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第53話 両者の対立


藤原家に戻ると、案の定家族の姿はなく、怪我をした藤原遥だけが居間でぽつんと待っていた。見るからに心細そうだ。


「姉!やっと帰ってきた!もう退屈で死にそう!」


藤原知世が入ってくるのを見て、遥の目がぱっと輝いた。


「たった二時間の外出だぞ?しばらく会わないうちに、瑶々はこんなに甘えん坊になったのか?」


後からついてきた藤原和也が笑いながらからかう。


「いいもん!誰かいてくれればいいの!」


遥はむくれた口をとがらせた。怪我で何もできず、気が滅入っていたのだ。


「誰でもいいのか?お前、ただ姉様に構ってほしいだけだろ?」


和也は珍しそうに思った。元来目が高く、三人の兄にもそれほど懐かない彼女が、帰国したばかりの知世をこんなに慕うとは?彼はもっと反抗すると思っていたのに。


「そうよそうよ!姉様がいいの!姉様に教わりたいことがあるんだから!」


遥は平然と言い放った。姉様はすごい立場なのだから、彼女が担当する「闇帳」や藤原家の裏の仕事について、きっと独自の見解があるはずだ。姉様の知恵を借りたかった。姉様が藤原家での自分自身の小さな権利を奪うなんて、露ほども考えていない――ひょっとしたら、姉様は藤原家そのものすら眼中になく、そんな瑣事に構う気もないのかもしれない。


「わかった。今からお前の部屋に行くか?」


知世の口調は淡々としていたが、どこか甘やかすような響きを帯びていた。


「うん!行こう!」


遥が即座に応じる。


完全に無視された和也は呆れながら首を振った。


「はいはい、姉妹の絆を深める邪魔はしないよ。知世、明日また叔父さんが新しい友達を紹介するからな」


「承知しました、叔父上」


知世が軽く会釈する。


姉妹はまっすぐに二階へ向かい、部屋に籠もること数時間。


話が進むうちに、話題は新月グループという大問題へと移った。


「姉さん、あの二人の老いぼれ、また何か悪だくみしてるんじゃない?」


「可能性はある。彼らが諦めるはずがない。ただ、どこから手を出すかはわからない」


「あと数日待てば、両親がグループ内の彼らの派閥を一掃する。そうすれば、次は奴らの番だ」


「両親はもう、奴らに対処する者を送り込んだのか?」


「ああ。家の若頭衆の残り二人は、まあ対処と言えるほどじゃない。せいぜい牽制だ。あの老狐どもは根が深すぎて、厄介極まりない」


「でも、ひょっとしたら『対処』ですら、ないかもしれない?」


知世が突然問い返した。


「姉さん?どういうこと…?」


「奴らの仲間になって、藤原家に対抗する者が現れるかもしれない」


知世はそっと遥の頭を撫でた。


「お前みたいに、藤原家に忠実な者ばかりじゃないのだから」


「ふん、そりゃそうよ!」


遥は姉様に褒められたと思ったのか、得意げな表情を浮かべた。


「とにかく、用心に越したことはない」


「うん、わかったよ!」


「電話に出る」


知世の携帯が鳴った。霧島秀一からの着信だ。


「了解、姉さん」


半分後、知世が電話を切った。


「ゆっくり休んでな。私は暗凰会に行く」


「何かあったの?」


遥が尋ねた。


「些細なことだ。心配するな」


「わかった。佐藤執事ならまだ現場にいるはず」


遥は好奇心を抑え、ただ一言付け加えた。


「ああ」


知世は単身、車を走らせ暗凰会の縄張りへ向かった。



到着した知世を、配下が恭しく中へ案内する。


広間には重い空気が張り詰め、二つの勢力がにらみ合っていた。


一方は霧島秀一を頭とする幻紫の面々。もう一方は佐藤執事を中心とした「夜梟」隠密衆だ。佐藤が連れている者はごく少数で、明らかに劣勢だった。床には幻紫の組員二人の遺体が横たわっている。


「お嬢様!」


佐藤執事は彼女を見るなり、頼りになる主を見出したように叫んだ。


「組長、ご足労おかけしました」


霧島秀一は即座に気勢を収め、恭順の姿勢を見せた。


「改めて聞く。どうしたというのか」


知世の声は平然としていたが、無形の圧力を放っていた。


「組長、今回はお宅の執事殿からご説明願います」


霧島は佐藤を一瞥し、事実を歪めると言われぬよう、彼に述べさせるよう促した。


「お嬢様、我々が交渉中、暗凰会の組員二名が落命しました。当時、我々の者以外に出入りした者はありません。故に、霧島組員殿は我々の仕業とお考えのようです」


佐藤が手短に説明する。


霧島が口を挟んだ。


「組織の慣例に従えば、このような場合即座に始末するのが筋ですが…組長のご威光を慮り、説明の機会を与えている次第です」


「ならば、お前か?」


知世の鋭い視線が佐藤執事を貫いた。


霧島の反応がこれほど激しい理由はわかっていた。幻紫の掟は彼女が一番よく知っている。特に中堅・下層の構成員にとって内輪揉めは何の得もない。故に内通の疑いは消える。となれば、問題は佐藤が連れてきた者たちの中にある可能性が高い。


「違います!」


佐藤の否定は力強かった。


「この佐藤、藤原家への忠誠は揺るぎません!暗凰会は裏ではお嬢様のご勢力。知世様が長期協力をご指名された相手です。この私が、そんな馬鹿げた真似をするはずがございません!」


彼にとって何の得にもならない。


「では、彼らは?お前は彼らの身元も保証できるのか?」


知世の視線が佐藤の背後に控える藤原家の隠密衆数名へと移る。


「絶対とは申せませんが」


佐藤はありのままを述べた。


「しかし彼らは、私が十年前に自ら育て、知世様がご覧の上で選ばれた者たちです。安易に藤原家を裏切るような真似は致しますまい」


事態は突然のことで、彼自身も腑に落ちない点が多い。知世が到着する前、暗凰会の者たちは殺気を漲らせていた。お嬢様という繋がりがなければ、本当に手を下していただろうと確信していた。


「改めて問う。この件に、お前自身は関わっているのか?」


「お嬢様、この私ならびに知世様は、本件につき一切存じ上げておりません!保証いたします!」


知世の視線が霧島秀一に向く。


「お前の見解は?」


「確信しております。犯人は彼らの中にいます」


霧島の言葉には迷いがなかった。


佐藤が言い訳しようとした。


「我ら夜梟の隠密衆の力量はご存じの通り。暗凰会の組員の多くは練達の者ぞろい。我々ごときが、お前たちの縄張りで二人を音もなく始末できるとでも?」


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