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私、トップデザイナー!愛のない結婚なんてお断りよ!
私、トップデザイナー!愛のない結婚なんてお断りよ!
ナインズ
恋愛現代恋愛
2025年07月02日
公開日
3.1万字
連載中
デザイナーとしての夢を諦め、彼のために家庭に入った。 しかし最終的に得られたのは、虚しい妻という立場だけだった。 でも、私は時崎琴子。あなたがいなくても自分の力で生きていける。 離婚を決意した琴子は、徹にあれこれと邪魔をされ続ける。 けれど、徹の心に隠れているのは、ただ身体的な欲求だけなのだろうか。

第1話 八百万円、それで満足しろ


「月に八百万円の報酬も渡してるんだ。これ以上、何が不満なんだ?」

深夜。男はリクライニングチェアに身を沈め、声には一切の感情がなく、隣の女への無関心さが滲んでいた。


時崎琴子の胸にあった悔しさは、一瞬で凍りつき、頭の中が真っ白になる。

「報酬、ですって?」

これは、もともと時崎徹が約束してくれた生活費のはずだった。


「徹。」琴子は男の冷たい視線を受け止め、涙を流しながら訴える。「私はあなたの妻よ、売り物じゃない……」

一緒に寝て、お金をもらって、それが結婚?

それなら風俗と何が違うの?ただ籍を入れただけ?


徹にとって、結婚ってそんなものなの?

それとも、琴子にはそれしか価値がないとでも?




二時間前、琴子のもとに監視カメラの映像が送られてきた。

深夜、派手な服の女が徹のスイートルームをノックし、二時間も中にいたという。


最初は、仕事の出張中に軽く遊んでいるだけだと思った。

結婚して三年、徹の夜の欲求はいつも旺盛で、琴子の体を求めてくるのはほぼ毎晩のことだったから。

誤解かもしれない。何度も自分に言い聞かせ、冷静になろうとした。


今日は徹の誕生日だから、嫌な話はしたくなかった。後で聞こうと決めていた。

この三年間と同じように、サプライズの準備をして、手作りのケーキを焼いた。

結婚記念日も、誕生日も、いつも琴子一人で張り切っていた。


彼が不器用なだけだと思っていた。

だが、ニュースで見てしまった——徹が横浜の最高級ホテルを貸し切って、デザイン部長の白鳥美々の誕生日を祝っていた。

白鳥を喜ばせるために、全社員にお祝い金を配っていた。

しかもカメラの前で、白鳥に数千万円もするジュエリーをプレゼントした。


今、徹の首元に巻かれている限定版の深い青のネクタイも、一時間前、白鳥が結んだものだ。


もし、監視映像と誕生日パーティーだけなら、まだ確証にはなれない。

けれど、どちらも同じ女性——白鳥——がいたら?

誕生会で徹と見つめ合っていた白鳥こそ、彼の部屋に入った女だった。

琴子は見間違えない。


……それでも、まだ誤解かもしれない。琴子はかすかな希望を捨てきれず、恐る恐る尋ねた。


「徹、どうして今まで言わなかったの?よく一緒に出張に行くデザイン部長が、女性だって……」


徹の返事は冷たかった。

「仕事のことは、君が知る必要はない。」


彼は、白鳥の誕生日を祝うニュースが琴子のスマホに映っているのをちらりと見たが、琴子が作った味噌汁を飲むだけで、何の説明もしなかった。


「部下の女性に誕生日を祝うのも、仕事のうちなの?」

琴子は勇気を振り絞って問い詰める。


「俺のことに口を出すな。」


徹は眉をひそめ、冷ややかな目で琴子を見下ろす。

その威圧感に、琴子は押し潰されそうだった。


「荷物をまとめろ。出張に行く。」

徹は強い口調で言い、白鳥のことには一切触れず、琴子の質問を遮った。


琴子の感情がとうとう爆発する。

「どうして私が口出ししちゃいけないの? 私たちは夫婦でしょ! あなたが白鳥に贈ったジュエリーは、共有財産よ! 私にも知る権利があるはず!」


「たかが数千万円、いちいち報告するのか?早瀬家が俺から何百億も持っていった時は、そんなに細かく計算しなかったくせに。」

徹は立ち上がり、顔に冷たい怒りを浮かべる。


確かに結婚は秘密だったが、早瀬家が徹から多くの資源を得ていたことは事実だった。

それでも琴子は納得できない。

「私たちは夫婦よ! 白鳥と私を同じにしないで!」


「同じじゃない。君が彼女に敵うわけがない。」

徹の目に浮かぶ軽蔑は、鋭い刃となって琴子の心に突き刺さる。

「数千万円なんて、白鳥の業績に比べれば端金だ。比べるまでもない。」


その冷たい視線は、琴子が今まで見たこともないものだった。

優しく囁き、夜に彼女を求めた男は、まるで幻だったかのよう。

琴子の心は、血が滲むほど傷ついた。


「そんなに白鳥がいいなら、彼女と結婚すればいいじゃない。どうして私と結婚したの?」


目に涙を浮かべ、声が震える。

視界が滲み、徹の凛々しい姿だけが霞んで見えた。広い肩、細い腰、完璧に仕立てられたスーツ。

三年経っても、彼の顔を見るたびに胸が高鳴る。


ハンサムで、強く、家柄も申し分ない。欠点なんてひとつも見当たらない。

初めて出会った時、幼い頃に交わした婚約の相手が彼だと知り、一瞬で恋に落ちた。


彼が自分を好きかどうか――


三年前を思い出す。

早瀬家が倒産寸前、父が琴子を金のために年配の男へ嫁がせようとした時、徹が婚約を果たし、琴子は徹の妻になった。

彼も自分が好きだと信じていた。

でも今は分かる。彼の心はもう他人のもの。


平凡な妻でしかない自分より、徹と肩を並べて働けるビジネスエリート。

けれど、結婚前は自分も名門大学を出て、将来有望なデザイナーだった。

全てを捨てて、徹のためだけに生きることを選び、結婚を秘密にする約束も受け入れた。


徹は嘲笑するように味噌汁を置き、席を立とうとした。


「離婚しよう!好きじゃないなら……」

琴子は目を閉じ、叫ぶように言った。


愛のない結婚なんて、もう耐えられない。

彼の冷たさには耐えられても、自分にだけ冷たいのは許せなかった。


彼女の必死の訴えは、徹にとってはただのわがままにしか映らない。


「月に八百万円の報酬も渡している。それで十分だろう。」

徹は自信満々に言い放つ。彼にとって「報酬」という言葉は、琴子を侮辱しているつもりなど一切ない。


「琴子、自分の立場をわきまえろ。夢を見るな。離婚し早瀬家に戻ったら、今みたいな生活ができると思ってるのか?」


「健康な体があれば、誰もいなくても生きていけるわ。」

琴子は涙をこらえて二階に駆け上がり、クローゼットの奥から白いスーツケースを引っ張り出し、黙々と荷物を詰め始めた。




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