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第2話 静かな図書室で

「こっくりさん、こっくりさん。おいでください」


 今日はたまたま誰もいない昼休みの図書室の一番奥の方で小さな木のテーブルがあった。そこに、こっくりさんシートを作って置いた。友達がいない巻穂まきほは、1人で十円玉に人差し指を置いて、呼びかけた。ルールは知ってる。本当は、4人で十円玉を押さえないと行けない。心霊現象や目の見えないものを誰も周りは信じないだろうとクラスメイトさえも誘えない。


 そもそも、会話をしたことさえない。ぼっちだ。授業中、好きな人とペアを組まないいけない時も集められた人数が奇数。いつも巻穂だけ取り残されてしまうのだ。本当は友達がほしい。声もかけてほしい。誰でもいい。本ばかり読んで誰とも話したことがない巻穂はなぜか話かけてもくれない。


 妖怪図鑑ばかりを読んでいるからか。表紙絵で怖がられたのかもしれない。


「やっぱり1人じゃ、こっくりさんも来てくれないんだ。誰も相手してくれない……」


 十円玉が床に落ちた。巻穂は、その場にうずくまる。こっくりさんシートは本棚の下にスルリと滑り落ちていく。赤く書いた鳥居のマークが赤く光り出した。

 開けた覚えのない本棚近くの窓、カーテンが大きく揺れ動いた。


「え……?」


 巻穂は、窓の方へ近づいていく。図書室の下は学校の中庭。昼休みが終わりそうなのか誰もいなかった。


「なんで窓開いたのかな」


 振り返って図書室の本棚の方に体を向き直すと、通路に九尾の白くてしっぽに赤い模様がある狐が現れた。


「わぁ?!」


 あまりにも突然のことで腰を抜かす。信じられなかった。


わらわを呼んだのはなんじか?』


「うへ?! いいいい……た、た、たぶん。私です」


 腰を抜かしたまま、しどろもどろに手をあげた。狐は、びっくりしている巻穂を気にもせず、話を進める。後ろのしっぽがくねくね動いて、猫のようだ。


『何か用事があってのことなのか?』


「あ、はい。そ、それはそうですとも」


 ひょいっとジャンプをして、巻穂の顔の目の前に近づいた。


『何の用だ?』


「ちちち、近いです!!!」


 両手で近すぎる狐の体を押そうとした。すると、図書室の入り口の引き戸がガラガラと開く。


「誰かいるの?」


 図書室の先生が職員室から大量の本を持ちながら、入ってきた。中から声が聞こえた。

 すると、開いていた窓はバチンとしまって、カーテンがふわりと整った。いたはずの巻穂の姿は先生には見えなかった。図書室の奥の方、狐の姿もなく、こっくりさんシートだけ落ちていた。

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