桐嶋──いや桐嶋先輩との適応テストが終わったあと、しばらく俺はホールの床に座り込んでいた。
「ねえ、まだ立てそうにない?」
背後から声がした。振り返ると、柊 空木が水の入ったボトルを差し出していた。
「……助かる。えっと……なんて呼べばいい?柊さん?」
「空木で。呼び捨てでいいよ。みんなからもそう呼ばれてるし、現場じゃそっちの方が呼びやすいでしょ」
「分かった。じゃあ空木、ありがとな」
「ふふ。どういたしまして」
そう微笑む彼女からボトル受け取って一気に喉を潤すと、思わず息を吐いた。
「ちょっと無茶したね。でも……かっこよかったよ、最後」
「かっこいいって感じじゃなかったろ。火柱で手も感覚ないし、今も焦げ臭い」
「うん。灼熱と焦げの灰戸くんって感じだった」
空木は悪戯っぽく笑ったが、その瞳はまっすぐだった。
「桐嶋さん、言ってたよ。火力は十分だって」
「でも……制御できてない。あれじゃ、誰かを巻き込むかもしれない」
「うん。だから、これから覚えていけばいい。炎って、どんな時に一番強くなると思う?」
突然の問いに、俺は言葉を探した。
「ちゃんと、形が決まってる時だよ」
空木は、ホールの中央を見つめながら言葉を続けた。
「広がる前に、形を決めてあげること。そうすれば、炎は『技』になる。衝動に流されるんじゃなく、君が決めていいんだよ、どこに、どれだけ、どう使うか」
「……難しいな、それ」
「難しくて当然だよ。でも、君の炎ってすごく素直だから」
「素直?」
「うん。ちゃんと、君の気持ちに反応してる。だからきっと、怖がらずに付き合ってあげた方がいいよ」
空木は、そう言って立ち上がった。
「今から、訓練室の小ブロック、借りてきた。自分の炎と向き合うには、いい場所だよ」
「付き合ってくれるのか?」
「もちろん。今日から同じ部隊なんだから。それに、君がどんな技を生み出すのか、ちょっと楽しみだしね」