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敏腕弁護士の俺が悪役令嬢になった世界なんて許せるわけがない
敏腕弁護士の俺が悪役令嬢になった世界なんて許せるわけがない
景文日向
異世界恋愛悪役令嬢
2025年06月30日
公開日
2,134字
連載中
敏腕弁護士、新川虎太郎三十二歳。 ある日、同僚の門田から『庶民の私は、何にも屈せず愛を掴み取ります』というライトノベルを勧められる。面白さに憑りつかれ読破した虎太郎は、続きを購入し仕事後に読もうと思ったのだが……。 交通事故に巻き込まれてこの世を去る。 しかし、第二の人生が待っていた。小説内の悪役令嬢、リリス=エグモンドとしての人生が。 「転生って実在したのか……」 敏腕弁護士としての知略で、無事王子と結ばれることは出来るのか。恋愛苦手な理詰め虎太郎が異世界恋愛に挑戦する!

第一章 俺が悪役令嬢なんてどんな世界だ

第1話 転生って実在したのか

 新川虎太郎、今年で三十二歳になる弁護士。巷では、まあそれなりに敏腕だと言われるけど……俺だって人間。趣味の一つや二つはあるし、同期に勧められた小説を読むくらいの情はある。


 今読んでいるのは、門田という同期に勧められた小説。タイトルは『庶民の私は、何にも屈せず愛を掴み取ります』という……要はライトノベル。俺の趣味じゃない。門田の趣味だ。なのだが……意外と面白い。特に、ヒロインは転生者という設定が効いている。現代に生きてきた人間が、異世界の価値観に触れ変わる様子は興味深い。


 まあ、悪役側のリリスって女は気に食わないんだが。高慢すぎる。金髪縦ロールが悪役のテンプレートであるのは、この手の小説に疎い俺でもわかることだ。

 まあ、面白いし続編も買って読んで門田に感想言うか。お前もいい仕事するな、って。


 しかし、実際のところ弁護士というのは多忙な職業。朝から夜まで事件と向き合わなければならない、まあ俺が基本的に刑事専門だからなのだが……そんな職業だ。だからこそ、ああいう異世界転生モノに心が惹かれたのかもしれない。帰ったら続きを読もう。

「あ、ねえ新川くん。あの小説どうだった?」

「門田、お前たまにはいい仕事するじゃん。結構面白かったぞ。ヒロインが異世界転生者で健気だし。続編も買った」

 門田の表情が明るくなる。多分、ダメ元で勧めたとか、そんなこところだろう。俺がオタク系趣味じゃないの知ってるからな、こいつは。

「本当⁉ 続編も面白いから読んでね。約束だよ!」

「はいはい」

 適当にあしらい、退勤の準備をする。今日だったな、続編が届くのは。さっさと家に帰ろう。


 最寄り駅に着いて、駅前の横断歩道を渡る。しかし、今日も疲れたな……小説、気になるけど明日にしようかな……。残業した時って気力なくなるもんな。って、なんか車の走行音がすぐそばに……あ、これスピード違反か。避けられない、これ、俺ヤバいんじゃ——。


***


 目が覚めたら、明らかに俺の部屋ではなかった。もっと、こう……雑多な部屋なんだ。俺の部屋って。床に書類散乱してたり、さ……。第一、こんな視点の高いベッド持ってない。置いてない。入院したにしては、壁紙が派手だ。これ、どういう状況だ?


 体を起こすと、さらっと髪が靡いた。金髪……金髪⁉ 俺って黒髪だっただろ。え、勝手に染められた? いや、長さも合ってない。これは、はっきり言えば女の長さだ。で、直近の記憶にこの長さの女の記憶、あるけど……信じたくねえ……。


ベッドから抜け出し、全身が映る鏡を見る。そこに居たのは、間違いなく整った外見の少女で……少女? いや、俺今年で三十二歳なんだけど。確かに「新川くんイケメンだよね」って門田や他の人に言われること、あるけど……別に女顔って訳じゃないし。いや、落ちつけ。まずは、状況を確認しよう。

金髪縦ロールの女で、碧眼で、割と身長が高くて、不本意だが胸も大きくて、って……俺の記憶上にあるのは例の悪役令嬢リリスだけなんだが。俺も異世界転生したってことか? まだ仕事沢山あるんだけど。車に轢かれて死んだってことか? 絶対今頃、門田あたりが「新川くん、こんなに案件抱えてたの⁉ 噓でしょ……」ってなってるよ……すまん門田。でも、俺もしたくてこうなった訳じゃないからさ。許してくれ。死ぬとか思わなかったし。


 で、リリスの体に俺が……ね……これってどういう理屈なんだ。いや、理屈でどうこうなる問題ではないのだろうが。あの小説でも、転生のメカニズムは書かれてなかったし。

 とにかく、こうなってしまった以上リリスとしての人生を生きるしかない、んだろうな……どうしろと。俺に。

「お嬢様、お目覚めでございますか」

「うわっ⁉」

 いきなり扉を開けられ、声が出る。……うん、高いな。俺の声じゃない。実感が湧いてきたぞ……。執事つきって、やっぱ俺令嬢なんだな。悪役だけど。

「本日から、学園の通学日でございます。速やかに制服にお着替えください」

「わ、わかった……」


 どうやら、学園への通学日初日らしい。だとしたら、ヒロインであるエナと同学年なのがリリスだから……小説の最初の部分を今やっているのか。少しずつ呑み込めてきたぞ。

 執事は、制服を手渡すと去っていった。そりゃそうか。男だもんな。令嬢の服着せてたら、色々問題あるもんな。とりあえず、制服を着る。スカートってめちゃくちゃ無防備じゃないか? リリスに限らず、女性って凄いな。いずれ慣れるのか? これも。


「お嬢様、お着替えが終わりましたら髪型のセットを……」

 いや、メイド居るのかよ。なら、最初からこいつが部屋に入ればいいだろ。男がそんな簡単に女子の寝室に入るのは、問題しかない気もするが。いや、こんなにツッコミまくってたら俺の精神がもたない。少しはスルースキルを磨かないと……。なんて、髪を巻かれながら思ったり。


「お嬢様、朝食でございます」

「はい、いただきます」

 目の前に並ぶ豪勢な朝食。オムレツ、クロワッサン、サラダ、諸々……いや、量多くないか? 俺の普段の朝食、ゼリー飲料なんだけど。それは質素すぎるか。

 朝食は非常に美味しく、やっぱり貴族の家だなという感じだった。身支度を済ませ、執事に誘われるまま馬車に乗った。こんな経験をするなんて思わなかった……。

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