姫ちゃんの説得に成功し、結ばれたオレたちは、イーリスが待つ自宅へと帰ってきて、イーリスに経緯を説明することになった。
イーリスは、いつもの無表情で話を聞いてくれ、『姫さん、おめでとうございます』と温かい言葉を送ってくれた。
彼氏としては、二人目の彼女を紹介するような気分で複雑だったが、姫ちゃんも嬉しそうに『ありがとう……これから、よろしく』と言っていたので、よしとしよう。
そして、今日は解散しようという話になり、姫ちゃんが玄関に向かったので、二人でそれを見送ると首を傾げられる。
「なにしてるのよ? 帰るんでしょ?」
「え? うん。だから、また明日ね?」
「は? あんたも帰りなさいよ。姫と、その……つつ、付き合うことになった当日にイーリスとイチャつく気なわけ?」
「そういうつもりはないけど。オレもココに住んでるから」
「は?」
あれ? そういえば、オレとイーリスが同棲してるって話、姫ちゃんは知らないんだっけ?
♢
そして、翌日のこと、オレとイーリスの自宅には、新しい住民が増えることとなった。さっそく、ギャーギャーと騒ぎ立てている。
「あんたはあっちの部屋で寝なさいよ!」
「嫌です。姫さんが向こうで寝てください」
「はぁ? あんたはこいつとしばらく一緒にいたんでしょ? 譲りなさいよ!」
「嫌です」
「あ、あの、二人とも……ケンカしないで……」
ベッドの上で、パジャマ姿で睨み合う二人を見て、めちゃくちゃ気まずくなる。
姫ちゃんは、オレとイーリスが同棲していることを知るやいなや、めちゃくちゃ怒り出して、結局、その日は泊まることなった。そして翌日、一緒に働いた後、姫ちゃんの家まで連行され、亜空間魔法に荷物を放り込み、その足でうちまでやってきたのだ。
荷ほどきもほどほどな状態で、今の寝室にはベッドが三つも置けないので、オレの隣でどちらが寝るかで揉めているところなのである。
この場をどう納めたものかと考えていると、矛先がオレに向くことになる。
「……あんたはどっちと寝たいのよ?」
「え?」
「そうですね。勇者ダンはどちらと寝たいんですか?」
「え? え? そんなの……聞かないで……」
オレはいたたまれなくなって、ゆっくりしゃがみ正座する。二股男が偉そうに立っているのは、おかしいと思ったからだ。
「あんた、なにしょんぼりしてるのよ? さっさと決めなさいよ」
「勇者ダンは私と最初にくっついたので、私を選ぶべきです」
「そんなの関係ないわよ! 姫はこいつのこと大好きなんだから!」
「私も大好きです。だから関係ありません」
パジャマ姿の二人の美少女が言い争う。それを見てオレはなんて罪深いことをしているのだと実感した。
「……死のう……」
「は?」
「勇者ダン?」
オレは自分の首を両手で握って力を込め始める。こんなクソ男生きてる価値はない。
「バカバカ! 何やってんのよ!」
姫ちゃんがポカポカ頭を叩いてくる。
「やめてください。勇者ダン」
イーリスがオレの手を握った。少し力を緩める。
「だって……オレみたいな二股クソヤロー……死ぬべきだよ……こんなに、二人をケンカさせて……」
「……はぁ……わかったわ、三人で寝ましょ」
「そうですね。勇者ダンがそれでいいなら、私はいいですよ」
「え? それじゃあ、解決しないんじゃ……」
「うるさいわね! あんたは黙ってハーレムしてなさいよ!」
「ハーレムしてなさい?」
首を傾げていると、手を引かれベッドに寝かせられる。
姫ちゃんがイーリスのベッドを浮遊させてピッタリ横にくっつけた。オレをベッドとベッドの間にグイグイと押して移動させる。
そして、二人が左右に寝転んで布団を被った。
「こ……これは一体……」
「おやすみのちゅー……しなさいよ……」
「へ?」
「私にもお願いします」
「……」
こ、これが……『ハーレムしなさいよ』なのか……
あまりに蠱惑的な光景を目にして、先ほどまでの葛藤がどこかに消えてしまう。
オレは働かない脳みそを放置することにして、二人に近づいていった。