辺りは真っ暗だった。
どこにいるのかもわからない。動こうにも、体はまるで石のように固まっている。
すると、まぶしい光。一瞬で視界が・・・目の前に映ったのはガラスケースの内側。そして、自分自身。
そう、私は、指輪だった。
店のシャッターが開く音が響く。
店内には次々と人が入ってきた。
「これかわいい!」
「こっちのデザイン、好きかな・・・」
「喜ぶ顔見れるかな・・・・」
「似合うかな、どの指に付けようかな・・・」
嬉しそうな声、悩む声、期待に満ち溢れた声、指輪たちの周りには、そんな人たちの思いが飛び交っていた。
その時、優しく指に滑らせ、じっと見つめ、彼はそっと微笑んだ。
「これにします」
そうして私は、藤倉ゆうじ、憧れのアーティストの指にはめられることとなった。
ゆうじと過ごす日々は幸せだった。
雑誌の撮影、ライブのステージ、テレビ出演、私生活、どこに行くにも、私は、彼の指にあった。しかし、その幸せは長く続かなかった。
突然に閉ざされてしまう。
ゆうじは私を失くしてしまった。どこで落としたのか、または、外したのか、全く見当つかない。
スタッフ・マネージャー一緒になって探したがみつかることがなかった。
そして私は、ひとりぼっちで、道端に転がっていた。
やがてひとりの子供が私を見つける。
「わあ、キレイな指輪。どの指もちょっとおおきいな・・・」
その瞳は興味津々だった。
お母さんならぴったりのサイズかも・・・・
そう思って、駆け出した。
しかし、ドンッ、
誰かとぶつかり、その衝撃で私は、宙に浮いた。
落ちた先はトラックの荷台。荷物の隙間に入り込み身動きが取れなくなる。
「わぁどうしよう・・・」
もがいても、抜け出せない・・・・・その時
ふと目の前が真っ暗になった。
意識がふっと遠のく。
次の瞬間私は目を覚ました。
部屋の天井がみえる。カレンダーも、時計の針も動いている。
あー・・・・夢かぁー。
私はベットの上でぼんやりと天井を見つめていた。
そう、"夢"だったのだ。
先日指輪をオーダーしたのだった。
待ち遠しくて、楽しみすぎて、気持ちが高まりすぎて、私は指輪になった夢を見てしまったらしい。
夢とは言え、なかなかの壮絶な体験だった。まだ見ぬ、指輪を思い浮かべながらそっと微笑んだ。