======= この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
茶側伊智郎・・・辻鍼灸治療院の常連。高校茶道部後輩。
幸田仙太郎・・・辻の茶道部後輩。南部興信所所員。辻先輩には頭が上がらない。高校茶道部後輩。
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『やっと、天職が見つかりました。宇治市の抹茶の工場です。製造工程は、守秘義務とやらでやたらと説明出来ませんが、石臼で粉末状にするんです。めっちゃ均等になるんですよ。等分になる必要があるんです。前の仕事はリストラされたけど、その時のお客さんが紹介してくれたんです。勤務は』
先日、高校の高校茶道部後輩、茶側伊智郎が亡くなった。
交通事故だ。無免許の那珂国人が犯人らしい。すぐに逮捕されたが、茶側は即死だった。
少し前、区役所をリストラされた話をした。
その時、再就職した保険紹介会社もリストラされた話を、お通夜に一緒に行った、後輩の幸田が聞いてきた。
居たたまれない気持ちだった。
涙でハンカチはぐしょぐしょになった。
翌日、告別式に参加し、納骨まで付き合った幸田が、その夜、持ってきた紙片。
それは、茶側が未完成のまま、遺した『最後に書いた文章』だった。
「文章を見付けた、お兄さんの話では、誰に宛てて書いたものか分からなかったが、俺が興信所の所員と知って、調べてくれないか、と依頼してきたんです。これ、調べんでも分かります。辻先輩に宛てて書いた文章です。正式な依頼になったから、『仕事』として、抹茶の工場に行って来ます。」
「うん。」
幸田の話では、親族でトラブルは無かったらしい。だが、級友にも親族にも知られていたことは、恐ろしく運の悪い男だった、ということだった。
茶道部解散も、顧問の先生の茶器を、よろけて割ってしまったことだ。
暴力ではない。茶側の体格が邪魔をしたのだ。
先生は穏便に、と取りなしてくれたが、学校側は、私物を破壊したのだから、と廃部にした。実は、部室を明け渡して欲しかったところに、口実が「出来てしまった」のだ。
2日後。幸田は、夕方、3つのものを持って来た。
合格通知、『仮採用』としての1日分の給料、そして、香典だった。
その工場は、面接を受けただけで、まだ採用試験に受かった訳では無かった。
幸田は、高校の時の裏話や、茶道部廃部後も、お茶について勉強していたことを身内から聞いたと話した。
経営者は苦労人で、『架空の会社生活』を作ったのだ。
「親族とは別に、年季法要してやろう。なあ、幸田。」
「反対するわけないやないですか。何年つきおうてるんですか。」
小一時間、2人で泣いた。
冥福を祈る行為に、公式なんか要らない。
茶側は、いつまでも、私達の『後輩』だ。
―完―
※抹茶の製造工程は、まず茶園で碾茶(てんちゃ)を栽培し、摘み取った生葉を蒸して乾燥させ、石臼で挽いて粉末状にします。
抹茶の品質は、碾茶の栽培方法や製造工程によって大きく左右されます。例えば、栽培時に日光を遮断することで旨味成分であるテアニンを増やしたり、蒸し時間を調整することで色や風味を調整したりします。
抹茶は、その鮮やかな緑色と独特の風味から、お菓子や飲み物など様々な用途で利用されています。特に、近年は海外でも健康食品として人気が高まっています