部屋の中、時計の針の音がカチカチと響いていた。高熱が出て、頭がズキズキ痛む。ベッドの上、左右へと寝返りを打っても、落ち着かない。スマホ片手にオルゴールの音楽を鳴らして、もう一度仰向けで寝ると、何とか眠りにつくことができた。
寝始めてから数時間後、開けてない窓が自動的にカーテンごと開いた。外では、カラスが2羽、カァカァと鳴いている。何が起こったんだろうと、不思議に思いながら、窓の外を覗く。外はキラキラと輝く満点の星空にありえないくらいの綺麗な虹色の湖が広がっていた。湖の上には1羽の黄色いアヒルが静かに浮かんでる。さっきのカラスはどこにもいない。
あまりにも綺麗で気になり、目の前で確かめたくなった。外に出ようと、裸足のままスニーカーを履いて、玄関のドアを開けた。
虹色の湖の上には黄色いアヒルだけじゃなく、たくさんのアゲハ蝶が花畑のように咲いていた。一歩近づいただけで、バサバサと一気に飛び立っていく。
湖の奥の方、覆い茂った木々が見えた。まるで森の中に迷いこんだアリスのようだ。ということは反対側からうさぎが飛び出してくるのはないかと予測するが何も出てこなかった。
「そこで何をしてるんですチュ?」
足元を見ると、小さな灰色ねずみが言葉を話している。ねずみが小綺麗なモーニングの紺色スーツまで着ていた。
「……え?!」
「人間様がここに来るということは、何か大変なことが起きてるんですチュ?」
「きゃー!? ねずみ。気持ち悪い!」
体の肩の方まで登ってきたねずみに何だかかゆくて思わず、両手で追い払った。そんなことなど慣れているとでも言いたいのか新体操のようにクルクルと回転して、着地していた。
「……もう、乱暴はよくないですチュー」
「そっちこそ、許可なく登って来ないで」
「んじゃ、おあいこってことですチュー」
腑に落ちない言葉に納得できなかった。すると、ねずみはスーツを整えて、こちらを見た。
「そろそろ、夢のエンディングのようですチュー」
「は?!」
湖の脇にいた私の足元に大きな黒い穴が開き始めた。まさか、下に落ちろということなのかと逃げる間もなく、真っ逆さまに体が落ちて行った。
「きゃーーーー」
「バイバイチュー!」
手をねずみを眺めながら、真っ黒い空間をひたすら落ちていく。
明るい景色に変わると、ベッドの上、白い天井が見えた。さっきまでのことは全部夢だった。大量の汗を流して、熱は下がっていた。
外ではカラスが鳴いていた。