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秤の子
秤の子
牧野りせ
異世界ファンタジースローライフ
2025年06月30日
公開日
1.1万字
連載中
世界は一言の神から始まった。とされるサコクシロの世界。 48部族の狼獣人のワ族長と白鳥獣人のメ族の娘の間に生まれたワカネは両親に全く似ていない夜空を切り取ったような麒麟の姿で生まれた。自分の容姿とかけ離れた黒い異形の娘に母親は直視できず、子を残して立ち去ってしまう。その姿に失望を隠せない父親のワカギは一族初めての娘となるワカネを連れて帰ることを決意する。 なぜ自分は突然変異して生まれたのか、どんな意味があるのか自問自答しつつも優しい一族の男たちに守られつつほのほの育つワカネの幼女冒険ファンタジー。……になるはず。

第1話 創世神話

むかしむかし、まだ天も地も、時すらも芽吹いておらぬ頃――。

そこにはただ、うつろなるものが、しずかにたゆたっておった。


やがてその「うつろなるもの」の中に、どこからともなく温かな風がふいてきた。

それは目に見えず、音もなく、けれど確かに心をふるわせる風であった。


その風にふかれて、三つの響きがそっと芽を吹いた。

それが、ア・ウ・ワ。

この三つの響きは、やがて形を持ち、声を持ち、天地の理を抱く三柱の神となった。


人はこの三柱を、「ミオヤノミコト(御親命)」すべての命のはじまりを抱く、音の親神と呼んだ。


ミオヤノミコトは天・火・地を調え、光と動きと結びの場を、この世に初めてもたらした。


その「場」にふれ、ふたたび風がめぐるとき――

ひとつの響きが八つにわかれ、八柱の神があらわれた。


それが、ト・ホ・カ・ミ・エ・ヒ・タ・メ。

人はこれを、トホカミエヒタメノカミ(遠神八柱命)と呼ぶ。


これら八柱は、ミオヤの御心を受けて、天地八方に散り、世界に法と秩序とめぐりをもたらした。


彼らが歩むところに季節が生まれ、語るところに音が宿り、ふるうところに命がめぐる。


そしてこの八神のうねりから、やがて――

四十の音の神々(言霊の神々)が目を覚ますこととなる。


かくして、四十八の言霊の神々が揃い、それぞれの役割を果たしながら、この世界を調和と平和で満たした。


言葉は優しく人々の心を繋ぎ、火は暖かく命を育み、大地は豊かに実りをもたらし、風は自由に生命の息吹を運んだ。


神々の響きは、やがて人の心にも宿り、人は神々の教えを胸に、互いに助け合い、共に生きる道を歩んだ。

そして世界は、一言の神たちの調和のもと、永遠の平和を刻む歌となった。


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