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ダウン・リング
ダウン・リング
じゅラン椿
文芸・その他ショートショート
2025年06月30日
公開日
914字
完結済
気が付いたら、ショーウインドーのケースの内側。 身動きの取れない自分に、驚く。それは指輪。その指輪は、あこがれのアーティストに買われることとなる。 いつでも、一緒の時間を過ごし、ずっと続くと信じていた。 それは突然終了する。 その行方は・・・そして、最後はどうなる?

第1話 ダウン・リング

辺りは真っ暗だった。

どこにいるのかもわからない。動こうにも、体はまるで石のように固まっている。


すると、まぶしい光。一瞬で視界が・・・目の前に映ったのはガラスケースの内側。そして、自分自身。

そう、私は、指輪だった。


店のシャッターが開く音が響く。

店内には次々と人が入ってきた。


「これかわいい!」

「こっちのデザイン、好きかな・・・」

「喜ぶ顔見れるかな・・・・」

「似合うかな、どの指に付けようかな・・・」


嬉しそうな声、悩む声、期待に満ち溢れた声、指輪たちの周りには、そんな人たちの思いが飛び交っていた。


その時、優しく指に滑らせ、じっと見つめ、彼はそっと微笑んだ。

「これにします」

そうして私は、藤倉ゆうじ、憧れのアーティストの指にはめられることとなった。


ゆうじと過ごす日々は幸せだった。

雑誌の撮影、ライブのステージ、テレビ出演、私生活、どこに行くにも、私は、彼の指にあった。しかし、その幸せは長く続かなかった。

突然に閉ざされてしまう。


ゆうじは私を失くしてしまった。どこで落としたのか、または、外したのか、全く見当つかない。

スタッフ・マネージャー一緒になって探したがみつかることがなかった。


そして私は、ひとりぼっちで、道端に転がっていた。

やがてひとりの子供が私を見つける。


「わあ、キレイな指輪。どの指もちょっとおおきいな・・・」

その瞳は興味津々だった。

お母さんならぴったりのサイズかも・・・・

そう思って、駆け出した。

しかし、ドンッ、

誰かとぶつかり、その衝撃で私は、宙に浮いた。


落ちた先はトラックの荷台。荷物の隙間に入り込み身動きが取れなくなる。

「わぁどうしよう・・・」

もがいても、抜け出せない・・・・・その時


ふと目の前が真っ暗になった。

意識がふっと遠のく。

次の瞬間私は目を覚ました。


部屋の天井がみえる。カレンダーも、時計の針も動いている。

あー・・・・夢かぁー。


私はベットの上でぼんやりと天井を見つめていた。

そう、"夢"だったのだ。


先日指輪をオーダーしたのだった。

待ち遠しくて、楽しみすぎて、気持ちが高まりすぎて、私は指輪になった夢を見てしまったらしい。


夢とは言え、なかなかの壮絶な体験だった。まだ見ぬ、指輪を思い浮かべながらそっと微笑んだ。


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