佐藤涼太は、しょぼしょぼする目をもみながら、パソコンのブルーライトが深夜のオフィスで一段とまぶしく感じていた。
「この報告書、明日の朝までに仕上げておけ。わかったな?」田中課長が書類を机の上にドンと叩きつけ、冷たく笑った。「できないなら、もう来なくていいぞ。」
涼太は拳を握りしめたが、結局小さく「……はい」と答えるしかなかった。
――これが社畜の日常だ。
午前二時まで残業し、疲れ切った体を引きずりながら会社のビルを出る。東京の夜空に星が見えることは滅多にないが、ふと見上げると、一筋のまぶしい光が空を横切った。
「流れ星……?」
考える間もなく、その光は急加速し、まっすぐ自分に向かって落ちてきた!
「ドンッ——!」
目の前が真っ暗になり、意識が遠のく中、機械的な女性の声が頭の中に響いた。
【美女垂青システムを起動しました】
……
***
涼太はハッと目を開けると、自分がコンビニの入り口に寝転がっていることに気づいた。
「俺……流れ星に当たったのか?」頭に手をやるが、ケガはない。ただ、脳裏には妙なパラメータが浮かんでいた。
【現在の垂青値:0】
【引き当て可能な能力回数:0】
【近くに高評価ターゲットを検出】
涼太は驚きながら顔を上げる。
自動ドアが開き、店員の制服を着た一人の女性が現れた。背が高く、黒髪が滝のように流れている。凛とした美しさで、まるで絵から抜け出したお嬢様のようだった。特に、その澄んだ瞳にはプライドが宿っている。
【早川千雪】
【評価:SS】
【現在の垂青値:0】
「お客様、大丈夫ですか?」彼女は少し眉をひそめ、丁寧ながらもどこか距離を感じさせる口調で声をかけてくる。
涼太はまだ地面に座り込んでいることに気づき、慌てて立ち上がった。「あ、すみません。ちょっと頭がクラクラして……」
千雪は軽くうなずいて店内に戻ろうとしたが、そのとき、棚の商品がガタガタと音を立てて崩れ始めた。
「危ない!」涼太は反射的に千雪の手首をつかみ、もう片方の手で倒れそうな棚を支えた。
千雪は驚いたように目を見開く。彼女も、こんなに素早く反応できるとは思っていなかったようだ。
【早川千雪の垂青値+20】
【現在の垂青値:20】
【能力ガチャ引き当て回数:1】
涼太は心の中で「もう増えたのか?」と驚いた。
千雪はそっと手を引き抜き、少し柔らかい声で「ありがとう」と言った。
「どういたしまして。」涼太が微笑むと、店の外に金髪の不良たちが数人、こちらをじろじろと見ているのに気づいた。
「おい、お姉さん、こんな夜中にバイトかよ?」リーダー格の不良がタバコをくわえながら入ってきて、千雪の顔に手を伸ばそうとする。
千雪は鋭い目つきで後ずさろうとしたが、涼太が一歩前に出て彼女の前に立った。
「消えろ。」涼太は低く言い放った。
「は?生意気なヤツだな!」不良はニヤニヤしながら拳を振り上げる。
涼太は避けようとしたが、脳内に声が響く。
【能力ガチャを使用しますか?】
「使う!」
【一時的能力獲得:24時間格闘マスター】
一瞬で体に力がみなぎり、筋肉の記憶が呼び覚まされた。涼太は身をかわして逆手で不良の手首をつかみ、見事な投げ技で床に叩きつけた。
「ドンッ!」
他の二人の不良は固まったが、涼太はすかさず素早く一蹴し、あっという間に片付けてしまった。
すべて十秒もかからなかった。
千雪は呆然と彼を見つめ、その瞳に驚きの色が浮かんでいる。
【早川千雪の垂青値+10】
【現在の垂青値:30】
涼太は手を軽く振って、平然を装いながら笑った。「もう大丈夫ですよ。」
千雪はしばらく黙っていたが、やがてカウンターの下からホットコーヒーを一本取り出し、涼太に手渡した。
「どうぞ。」
涼太がコーヒーを受け取ると、指先が彼女の手にふれて、柔らかな感触が伝わってきた。
【早川千雪の垂青値+5】
【現在の垂青値:35】
――今夜の流れ星は、案外悪くないかもしれない。