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その攻略対象、私が全部いただきますわ!
その攻略対象、私が全部いただきますわ!
けんゆう
異世界恋愛悪役令嬢
2025年07月01日
公開日
2.3万字
完結済
【R15】現代日本から異世界転移して、大聖女となったリサ。その周囲には皇太子、騎士、宰相家の兄弟、教師まで――彼女を狙う男たちが群がる、逆ハーレム状態が生まれていた。しかし、その様子を冷ややかに見つめる、美しき令嬢がいた。その名も悪評高き、アレクサンドラ・ローゼンシュタイン! 大聖女候補の座をリサと争って敗れ、婚約者にまで愛想を尽かされた「悪役令嬢」―― そんな彼女がとった行動は、なんとリサの恋愛対象になりそうな男を次々と誘惑し、大聖女の夫になる資格を失わせるという、前代未聞の暴挙だった。 アレクサンドラの密かな野望とは―― これは、美しきドSヤンデレ悪役令嬢が全てを蹂躙し尽くした先に、真実の「幸せ」を求める物語。 あなたはこの愛を、狂気と呼びますか? それとも――奇跡と呼びますか?

1 騎士団長ジャレッド、公爵令嬢襲撃す!

 真夜中の公爵邸。大きな天蓋つきのベッドで横になりながら、アレクサンドラ・ローゼンシュタインは、青白い月光に照らされた手紙をじっと睨んだ。


『セドリック殿下は、あなたとの婚約破棄を決意されました。大聖女リサ様を、皇太子妃になさるおつもりです。また、殿下の密命を受けて、騎士団長ジャレッドがあなたを襲撃しようとしています。どうかご注意下さい』


