月時雨
恋愛結婚生活
2025年07月07日
公開日
4.3万字
連載中
結婚七年、藤原悠真の陽菜への態度は冷たいままだった。それでも藤原陽菜は微笑みを絶やさなかった。
陽菜は悠真を深く愛していたから。
いつかきっと、この冷たい心を温められると信じていたから。
しかし待っていたのは、悠真が別の女性に一目惚れし、寵愛を注ぐ現実だった。
それでも陽菜は婚姻を守り続けた。
誕生日当日、はるばる海外まで悠真と娘の景子を訪ねた陽菜を待っていたのは、空っぽの部屋だけだった。
悠真は娘を連れてあの女性のもとへ向かっていた。
その瞬間、陽菜の心は完全に冷め切った。
自分が育てた娘が他の女を「お母さん」と呼んでも、もう胸が痛むことはなかった。
離婚届けを作成し、親権も放棄。陽菜は潔く去り、父娘との一切の関わりを断った。
悠真が離婚届にサインするのを待つだけとなった。
家庭を捨て事業に打ち込んだ陽菜は、かつて自分を蔑んでいた人々が舌を巻くほど莫大な富を築いた。
ところが、いくら待っても悠真から離婚の話は出てこない。
むしろ、かつて家に帰らなかった男が頻繁に帰るようになり、べったりとまとわりついてくる。
「離婚? あり得ない」
かつて高慢で冷徹だった悠真が、彼女を壁に押し込めてそう宣言した時、陽菜は初めてこの男の本質に気づいた――