「さっきの、思い出せる?」
「……炎を集中させて、掌から叩きつけた。腕の奥まで熱が突き抜けて、最後は……爆ぜた感じだった」
「じゃあ、それをもう一度やってみよう。今度は――ゆっくりでいいから、圧縮することだけ考えて」
言われた通り、俺は右手を前に出し、力を込めた。
熱は、すぐに応えた。皮膚の下を走る赤い筋。血管のように、神経のように、炎が巡る。
「……まだバラけてる。呼吸、整えて。炎が震えるのは、君が焦ってる時だよ」
「……っ、わかってる」
深く息を吸い、吐く。空木の声が耳に残る。焦らず、形を決める。
──燃えろ。
炎が、掌の中に凝縮された。
「……今だよ」
声と同時に、拳を前に突き出した。
轟音とともに、熱が爆ぜた。だが、さっきのように制御不能ではない。
中心から青白く光る一点の炎が、確かに生まれていた。
「……これは」
「おおー……やったじゃん!今の。熱が圧縮されて、色が変わってた」
「青い炎、か。自分でもびっくりした……。力がまとまってる感じがした。破壊力も、桁違いだった気がする」
「それ、名前つけようよ」
「名前……」
少し迷ったが、俺は呟いた。
「……
そういう感じの、技だ」
「いいね、それ。じゃあ次は?」
「……次?」
「君にはまだ、移動の技が足りてないよね。戦いの中で、生き延びるには、速さも必要なんだよ?」
「……なるほど」
「お、いいね理解が早い」
俺は黙って頷き、再び力を込める。
今度は、全身の細胞に熱を送るイメージで。一点集中ではなく、全域点火。
「速さ……」
熱が膨れ上がる。体の内側から、まるで燃えていくような感覚。
「跳ねろ、《焔》――!」
足元が爆ぜる。視界が一気に流れ、次の瞬間、俺は部屋の端に移動していた。
「……全身を燃やして、瞬間的に跳ぶ。
俺は、かすかに笑った。
空木が、目を見開いていた。
「すごいよ、灰戸くん。たった今、自分だけの技を二つも生み出したんだよ?」
「……まだ一つ、ある」
「え?」
俺は、拳に再び熱を宿す。
「最初に桐嶋先輩の影から出た鎖みたいに炎を、繋ぐ──」
集中する。拳から伸びる、炎の鎖。
それが空中に蛇のように伸びて、模擬標的の柱に絡みつく。
「……縛った……!」
訓練が終わる頃には、俺は汗だくで、その場に倒れ込んでいた。
けれど、どこか清々しかった。
「……ありがとう、空木」
「ううん。私は何もしてないよ。君の《焔》が、ちゃんと応えてくれただけだよ。……ねえ、灰戸くん」
「ん?」
「この先どんな任務があっても、その炎は……君が決めるんだよ。誰のために、何のために、燃やすか」
手のひらには、まだ微かに熱が残っていた。
形になった俺の力――異能。誰かを救うための、火だ。
そして、俺はようやく一歩目を踏み出したんだ。