目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

23


『ナナミンちゃんねる♡』2043/07/28 15:29

 配信タイトル:【横ダン四階】初めての横ダン四階層!ゲストもいるよ♡【ゲスト有り】

 現在の同時接続数:約一二〇万人

 SNSトレンドランキング:世界第三位

 エルチャ総額:五一万七六〇〇円


 検索サジェスト:ナナミン 横ダン四階 

 RGN アンナさま 阿修羅 裏切り芸人

 ニャーサーカー 黒髪ウサギ 



「——誰が裏切り芸人やねん!見えてんで、サジェスト!ホンマ、イジりすぎやろ」

「流石、リョウゴ先輩!親しみやすい!」

「ナナミン、フォロー雑すぎん!?」


 月煌蝶のメンバーも合流し、四階層の探索は続く。成人しているとはいえ学生であるカイトとアカネが参加していることを考慮し、ナナミンちゃんねるパーティは、午後五時には帰宅の途に着く予定である。定時上がりのサラリーマンやんな、とはリョウゴの言葉。

 さて、ナナミンちゃんねるパーティが探索しているものとは何か——


「——これー?」

「残念、ただのゴミやな」

「これでしょうか?」

「んー、ブラックオーガの爪やな。回収箱に入れといてな」

「これは如何でしょうか?」

「お、四階層から出るんやな、二等級の魔鉱石や。魔導師どもが喜ぶでー!」

「リョウゴ先輩!これは?」

「ぶはっ!ある意味、一番の大当たりやな。カナちゃん、配信観とるな?すぐに、全体共有の方、頼むわ——」


 今、何をしているかと言うと、鑑定スキル持ちのリョウゴによるお宝チェックである。

 ちなみに、解析スキルと鑑定スキルは別物であり、解析スキルは生物、鑑定スキルは非生物を対象としている。

 リョウゴを先輩と呼ぶナナミンが見つけてきたものは、確かにある意味では大当たりの代物。その黒くゴツゴツした物の正体とは——


「シャドウウルフとかいう魔物のふんや!つまり、狼のウン——」

「イヤァァァァァ!?」

「ぶふぁっ!?」


 コメント欄、大爆笑である。www、や、撮れ高キターーーーー、などのコメントで埋め尽くされていく中、てかシャドウウルフって新種?、や、名前からしてヤバそうだなシャドウウルフ、などの冷静なコメントも散見する。

 実際のところ、横浜ダンジョン四階層が、想定していた以上に厄介な場所であるのは間違いない。というのも、ほぼ全てのダンジョンに共通することの一つに、ダンジョンは特定の種族に支配された領域である、という仮説が有力視されていることにある。

 例えば、渋谷ダンジョンならゴブリン、横浜ダンジョンならオーガといった具合に、特定の種族によってダンジョン自体が支配されている。つまり、それ以外の魔物は淘汰されたのではないか、という見方ができるのだ。

 だが、階層が上がることで、特定の種族以外の魔物が存在する場合がある。今回のシャドウウルフもそれに該当する。


 そして、ここで重要なのが、オーガとシャドウウルフの関係性——敵なのか味方なのか、それを探る必要性が、この瞬間に生まれたのである。



「——こういうダンジョンに、宝箱置いとくんが、そもそもおかしいやろ」

「夢が無い!夢が無いよ、リョウゴ先輩は!」


 そうだそうだ、や、風花ちゃんとチェンジしろー、や、居眠り探索やめろー、といったコメントで埋め尽くされるコメント欄。


「誰が寝てんねん!バッチリ起床済みや!七時間睡眠やっちゅうねん!あと、フウカとチェンジしろいうた奴ら!ワイも同感や!絵的にワイはキツい!なんや、この美人率!みてみい!ナナミンにアンナはん、阿修羅まで美少年!ウサちゃん仮面つけとるあーちゃんも、実は、めっちゃ美少女なんやで!ワイは中身知っとるからな!ざまあみさらせ!」


 リョウゴとナナミンちゃんねるの視聴者がプロレスし始めたそもそものきっかけは、ダンジョン探索における、ある種の幻想——ダンジョンの中の宝箱問題である。

 まず、至極当然のことだが、大切な物を宝箱に入れておくのはともかく、それを宝物庫などのような保管場所以外に置いておくこと自体、正常な思考回路と経済感覚を有しているなら、まず絶対にあり得ない行動である。

 これは、ロールプレイングゲームを代表とするフィクションにおけるプレイヤー救済措置の一環として、ゲーム内で各種アイテムを取得可能にしたことが始まりである。言い方を変えるならば、ご都合主義。だが、プレイヤーがエンターテインメントとしてそれらのゲームを楽しむ都合上、必要な措置であり、それらを踏まえた上で楽しむものである。そこに、現実的な論理を持ち出すのはナンセンスだろう。

 だが、現実にダンジョンと呼ぶべき場所が現れたなら話は別となる。

 例えば、今、カイトたちがいる横浜ダンジョンに宝箱があったとしたら?十中八九、罠の類だろう。

 誰が、何のために、わざわざ装飾が施された箱を用意して、洞窟の中に置いたのか——横浜ダンジョンのような洞窟型のダンジョンにおいて、宝箱のようなものがあるわけがないのである。

 そう、実のところ、ダンジョンのタイプによっては宝箱がある——遺跡型と城塞型と呼ばれるダンジョンがそれに該当する。ただし、非常に少なく、日本には三つしか存在しない上、ゲームなどでありがちな、宝箱の中身が復活するようなこともないため、混沌とした争奪戦になっている。


 結局のところ、遺跡型と城塞型以外のダンジョンの方が稼げることの方が多いというのが、現在のダンジョンにおける経済環境である。









この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?