あの日、空が燃えていた。
いや、正確には燃やされていたのかもしれない。
電柱が何本もなぎ倒されて、空気がバチバチと鳴って、まるで街全体が一瞬で地獄の門に飲まれたみたいだった。
俺は、その渦中にいた。
何もできず、走っていた。煙に巻かれ、爆風に吹き飛ばされ、視界が揺れて。
気づけば、誰ともはぐれて、一人で崩れた商店街の裏路地をさまよっていた。
何を――見たのかすら、曖昧なまま。
どこか遠くで、雷が何度も落ちる音がしていた。
雨は降ってないのに、水たまりがいくつもできている。空気は湿っていて、冷たい風が吹き抜ける。
「……なんで、俺がこんなとこに」
ふと、視界の端で何かが動いた。
心臓が跳ねた。
これは、ただの事件じゃない。これは――
そして、次の瞬間。
目の前に何かが現れた。
黒いフードを被った、人間──いや、人間のような、何か。
肌は青白く、まるで水をそのまま凝固させて形作ったような――そんな「何か」だった。
「……やめろ」
言葉が漏れたのは、自分でも驚くくらいの本能だった。
だけどそいつは、俺を見ても何の反応も示さず、静かに手をかざした。
次の瞬間、地面が凍りつき、背後の建物が一瞬で粉々に砕けた。
(あ――死ぬ)
そう思った。
でも、その刹那。
俺の身体の奥で、「何か」が爆ぜた。
視界が赤く染まる。
熱い。皮膚が焼ける。でも、不思議と痛くない。
それよりも、目の前にある異形の存在を――「燃やせ」って、
本能が叫んでた。
轟音。炎。
何かが手のひらから迸り、世界が一瞬で真っ赤に染まった。
次に意識を取り戻した時、俺は地面に座り込んでいた。
目の前に、焼け焦げた空洞と、崩れた建物。
そして――
「やっと見つけた。大丈夫? 怪我してない?」
銀色の髪に、蒼みがかった瞳。
俺の視界に映ったのは、制服姿の――女だった。
年齢は俺とそう変わらないように見えたけど、背筋はまっすぐで、目つきは鋭かった。
「……誰、だよ。あんた」
「
彼女はそう名乗って、静かに手を差し伸べてきた。
その声は、妙に落ち着いていて、でも――どこか、優しさのにじんだ音だった。
「君はもう、普通の人間じゃない。
人ならざる力を得た者――異能力者なんだ」
「私たち零室は、そんな人たちを集めてる。一緒に来てくれるかな?」
これが、俺と彼女との──零室との出会いだった。
この出会いが、俺の世界を変えたんだ。