4月5日――東京都内のとあるドーム会場にて2人の女性アイドルが対決していた。
広大なドームの特設ステージ中央で互いに向き合って、その様子を観客が眺めている。
合同ライブ、対バン。どちらも違う。
バラエティ番組の対決企画、舞台演劇での1対1のシーン。どちらでもない。
2人のアイドルは、紛れもなく真正面からぶつかり合っていた。
『攻める攻める攻める!
会場に響き渡るのは実況役のアイドル扱いのアナウンサー。興奮した様子で実況席から身を乗り出して捲し立てている。
そんな半ば公私混同気味のアナウンサーの視線の先には1人の女性アイドルがいた。
白金真咲、端正な顔立ちの美女はおよそアイドルらしからぬ恰好をしていた。
ホワイトとブライトブルーで彩られた刺繍付きの肩出しドレス。それだけならばまだアイドルの衣装だと言えるが、違和感はその上から重なるように身体を覆っているモノだ。
全身を覆う半透明の薄い膜と、流線型のデザインの合金製の鎧。腕、胸、腰、背中、脚、身体の一部を保護するように分離した鎧が半透明の薄い膜にくっついている。
背中には白百合の花弁を想起させる一対のスラスター、胸には動力源の光り輝くコアパーツ。右手には剣と銃が一体になったデザインのカスタムウェポン、左手にはスタイリッシュなデザインの銀色の盾を装備していた。
高潔な女騎士のような出で立ちながらも、その姿は近未来的で、それがまた彼女の美しさをより一層引き立てている。
彼女が右手に持った銃を前方に構える。その銃口の先にいる、もう1人のアイドルに向けて。
『愉しくなってきた!』
銃を向けられているもう1人のアイドル――
彼女もまた不可思議な恰好をしていた。
白金真咲と同じく、アイドルらしいステージ衣装の上に半透明の薄い膜を全身にまとっていて、さらにその上から合金製の鎧を身に着けていた。腕、胸、腰、背中、足に鎧のパーツが半透明の膜にくっついている。
背中には天使の羽を想起させる一対のスラスラ―。胸には動力源の光り輝くコアパーツ。右手には出縁型のブラックとパープルの改造メイス。左手はなにも持っていないが、右手よりも少し大きなサイズのグローブを装着していた。
白金真咲が清楚で厳かな雰囲気に対して、四ノ宮湖鐘は苛烈な雰囲気を醸し出している。
2人のイメージは正反対で、戦い方もまた、対称的だった。
右手に持ったカスタムウェポンから、赤色の銃弾を放つ真咲。音速を越える銃弾は瞬く間に湖鐘の胸の中心を貫こうとする。
だが、真咲が放った銃弾は当たるよりも前に、湖鐘が左手を振って弾き落とす。
なんてことはない、いつも通りの動きに真咲も特に動揺することはなく次の行動へと移る。
スラスターから推進剤をふかしながら突撃する2人のアイドル。
互いに武器を構え、片方は冷静沈着な表情で、片方は愉しそうに笑顔を浮かべ、ステージの中心でぶつかり合った。