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【6-10】竜の髭

 そして両者は激突する。

 ヒカルの掌で迸るエナジービームは発射されることなく、そのまま掌で輝きを増していく。

 だが萌は少しも気圧されていなかった。オレンジ色の光刃を煌めかせてチェストコアを狙う。

 交差する二人。萌はビームソードを、ヒカルは掌を突き出してぶつけ合う。

 バチチチチッッッ! エナジービーム同士が干渉しあい、激しくエナジーが弾ける。

 これまでのヒカルは攻撃を躱すことばかり考えていた。

 しかし今は違う。相手のミスを衝くのではなく相手の攻撃そのものを破るために攻める。

 掌と剣でつばぜり合いをする中で、萌が息を吸い込む。

(今ッ!)

 直感的に隙の気配を嗅ぎつけヒカルが動く。

 萌が下がった瞬間前へ飛び出し、再び掌にビームを充填する。

「やって……やってやるッ!」

 ヒカルの強気なアクションに萌が声を張り上げる。エナジービームを前後に発振させ、両手で持って突き出してきた。

 オレンジ色の光刃がチェストコアへ届くその瞬間、ヒカルは右手でビームソードを掴む。

「止められるかッ!」

 攻撃は止まらない。ビームソードの先端がチェストコアに届き、瞬く間に耐久値が減っていく。

 ダメージは覚悟の上だ。ヒカルはビームソードを掴んだまま右手に力を込め、そのままエナジービームを放つ。

 バチィンッ! 真横からビームショットを叩きつけ、萌は勢いに負けてビームソードを手放した。

 時間の流れが遅くなる。突然の衝撃に萌が目を見開いて背を反らす。

 隙ができた――ヒカルはさらに相手を追い詰めるため瞬時に次の行動へと移る。

 唯一の武器を手放した今こそ攻めるチャンスだ。でもそれは向こうも同じ。萌だってそれは分かっているはず。

 ならば動いてくる。I.De.Aが相手の行動パターンを分析し、先の先を予測する。

 その無数の選択肢から最適解を選ぶ。萌が右手を手放した武器へと伸ばしたその瞬間、ハートブレイカーを飛ばした。

 ヒカルから分離した合金製の右腕は一目散に飛翔して萌の右手に取りつく。

 I.De.Aの上に別のI.De.Aが『装着』された。武器を引き寄せようとした萌だったが、合金製の右腕が拳を握り締めてそれを防ぐ。

 武器を失い、行動も一部制限された。無防備な萌に近づき、ヒカルは左手でデルフィニウムのチェストコアを掴む。

 全身全霊の力を込めてチェストコアを引き抜く。バキィンッと金属が割れる音が鳴り響き、I.De.Aの核が空中に舞う。

 照明を浴びてキラキラと光り輝くチェストコア。それを見て萌は咄嗟に左手を伸ばす。

 もう一度取り付ければまだ戦える。まだ負けてない。勝利への執着が萌を無理やり稼働させる。

 だが、その左手が届くよりも前に、萌の右手からエナジービームショットが放たれ、チェストコアを粉々にした。

「言ったでしょ、撃ち砕くって」

 ヒカルが右の掌を突き付けている。その動きを真似するように、ハートブレイカーが取り付けられた萌の右手はしっかりと開かれていた。



『ここでデルフィニウムの耐久値が尽きました! 千倉ヒカル! 勝者は千倉ヒカル! 絶望的な状況から這い上がり見事大逆転を果たしました! これは見事な逆転劇! 会場中のファンが執念の末奪い取った勝利に拍手を送ります!』

 実況役のアナウンサーが興奮した様子で捲し立てる。

 ステージの床に倒れて寝転がっている萌と、肩で息をしながらも立っているヒカル。もう何度も見てきた勝者と敗者の光景に四ノ宮湖鐘はフッと笑う。

「なかなかどうして、戦えるものじゃないか」

 隣にいる美澄がステージを見下ろしながら呟く。

 確かに終盤のヒカルの動きはまるで別人だった。それまでなにか重い鎖でもつけられているような鈍い動きだったというのに、萌にとどめをさされそうになったあの瞬間、ヒカルはなぜか立ち上がったのだ。

 ヒカルの中でなにか吹っ切れるきっかけがあったのだろう。

「彼女の次の対戦相手は君だろう? 湖鐘。もしかしたら足元を掬われるやもしれぬな」

 美澄がこちらへ視線をやり、不敵に笑う。歓声の中にいるヒカルを見て湖鐘は「まさか」と答えながらグーっと身体を伸ばした。

「ったく、ようやく起きたかアイツは。気付くのが遅いんだよ」

「君の発破が功を奏したといったところか……しかし、竜の髭を撫でたんじゃないか?」

「逆だよ。竜の髭を撫でたのはアイツの方だ。まったく、おかげで少しは本気で戦えそうだ」

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