「おねぇちゃーん!」
タローは必死の思いで洞窟へと続く森の中を駆け抜けた。少しでも早く、姉を助け出すために。
だが、不意に足元の枝にひっかかってしまう。
「あぅ…!」
バランスを崩し転んだ右膝には、大きな傷ができ、血がぽたぽたと滴り落ちる。
朝の光に照らされて、赤い血は一層鮮やかに目立っていた。
「お姉ちゃん…痛いよぉ…どこにいるの?」
涙まじりの声で呟き、ゆっくりと立ち上がった。
しばらくして、ついに洞窟の入り口に辿り着く。
冷たい風が吹き抜け、空洞の奥からはひんやりとした音が響いていた。
「…あれ?」
タローの視線の先に、無残な光景が広がっていた。
「あぁあ、ああああ!!」
そこには、魔王に喰いちぎられた姉の首が転がっていた。
しかしその顔は、無垢で安らかな眠りについているかのようだった。
絶望に心を引き裂かれたタローは、姉の首を抱きかかえ、震える足で洞窟を後にした。
「遅くなってごめんね。さあ、帰ろう、僕たちの家へ」
島の終着点にある崖にたどり着くと、彼は見下ろした。
眼下には果てしなく広がる海と、その間に無数の岩がごつごつと散らばっている。
「ただいま、お姉ちゃん」
それから後、少年タローの行方は誰にも分からなくなった。