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第14話 記憶の断片

病院の屋上で強風が涼太のコートをはためかせる。その目の前のホログラム画面が突然、危険を知らせる赤い警告灯を点滅させた。


【警告!早川千雪の好感度が異常に変動しています】

【現在の数値:100→12→89→100】


スマートフォンが震え出す。千雪からの着信画面には、幼い頃の彼女の写真——神社の前で、ツインテールの少女が汚れた柴犬のぬいぐるみを抱えている。


「涼太……」 受話器越しの声は、今までにないほど震えていた。「覚えてる……? 十五年前の夏祭りのこと。」


断片的な記憶が突然、脳裏をえぐる。


・花火大会の喧騒

・迷子の少女の泣き声

・狐のお面をかぶった人攫い

・木刀で悪党を倒した少年——割れたお面の下に現れたのは、若き日の早川健一


【記憶が解放されました】

【重要情報:幼い涼太が千雪を救ったことが判明】

【早川千雪の好感度が100で固定されました】


***


渋谷駅前の巨大スクリーンが突然ニュース中継に切り替わる。星野財閥の当主が記者会見で深々と頭を下げている。「……心筋ウイルス事件について、すべての責任は私にあります……」


カメラが観客席を映したとき、涼太の瞳孔が鋭く縮まる。雾島遥と藤原麗子が並んで座っており、その背後には白衣姿の綾が立っていた。三人の視線が同時にカメラ越しに涼太を見つめている。


スマホが激しく震え、3通のメッセージが同時に届く。


1. 遥:「狐のしっぽが見えたよ。今夜、温泉旅館で」

2. 麗子:「綾から全部聞いたわ。あなたの演技が必要」

3. 綾:「抗体に副作用が出た。今夜、全身チェックするから」


すべてのメッセージに共通の位置情報が添付されていた——東京タワー特別展望台。


***


夜の東京タワーは、燃え上がる炎のように輝いていた。涼太が特別展望台の扉を開けると、五つの影が同時に振り向く。


千雪は振袖姿で、色あせた柴犬のぬいぐるみを指先で握っている。綾は医療カバンを手にし、メガネ越しの視線は鋭い。遥の浴衣の帯は緩く、鎖骨の下に浮かぶ傷跡が怪しく光っていた。麗子はワイングラスを揺らし、そのダイヤモンドのピアスには星野葵の姿が映っている。そして葵自身は、何やら金属製の装置をタワーの避雷針に接続していた。


「先生……」葵がタブレットを掲げる。「父の自白は捏造だった。本当にウイルスを操っていたのは——」


突然、タワー全体が激しく揺れる。窓の外には、三機の黒いヘリコプターが包囲するようにホバリングし、サーチライトが展望台を照らしだす。スピーカーから早川健一の歪んだ声が響く。「残念だが、目撃者が多すぎる。」


涼太の【戦略シミュレーション】スキルが自動的に発動し、瞬時に五つの反撃パターンを弾き出す。しかし、彼が隣にいる女性たちへ視線を向けたその瞬間、システムがこれまでにない警告を表示した。


【絆値が臨界点を突破】

【最終モード解放:女神の加護】

【効果:全員の好感度共有、能力が無限に強化可能】


千雪の袖から短刀が滑り出る。「今度は私があなたを守る番。」


綾の注射器の針が青く光る。「抗体2.0バージョン。外道専用よ。」


遥が浴衣の帯をほどく——それは布ではなく、温泉旅館のメインサーバーと繋がるデータケーブルだった。「東京中の監視カメラは、こっちが掌握した。」


麗子は赤ワインを宙に投げる。液体は空中で氷結し、氷の結晶となって降り注ぐ。「藤原家の“冬将軍”ミサイル、いつでも発射可能よ。」


葵が最後のスイッチを押すと、東京タワー全体が巨大な電磁砲へと変貌する。「父に教わったの。狐を退治するには高圧電流が一番だって。」


涼太は微笑む。ホログラム画面の【確認】ボタンに手を伸ばし、五つの光が一斉に体内へと流れ込む。


「皆さん。」ネクタイを緩めながら言う。「狩りの時間だ。」


***


ヘリが爆発し、夜空を炎が染めたとき、システムの通知が滝のように流れる。


【早川千雪の記憶が完全回復】

【霧島遥の傷跡の秘密を解明】

【藤原麗子の復讐が完了】

【神宮寺綾の心のしこりが解消】

【星野葵が父親に認められる】


そして、最新の通知が特別に強調されて表示された。


【500ポイントの好感度を消費可能】

【最終ハーレムルートを解放しますか?】


涼太は煙の中から現れた五人の姿を見つめる。その瞳には、東京タワーの灯りよりも眩しい光が宿っていた。

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