ぎんいろにかがやくかみ、そして宝石のようにキラキラとした赤いひとみのとてもかわいらしい女の子でした。
「なんとうつくしい子でしょう!
まるであのときの白ユリのよう。
そうだ、この子を『白ゆり姫』となづけましょう」
―― 『クリーム童話集 白ゆり姫』より