私たちが全ての陳情先を周って問題を解決し終えたのは、出発から一年を過ぎた頃だった。私とジェックスは、再び私の実家へとやってきた。
「もう帰ってくるとは思わなかったのに……」
「君だって住み慣れた家の方がいいだろ?」
私の帰りの知らせに、血相を変えて出て来た両親。
彼らの前に、騎士からお触れが申し渡された。
国王からの書状と、皇帝陛下からの書状の二つが、目の前で広げられる。
「本日をもって、当領地は我が帝国に併合された。よって速やかに領主邸宅を引き渡されたい」
国王からの書状には、帝国へ割譲したとの文言が記載されている。
この取引、それなりに裏から手を回したんでしょうねえ。
「というわけだから、お父様たちは速やかに出ていって」
「私たちの新居に致します故」
そこからは大騒ぎよ。
思い出すのもイヤになるくらい、見苦しく私に泣きついたり怒鳴ったり。
ああ~、おじい様が草葉の陰で泣いているわ。
今日の今日で出て行けというのも無体なので、翌日まで待ってあげたのは私の精一杯の温情ね。
というわけで、私は今日からこの『帝国領』の地方政務官……の補佐、となりました。まだまだ一人で任せるには勉強不足だって皇帝陛下に言われちゃった。
これから良い統治を行っておじい様の拓いたこの地を豊かにして、それから、それから、いつかは敏腕政務官として、帝国中央を牛耳ってやるんだから。私の皇帝陛下を護るために、ね。
というわけで、盛大な結婚パレードはまだまだお預けかな。
それより仕事の方が楽しいし。
「君には学ぶべきことが沢山あるだろう」
って、私の師匠も言ってるし。
もっとみんなを幸せに。そして彼も幸せに。
それが今の、私のおしごと。
おじい様に、少しでも近づけますように。
(了)