 差出人は、帝室顧問のトラヴィス秘書官。


「ふふ……私を皇太子妃に強く推してたのは、トラヴィスだものね。筆跡の乱れに、焦りが出てる。ご忠告、ありがたく受け取っておくことにするわ」


 彼女は冷ややかな笑みを浮かべながら、細い指先で手紙をくしゃりと握り潰した。


 その瞬間、窓が突然開き、鋭く風を切る音が耳に届く。


「そこね?」


 アレクサンドラが笑顔のまま優雅に指を鳴らすと、今まさにベッドに振り下ろされようとしていた剛剣が、ピタリと空中で静止した。


「なっ……魔法か……!」


 枕元に呆然と立ち尽くす剣の主は、騎士団長ジャレッド。その整った顔立ちは、驚愕と焦燥で歪んでいた。


「ジャレッド。騎士団長の立場もわきまえず、真夜中に皇太子妃候補の寝室を単身で襲うとは。悪趣味にも程がありますわね」


「……っ、公爵令嬢アレクサンドラ、覚悟しろ! 貴様は、この国を守護する大聖女リサ様の敵。帝室を破滅に導く悪女だ!」


 叫ぶジャレッドに、アレクサンドラは呆れ顔で振り向く。


「あら、敵? ……残念ですわ、あなたほどの騎士が、そんな浅はかな言葉に踊らされるなんて」


「黙れ! 大聖女の地位をリサ様と争って敗れ、その恨みと嫉妬から、リサ様の身を狙っているのだろう。宮廷中の噂だぞ!」


 ジャレッドは必死でもがいた。だが、魔法の力によって、彼の全身は完全に拘束されていた。アレクサンドラはゆっくりとベッドを降り、捕らえた獲物へと近づく。


「私が嫉妬して、リサを狙ってるですって? ふふ、まあ否定はしないわ。ねえ、ジャレッド。あなた、あの可愛いリサのことが、好きなの?」


「な、何をバカな……」


 ジャレッドの顔が、みるみる赤く染まる。


「隠さなくていいのよ。可憐で、純真で、守ってあげたくなっちゃうリサ。ああいうタイプ、あなた方みたいな騎士は大好きですものね?」


 ジャレッドの麻痺した腕がダラリと垂れ下がり、剣を取り落とした。アレクサンドラは彼の耳に息をフッと吹きかけながら、その鋭い瞳を覗き込む。


「でもね、リサはあなたのものにはならない。だって、セドリックが彼女を欲しがってるのよ」


「……殿下が、リサ様を?」


 ジャレッドの表情が大きく揺れた。その動揺を見逃さず、アレクサンドラは悠然と微笑む。


「ええ。大聖女の夫となる者は、結婚まで清らかな体を守らねばならない、という掟はご存じよね。だから、あなたも自分にその資格があると思って、リサを望んだのでしょ?」


 図星を突かれて、屈強なジャレッドが柄にもなく、恥ずかしげに目を伏せる。


「でも、あなたがどれだけリサを愛しても、セドリックが望みさえすれば、彼女は皇太子妃になれるのよ。だって、私はまだセドリックに、何も許してないんだもの。彼も、大聖女の夫になる資格があったってわけ。セドリックの思惑が、今ごろお分かり? あわれな騎士団長様?」


「くそっ……!」


 軽く舌打ちするジャレッドの顎を、アレクサンドラは指先でスッと持ち上げた。


「変な噂を吹き込んだのも、セドリックでしょう。あなたは、利用されて、けしかけられたのよ。ほら、私の目を見て」


 アレクサンドラは、ジャレッドの瞳を自分へと向けさせる。彼女の魔性の力が、あっという間にジャレッドを魅了した。甘美な誘いの声が、脳内に響く。


「そんなに辛いなら、私が慰めてあげても良くってよ?」


「ふざけるな!」


「強がってるのね。かわいいわ。でも、あなたの目は正直。こうやって、虐げられるのが好きなんでしょう?」


 アレクサンドラは、ジャレッドの紅潮した耳に視線を落とした。耳元で舌舐めずりしながら、反応を目でも味わう。彼女の舌の音が、彼の聴覚を徐々に支配していった。ジャレッドは思わず息を呑む。


「あら、当たりだったみたいね。セドリックもあなたも、外面は強気だけど、根は変態さんなのよねぇ?」


「……ち、違う……っ!」


「いいえ、同じよ。さあ、素直になりなさい。あなたがリサに惹かれたのも、清純で気高い彼女に踏みつけにされて、見下されて、虐げられたかったからではないの? でも、残念。あの子は、そんなことしてくれないわよ」


 アレクサンドラは、さらに魔力の放出を高め、残酷な言葉責めを放ちながら、ジャレッドの体を仰向けに横たえさせた。


「どう? 性悪で遊び好きと評判の貴族令嬢に、情けなく屈伏させられる気分は。癖に、なりそうでしょ?」


「や、やめろ……!」


 必死な素振りを見せるジャレッドに、アレクサンドラは顔を近づけ、すばやく手を動かしてみせながら、意地悪な言葉をかける。


「本当に、やめていいの?」


「……!」


 ジャレッドはその問いかけを聞くと、ピタリと動きを止め、震える瞳でアレクサンドラを見上げた。


「あなたが欲しいなら、リサのことなんか、忘れさせてあげるわ。私が、あなたのすべてを奪ってあげる」


 ジャレッドは、もはや逃れられないと悟った表情で、潤んだ目をアレクサンドラに向ける。


「お願いします……アレクサンドラ様……」


「何を、お願いするの? やめてほしいの?」


「……やめないで下さい。お願いします……」


「ふふ、よく言えました」


 彼女は満足げに笑うと、ジャレッドの黒髪を優しく撫でつけた。


「あなたの初めては、リサではなく、この私が全部いただくわ」


 アレクサンドラの体が、ベッドへうつぶせに覆いかぶさっていった。ジャレッドは、小さく切なげな吐息を漏らす。


「あなたも、セドリックも、リサが惹かれそうな男は、全部私が奪ってやるのよ。リサがどれほど欲しがっても、絶対に手が届かないようにね……」


 彼女は狂おしいほどの笑顔を浮かべ、ジャレッドを見下ろした。


「これでもう、あなたは私のものよ。私だけの騎士ナイトになってね、ジャレッド」


 月明かりの下、アレクサンドラの声はまるで呪いのように、ジャレッドの耳元へと禍々しく響いた。


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