朝日がカーテンの隙間から差し込んできたとき、涼太はようやく寝坊したことに気づいた。
「やばっ!」
ベッドから飛び起き、スマホを手に取ると——8時45分。
「30分も遅刻だ!」
慌ててシャツを着て、カバンを掴み玄関を飛び出すと、廊下で柔らかな感触にぶつかった。
「うっ……」
ほのかなクチナシの香りが鼻をかすめ、思わず相手の肩に手を添えると、しっとりとした素肌の感触が伝わってきた。
「すみません、僕……」と顔を上げた瞬間、言葉が止まる。
目の前に立っていたのは二十五、六歳くらいの女性。腰まで届きそうな黒髪に、白衣の下にはベージュのニットワンピースが、メリハリのある体のラインを鮮やかに引き立てている。金縁の眼鏡越しに見える瞳は少し眠たげだが、知的な美しさが漂っていた。
神宮寺綾
【評価:S】
【現在の親密度:0】
「新しく引っ越してきたの?」肩を軽く揉みながら、朝のけだるさが残る声で彼女が言う。「私は隣に住んでる神宮寺。東京中央病院で働いてるの。」
足元にいくつか段ボールが積まれていることに涼太は気づく。「手伝いましょうか?」
綾は微笑みを浮かべる。「助かるわ。」
【神宮寺綾 親密度+15】
【現在の親密度:15】
最後の荷物を運び終える頃には、涼太のシャツはすっかり汗で濡れていた。綾が冷えた麦茶を差し出し、涼太の引き締まった背中に目を留める。「体力あるのね。普段、運動してる?」
「たまに走るくらいです……」グラスを受け取ろうとした瞬間、綾が「あっ」と声をあげる。
「手首、前に脱臼したことある?」関節をそっと押さえ、プロの手つきでさっと診断する。「最近よく痛むでしょ?」
涼太は驚いた。先週の残業中に捻ったが、同僚にも気づかれなかったはずだ。
「動かないで。」綾はスーツケースから医療用テープを取り出し、手際よく固定してくれる。「今夜8時にうちに来て。診察の続きと、ついでに夕飯もごちそうするから。」
【神宮寺綾 親密度+10】
【現在の親密度:25】
***
会社で、涼太はパソコンの画面をぼんやりと眺めていた。
「佐藤くん?」柔らかな声が背後から聞こえる。同じ年で入社した小野麻衣が身を乗り出して画面を覗き込む。「このレポートのデータ、なんか……」
彼女はふと黙り込む。画面には『本格料理時短マスター講座』が表示されていた。
「え?佐藤くん、料理に興味あるの?」
「あ、なんとなく見てただけ……」慌ててページを閉じると、システム音が鳴った。
【交換可能スキル検出:料理マスター(親密度30消費)】
早川千雪のアイコン(35点)と神宮寺綾のアイコン(25点)をちらりと見て、迷わずスキル交換を選択する。
知識の波が頭に流れ込んだ瞬間、麻衣が急に叫ぶ。「課長が来たよ!」
九条桜が10センチのヒールを鳴らしてオフィスに入ってくる。黒いスーツに包まれたグラマラスな体に、社員たちは一斉にうつむいた。
「佐藤。」涼太のデスクの前で立ち止まり、赤いネイルの指で机を軽く叩く。「先期の市場分析レポート、やり直して。」
丸めた書類が投げつけられる——それは涼太が徹夜で仕上げたものだった。
麻衣は震え上がり、涼太は九条が去っていくスカートの揺れに視線が吸い寄せられる。システムウィンドウが目の前に表示される。
九条桜
【評価:A】
【現在の親密度:−20(敵対状態)】
***
夜7時50分。涼太はスーパーの袋を提げて綾の部屋の前に立っていた。ドアが開くと、立ちのぼる湯気の中で綾が髪をタオルで拭いている。浴衣の胸元から覗く谷間に、思わず喉が鳴った。
「ちょうどよかった。」自然な流れで部屋に招き入れられ、「味噌汁の味、見てくれる?」
キッチンでおたまを受け取った瞬間、綾が涼太の耳元に顔を近づけて囁く。「シャネルNo.5の香水……彼女でもいるの?」
「ただの同僚で……」
「嘘。」綾の指先が喉元をなぞる。「ここに口紅の跡があるわよ。」
そういえば、さっき九条に書類を投げられたとき首に触れられたことを思い出す。言い訳しようとすると、綾が突然ワイングラスを唇に押し当てる。「罰として三杯飲んで。」
【神宮寺綾 親密度+20】
【現在の親密度:45】
ほろ酔いの綾は髪をほどき、絹のような黒髪が涼太の頬をかすめる。「本当は医者なんて嫌い……父が院長で、完璧でいなきゃいけないの。」浴衣の帯をほどきながら、「ほら、ここ。医大時代の縫合練習の傷跡……」
涼太は慌てて滑り落ちる襟元を押さえるが、手のひらには柔らかな素肌の感触が広がる。システムアラートが激しく点滅する。
【警告!親密度50突破、酔いイベント発生】
【選択:A.流れに身をまかせる(好感度ロック) B.自制する(ストーリー分岐)】