一年後。
高等魔法学園。
ついに私、悪役令嬢ナタリー・ピエールの未来が決まる三年間がやってきた。
この一年で、パトリックとの仲もかなり良くなったと思う。
かつてのパトリックであれば、初登校であっても隣を歩いてくれるような優しさは見せなかっただろう。
でも、今は違う。
パトリックは、私の隣にいる。
「いいか! 絶対に、ナタリーに他の生徒を近づけるな!」
「イエッサー!」
ちょっと、過保護すぎるが。
付き人と一緒に常に辺りを警戒して、誰も私に近づけないようにしている。
私を他の男に盗られたくないという想いにはキュンと来るが、私の心はパトリック一筋だ。
もう少し、私を信用して欲しい。
「まあ、あれは第一王子のパトリック様よ。素敵ねえ。……相変わらず、大変そうですけど」
「まあ、隣を歩いているのはご婚約者のナタリー様よ。素敵ねえ。……遠くから見てる分には」
ああ、ほら。
パトリックの奇行のせいで、これから同じ学び舎を共にする方々が、私たちを引いた目で見ている。
私には、争いのない学園生活を送り、三年後に破滅しないという目的があるのだ。
そのためには、学友と親交を深めることも重要なのだ。
「パトリック様、私は一人で大丈夫ですから」
「いや、駄目だ! 危険すぎる!」
「では、お近づきの印のクッキーを渡すだけにします」
「!? それが一番きけ……ふぐうっ!?」
私が鞄からクッキーを取り出すと、香ばしい匂いが学園一帯を包んだ。
近くを歩いていた生徒だけでなく、遠くの方を歩いていた生徒も、私の方を振り返った。
空を飛んでいた鳥たちも、匂いに気をとられて飛ぶのを忘れてしまったのか、次々地面に落ちてくる。
掴みは、オッケーだ。
「馬鹿……な……。先週より……強烈に……」
「わ、私たちの……一年の訓練を……こんなにあっさりと……」
「では、行ってきますね」
パトリックと付き人は、いつも通り膝をついて動けなくなっている。
毎回、初めて私の手作りお菓子を見た時と同じ初々しい反応をしてくれるのは、私との初めてを忘れないようにわざとやってくれているのだろうか。
そうだとしたら、愛を感じてとても嬉しい。
私はクッキーを手に持ったまま、小走りで急ぐ。
クッキーも、早く食べて欲しいと言わんばかりに、パチパチとはじけている。
私は、さっきから視線を送っていた女子学生二人の前に立つと、固まっている二人にクッキーを差し出した。
「初めまして。私、ナタリー・ピエールと申します。これから三年間、よろしくお願いしますね。こちら。お近づきの印のクッキーです」
悪役令嬢ナタリー・ピエール。
特技のお菓子作りを活かして、楽しい学園生活もパトリックからの愛情も手に入れて、破滅の未来を回避してみせます。