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第74話 再会

奈央はふと我に返り、隼人の探るような視線と目が合った。思わず「あの人を知っている」と言いそうになったが、隼人に信じてもらえず、逆にからかわれるのが怖くて言葉を飲み込んだ。


代わりに微笑みながら言った。「別に。ただ、彼はすごいなあと思って。若くしてシリコンバレーで名を上げ、思い切って会社を売却して資産を手に入れた後、帰国して新たなスタートを切ったんだもの。」


隼人は他の男を褒める奈央が一番気に入らない。鼻で笑い、「海外でうまくいかなかったから帰ってきただけだろう。日本の市場でちょっと儲けようとしているだけなのに、そんなに持ち上げなくてもいいだろ。」」と冷たく言い放った。


「どうしてそんな言い方をするの? 他の人の優れたところを認めるの、そんなに難しい?」


幼い頃の縁を抜きにしても、若くして成功した人は十分に尊敬に値する。


隼人は唇を引き結び、怒りを抑えたまま、これ以上この場で言い合いになるのを避けた。


ステージでは、挨拶を終えた伸也が軽く一礼し、立ち上がったとき、ふと視線をある場所に向けて驚いた表情を浮かべた。


主催者が微笑みながら拍手を送った。「小澤様、今後のご協力を楽しみにしております。」


伸也は視線を戻し、礼儀正しく握手を交わした。


宴は歓談の時間に移り、場の雰囲気も和やかになった。


奈央は隼人の言葉に胸が詰まり、もう彼を頼る気にもなれなかった。隼人が他の人と話している隙に、そっとその腕を離した。


彼女は伸也を探そうと思った。


もちろん、いきなり話しかける勇気はなかった。何年も会っていないし、相手が自分を覚えているとは限らない。無理に声をかけて気まずくなるのは避けたかった。


しかし、ドレスの裾を持ちながら人波の中を歩いていると、まだ伸也を見つける前に、突然携帯が鳴った。


カバンから取り出すと、見知らぬ番号だった。


胸が高鳴る。前回伸也にメールを返信した時、帰国したら連絡してほしいと自分の番号を伝えたのを思い出した。


この番号は――


「もしもし。」


「もしもし、奈央か?」受話器から聞こえてきた声は、さっきステージで話していたあの落ち着いた声そのものだった。優しく、落ち着いた声。


心臓が急に高鳴り、奈央は思わず周囲を見渡し、抑えきれない興奮を感じた。「伸也…なの?」


電話の向こうの伸也も、奈央の返事を聞くと同時に、人混みの中で彼女を見つけ、微笑みながら答えた。「見つけたよ。動かないで、今行くから。」


「うん!」


電話を切り、奈央の胸は高鳴り、言葉にならない思いがこみ上げた。


自分が結婚していること、すでに双子の母親であること、そして夫がこの場にいることも、今はすっかり頭から消えていた。ただ純粋に、伸也との再会を楽しみにしていた。


まるで幼い頃、父を亡くし、母にも見放されて、泥だらけの道で一人ぼっちだった時、伸也が差し出してくれた傘に救われたあの瞬間のようだった。伸也はいつも、神様のように現れて自分を困難から救い出してくれた。


奈央はずっと伸也をお兄さんだと思っていた。しかし、その絆も長くは続かなかった。小澤家が大都市へ引っ越し、やがて伸也は海外で学んでいると聞いた。


何年も離れ離れだった幼馴染と再会できるなんて、その喜びは言葉では到底表現しきれなかった。


伸也は、目の前の美しい女性をしみじみと見つめた。その顔立ちには幼い頃の面影が色濃く残っていたため、ステージからでもすぐに彼女を見つけることができたのだ。


しかし、今の奈央は、かつての臆病さや地味さをすっかり脱ぎ捨て、美しく堂々とした大人の女性へと成長していた。すでに人妻となり、その夫は明らかに裕福な人物だった。


「奈央、本当に君だったんだ。さっきは見間違いかと思った!」見つめ合った後、伸也が先に口を開いた。


奈央はまばたきをして我に返り、少し視線を落として微笑んだ。「私も……まさかここで会えるなんて。メールで帰国するって聞いてたけど、まさか本当に……驚いた。」


二人は見つめ合い、言いたいことは山ほどあったが、この場で長く話すのは難しかった。


その時、年配の男性が近づいてきて、伸也の肩を軽く叩いた。「伸也、知り合いに会えたのか?」


伸也は振り返り、「叔父さん、昔の近所の人なんだ。何年も会ってなかったけど、こんなところで再会するなんて思わなかったよ。」と紹介した。


「叔父さん」と呼ばれた中年の男性――小澤幸次は、奈央を見て意味ありげに微笑んだ。「伸也、この方は月島家の奥様ですよ。」


「月島家?」伸也は長年海外にいたため、名家の名前は知っていたが、私生活までは詳しくなかった。


小澤幸次が補足する。「月島グループのあの月島家だよ。」


「ああ……」と伸也は驚き、奈央に向ける目がさらに驚きを帯びた。夫の家が特別なのは想像していたが、まさか財界の頂点とは思わなかった。孤児だった彼女がどうやってそんな家と繋がりを持ったのか、不思議でならなかった。


そんな中、妻を見失って探していた隼人が遅れてやってきた。


「どこへ行ってたんだ。いなくなったら困るだろう。」隼人は奈央だけを見つめ、近寄って彼女の腕を掴み、低い声で叱った。


奈央は居心地悪そうに隼人を一瞥し、伸也を見ながら紹介すべきかどうか迷った。さっき隼人は伸也のことを悪く言っていたからだ。


彼女が口を開く前に、小澤幸次が笑顔で声をかけた。「月島さん、実は後でお話ししようと思っていたんですよ。それにしても奥様と伸也は昔からのお知り合いで、幼なじみだなんて、今日また再会できるなんて本当に素晴らしいですね!」


隼人の心は大きく揺れた。


妻がステージの「海外帰りのエリート」に目を奪われていた理由が、ここで繋がった。


まさか、知人だったとは――


表情には出さず、眉をわずかに上げて奈央を一瞥し、それから伸也に向き直り、にっこり微笑んだ。「こんな偶然があるんですね。小澤さんのご実家も、妻と同じ地元なんですか?」


伸也は穏やかに微笑んだ。「そうですね、幼い頃は同じ町で育ちましたが、中二の時に家族で引っ越しました。」そう言って隼人に手を差し出した。「月島さん、お噂はかねがね伺っております。」


相手は来賓であり、地元を代表する立場でもあったため、隼人も失礼はできない。心の中は疑念が渦巻いていたが、表面上は礼儀正しく、手を差し出して握手を交わした。


「小澤さんこそ、若くしてご活躍で素晴らしいですね。今後、ぜひご一緒できる機会を楽しみにしています。」

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