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第16話 ただいま


「おねぇちゃーん!」

タローは必死の思いで洞窟へと続く森の中を駆け抜けた。少しでも早く、姉を助け出すために。


だが、不意に足元の枝にひっかかってしまう。

「あぅ…!」


バランスを崩し転んだ右膝には、大きな傷ができ、血がぽたぽたと滴り落ちる。

朝の光に照らされて、赤い血は一層鮮やかに目立っていた。


「お姉ちゃん…痛いよぉ…どこにいるの?」

涙まじりの声で呟き、ゆっくりと立ち上がった。


しばらくして、ついに洞窟の入り口に辿り着く。

冷たい風が吹き抜け、空洞の奥からはひんやりとした音が響いていた。


「…あれ?」


タローの視線の先に、無残な光景が広がっていた。


「あぁあ、ああああ!!」


そこには、魔王に喰いちぎられた姉の首が転がっていた。

しかしその顔は、無垢で安らかな眠りについているかのようだった。


絶望に心を引き裂かれたタローは、姉の首を抱きかかえ、震える足で洞窟を後にした。


「遅くなってごめんね。さあ、帰ろう、僕たちの家へ」


島の終着点にある崖にたどり着くと、彼は見下ろした。

眼下には果てしなく広がる海と、その間に無数の岩がごつごつと散らばっている。


「ただいま、お姉ちゃん」


それから後、少年タローの行方は誰にも分からなくなった。


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