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鍋島真奈美の失恋と新しい恋? その2

あの男に再び会ったのは実に十日後だった。

多分、それより短かったら見かけただけでイライラしていただろうし、それより長かったら興味も薄れてしまっていたに違いない。

つまり程よい感じだという事だ。

まぁ、程よいと思ったのは、後日なんだけどね。

ともかくだ。

運命の女神さまは、本当に気まぐれで、ずるいのである。



その日は、お気に入りの作家さんの小説の発売日で、仕事が休みという事もあり、朝早くから起きて洗濯と掃除を済ませて本屋に向かった。

一応、予約はしている。

でもなんか足早になるのは仕方ない事だと思う。

そして到着すると、まずは新刊コーナーを見る。

どんな風なポップで飾ってあるか気になるのだ。

行きつけの本屋さんのセンスは中々いいので楽しみの一つとなっている。

おっ、今回はこう来たか……。

そんな事を思いつつ新刊のコーナーを見る。

そして、予約している本以外にも気になった本をちょいちょいとチョイスしていく。

要は、表紙買い、タイトル買い、ポップ買いの類である。

やはりこういう買い方は、インターネットじゃ味わえない。

もちろん、ハズレもある。

だが、それ以上に新しい本との出会い、そして当たった時の嬉しさは格別だ。

ざっと五冊チョイスしてレジに向かう。

レジにはいつもの女性がいた。

よく話す店員さんだ。

最近は成して気が付いたが、どうやら彼女が新刊コーナーの担当らしい。

だってさ、新刊コーナーじっと見て、チョイスして持ってくると嬉しそうなんだもん。

で、行くともう予約の分はカウンターに用意されていた。

「あ、こんにちわ」

そう言って微笑んてくれている。

「こんにちわ」

私はそう言って持っていた五冊をカウンターに置く。

その本を見て、店員さんはすごくうれしそうだ。

清算をする間、私は前回買った新刊や本の話をする。

店員さんは、そんな話を聞きつつ、頷き、そして自分の意見を言ってくれる。

なんか楽しい。

私としては、こういう小説や本の話が出来る友達がもっと欲しいとは思う。

もっとも、なかなか出来ないのが現状だ。

だってさ、人によって好みがあるんだもの。

多分、この店員さんはまんべんなく読んでいる感じだけど、話してて時代劇っぽいものが好きなんだろうなと想像がつく。

なんせ、最近、ドラマになった江戸時代の女性が主人公の料理屋の奮戦記とか、生き別れになった姉妹の商売繫盛記都とかだけではなく、新刊もその傾向の話が多いし、今や古典と言ってもおかしくない昭和の小説の話も出で来る。

まぁ、私も全部読んでますし、小料理屋奮闘記や使用倍繁盛記はうちの本棚にもあるしお気に入りだ。

だが、もう少し違うジャンルの話もしてみたいなと思ってしまう。

私の好みは、伝奇小説やホラー要素の高いやつだ。

勿論、恋愛小説も大好きだけどさ。

だけど、学生時代に出会ったHKさんの学園伝奇シリーズに脳を焼かれたものとしてはどうしてもそう言ったジャンルをよく読んでしまうのだ。

特に最近はKNさんやUGさんの小説にがっちりハマってる。

大体、予約した小説だって、KNさんの新刊だ。

人気シリーズの最新刊だが、実は一冊を除いてKNさんの本は全部読んでいるし所有していたりする。

まぁ、熱狂まではいかないものの、熱烈なファンではあると思う。

だから、店員さんとの本談話を楽しみつつ会計を済ませると、私は最近行きつけの喫茶店に向かった。

弘子さんと一緒に行ったのが初めてで、あの女との宣戦布告をした場所ではあったが、昭和風のレトロな雰囲気が気持ちよくて、あれ以降はよく行っていたりする。

長時間滞在は迷惑かなと思ってマスターに聞いてみたら、かえって喜ばれた。

貴方みたいなかわいい人が席に座って本を読んでるって言うのは実に絵になるからと。

なんか恥ずかしい。

でも、まぁ、迷惑じゃないならいいかと思う。

確かに満員になっているってことは余りないからな。

だから、大体本屋に行った後は、ここでのんびりと紅茶とクッキーを楽しみつつ新刊を読むのが、最近の私の癒しとなっていた。

そしてその日ものんびりと楽しんでいたのだが、喫茶店のドアが開き、三人の男達が楽し気に話をしつつ入ってくる。

三人ともなにやら結構な大きさのビニール袋を持っている。

多分、買い物帰りだろうか。

袋の形状や大きさ、それにちらりと見えた感じではプラモデルのようだ。

脳裏にあの女の顔が浮かぶ。

折角の気分も台無しだ。

さっさと本に戻ろう。

そう思った時だった。

三人のうちの一人に見覚えがある。

そして、気が付いた。

あの男だ。

お兄ちゃんの結婚式で私に偉そうなことを言ったあの男だ。

今日は、私服という事もあり、結婚式で見たスーツのような違和感がない。

まぁ、オタク寄りの服装だから、似合い過ぎて気が付くのが遅くなっていたという感じか。

ともかく、間違いなくあの男だった。

おっと、ジロジロ見ちゃだめだ。

そう思って本に視線を向けるも、耳はしっかりと三人の会話に聞き耳を立てていた。

もちろん、無意識である。

後で思い返せば、なんでだろうと思う。

だが、ともかく、この時はなんでか気になってしまっていたのである。

三人はなにやら買った模型の話をしているようだ。

模型の事はそんなに詳しくないから、話の半分もわからない。

バリ?ラッカー?エッチング?

知らない単語が飛び交う会話。

本当にわからない。

だが、それでも聞いていると楽しげなのがわかる。

そして気が付くと私の視線は本から三人の方に向いていた。

そして気が付く。

あ、あの男、あんな風に笑うのか……。

結婚式の時のしかめっ面しか知らなかった私にとっては新鮮だ。

なんかドキリとしてしまった。

気のせいだ気のせいだと自分に言い聞かせる。

でもそんな時間が20分ほど過ぎ、三人は会話を楽しみ、注文していた飲み物を飲み終わると喫茶店を後にした。

私は喫茶店から出ていく三人を見送った後、ふと気が付く。

彼らが来てから全然本を読んでいなかった事に。

読みかけのページで止まったままだ。

あんなに楽しみにしていたKNさんの新刊なのに……。

何やってんだかなぁ。

本当にさ。

思わずそんな事を思いつつ、読書に戻る。

だが、この聞き耳は無駄ではなかったと思う。

だってさ、あの男の名前が、カジヤマって知る事が出来たのだから。

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