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悪役令嬢は手作りお菓子をふるまう
悪役令嬢は手作りお菓子をふるまう
はの
異世界恋愛悪役令嬢
2025年07月05日
公開日
1.1万字
完結済
「いやああああああああ!?」    私、ナタリー・ピエールは、転んだ拍子に思い出してしまった。  大下(おおした)みくりという前世の記憶を。 前世の知識によれば、周囲をいびりちらかした悪役令嬢ナタリー・ピエールに訪れる未来は一択。 そんなのは絶対嫌だ。 だから私は、皆の好感度を上げて、絶対に破滅を回避してみせる。 前世の知識を活かした私の特技、手作りお菓子によって。

第1話

「いやああああああああ!?」


 私、ナタリー・ピエールは、転んだ拍子に思い出してしまった。

 大下(おおした)みくりという前世の記憶を。


「お嬢様!?」


 転んだ私に近づこうともしない使用人たちのことなど放っておき、私は庭に倒れた体を起こして、すぐさま近くの窓へと走った。


「……やっぱり!」


 窓に反射する私の顔は、額から血を流している。

 けど、そんなことはどうでもいい。

 問題なのは、この顔だ。


 悪役令嬢ナタリー・ピエール。

 前世で私が遊んでいた乙女ゲームに出てくる悪役令嬢、そのままだ。

 まだ十四歳というあどけなさを残してはいるが、窓に映るつり目に三白眼の瞳が、睨みつけるつもりもないのに私を睨みつけている。


 どうやら私は、乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい。

 そうであれば、私の体を起こそうともしなかった使用人たちの態度にも頷ける。

 私が振り返れば、使用人たちは心配そうな表情を作りながらも、決して私と目を合わせない。

 当然だ。

 ここで私と目が合えば、悪役令嬢ナタリー・ピエール――いえ、今までの私の性格上、確実に私が転んだ原因を押し付けられて、罵声・暴力コースまっしぐらだ。

 最悪の場合、使用人という職を失う可能性さえある。

 私が使用人でも、ナタリーと目を合わせたりなんかしない。


 とはいえ、このまま誰も手当をしてくれないのは私が困る。

 乙女ゲームの世界は、前世の世界と比べて医療水準が低い。

 かすり傷一つとて、甘く見れない。

 私は前世の乙女ゲームの知識を思い返し、最も御しやすそうな使用人の名前を叫んだ。


「フラン! フランソワーズ・ルコント! 血を何とかして!」


「は、はい!」


 名指しをすれば、さすがに動かないわけにはいかないだろう。

 名前を呼ばれてしまったフランは、顔を真っ青にしたまま私の元へ駆け寄り、ポケットから取り出したハンカチを私の傷口に当ててくれた。

 そして、憐みの表情を浮かべる使用人たちの視線を浴びながら、私を医務室へと連れて行ってくれた。


 うん。

 前世の記憶を取り戻した今ならわかる。

 私は、酷い悪役令嬢だった。


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