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黒のシフト
黒のシフト
笹虎生光
SF時間SF
2025年07月07日
公開日
1万字
連載中
黒崎悠斗、17歳の高校生は、ある夜、薄暗い路地裏で謎の少女と出会う。黒いフードコートに身を包み、夜空のような青い瞳を持つ彼女は、突然「時間は直線じゃない」と告げ、悠斗の名前を知っていた。疑問と警戒を抱く間もなく、少女が指を鳴らすと、世界が歪み、悠斗は見知らぬ終末的な風景――崩壊したビル群と赤い空が広がる高校の屋上へと飛ばされる。少女はここが「失敗した世界線」だと語り、時間軸の歪みを喰らう怪物「クロノハウンド」が襲来。少女は時計の針のような短剣を手に戦う準備をしながら、悠斗に「逃げろ」と警告する。 次の瞬間、悠斗は再び路地裏に戻るが、額の汗と心臓の鼓動はさっきの出来事が現実だったことを物語る。少女はマスクを外し、寂しげな笑みを浮かべながら、謎の記号が刻まれた黒い時計を差し出し、「君の未来と私の過去を選べ」と告げる。時計の針が動き出した瞬間、悠斗の時間は再びシフトする――。 時間と世界線が交錯する中、悠斗は少女の正体と、彼女が求める「選択」の意味を探る。自分の「時間」を守るため、怪物と戦い、幾多の世界線を渡る冒険が始まる。果たして、悠斗が選ぶ未来とは、そして少女の「過去」に隠された真実とは何か?

第1話 ゼロの刻

「時間ってさ、ほんとに直線だと思う?」


その声は、まるで耳元で囁かれたかのように近くて、でもどこか遠くから響いてきた。

俺、黒崎悠斗(くろさきゆうと)は、薄暗い路地裏で立ち尽くしていた。

目の前には、さっきまでそこにいなかったはずの少女が立っている。

黒いフード付きのコートに身を包み、顔の半分を隠すようにマスクをしていた。

目だけが見えて、その瞳はまるで夜空を閉じ込めたような深い青だった。


「は? 何だよ、急に」


俺は警戒しながら一歩下がる。こんな夜中に、こんな場所で話しかけてくる奴にロクな奴はいない。

それに、さっきまで誰もいなかったこの路地に、いつの間にか現れたこの少女――どう考えても普通じゃない。


「時間は直線じゃないよ、悠斗。もっと複雑で、もっと脆いものだよ」


少女はくすりと笑って、マスクの下で口元がわずかに動いた。

名前を呼ばれた瞬間、背筋に冷たいものが走る。

なんで俺の名前を知ってる?


「お前、誰だよ? 何の話してんだ?」


俺はポケットに手を突っ込み、スマホを握りしめる。

いざとなれば警察に連絡――いや、こんな状況で警察が役に立つとは思えないけど。


「自己紹介は後でいいよね? だって、ほら、もう始まっちゃってるから」


少女が指をパチンと鳴らす。


その瞬間、世界が歪んだ。


空気がねじれるような感覚。

視界がぐにゃりと曲がり、路地のコンクリートがまるで液体のようになって揺れる。 次の瞬間、俺は見知らぬ場所に立っていた。

いや、待て。見知らぬ場所じゃない。ここは……俺の通う高校の屋上? でも、なんかおかしい。

空が妙に赤くて、遠くのビル群が半分崩れてる。まるで終末映画のセットみたいだ。


「な、なんだこれ!?」


俺は慌てて周りを見回す。

さっきの少女はすぐ横に立っていて、平然とした顔で空を見上げていた。


「ここ、君の『現在』の世界線の一つだよ。……まあ、ちょっと失敗した方の世界だけどね」


少女は肩をすくめて、まるで天気の話でもするような軽い口調で言った。


「世界線? 失敗? 何だよそれ! 説明しろ!」


頭が混乱してくる。時間移動? 並行世界? そんなのラノベやアニメの中だけの話だろ。なのに、目の前の景色はあまりにもリアルで、鼻をつく焦げた匂いまで感じる。


「説明する時間はないよ。だって、ほら、来るから」


少女が指差した先。屋上のフェンスが突然爆ぜ、黒い影が飛び込んできた。

人間じゃない。獣とも違う。全身が黒い霧のようなものでできていて、赤い目だけがギラギラと光っている。


「『クロノハウンド』。時間軸の歪みを喰らう獣。君がここにいるせいで、ちょっと目をつけられちゃったみたい」


少女はそう言うと、腰のホルスターから何かを取り出した。

黒い短剣――いや、刃の部分がまるで時計の針みたいに動いてる?


「逃げろ、悠斗。じゃないと、君の『時間』が全部喰われちゃうよ」


少女が笑いながら短剣を構える。クロノハウンドが低く唸り、俺に向かって飛びかかってきた。


***


目を開けると、俺はまた路地裏にいた。

さっきの屋上の光景は夢だったのか? でも、額に浮かぶ汗と、胸のドキドキは本物だ。少女はまだそこにいて、俺をじっと見つめている。


「ねえ、悠斗。時間って、選べるものだよ。君がどの世界線を生きるか、どの『刻』を刻むか。さあ、選んで?」


少女が手を差し出す。その手のひらには、小さな黒い時計が浮かんでいた。文字盤には数字じゃなく、謎の記号が刻まれている。


「選ぶって……何をだよ?」


俺の声は震えていた。

少女はマスクを外し、初めてその顔を見せた。整った顔立ちに、どこか寂しそうな笑みを浮かべている。


「君の未来を。――そして、私の過去を」


彼女の言葉が、俺の心に突き刺さる。

その瞬間、時計の針が動き出し、俺の時間が再びシフトした。

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